男は勇者に憧れ、幻滅する。
ウォレイ城で軽く休憩を取った後、玉座の間にてエターシと今後の展開について話し合う事にした。
話しあう前に、魔王の儀であった事を彼に一通り話してやった。
「そんな事が・・・、初代魔王様は私も聞いただけで拝見した事は無いのですが」
「ふむ、俺は魔国の人間が知っていて、俺達異世界人を生贄にしているのかと思ったが」
「確かに、この世界の人間ではどれほどの強者を持ってしても魔王の力を取り込むことは不可能だと思いますが、まさか意識までも取り込む事になるとは・・・」
彼の反応からするに、本当に知らなかったようだ。
だが、魔王に意識を乗っ取られた次代の魔王達を見て何も思わなかったのだろうか?
「だがエターシ、お前は6人の魔王を見てきたのだろう?なぜ気付かなかった?」
「今まで魔王の儀を終えられた魔王様は皆一様に同じような風格をお持ちでしたので、そういうものだと認識しておりました」
うーん、魔国の有力者は勇者に倒されと聞いていたし、エターシがどこか抜けていたり、あまり強い魔力を持っていないのは仕方ない事なのかもしれない。
無事に勇者を倒す事ができた時は、この魔国の改革が必要なのかもしれない。
そんな後の事を考えるよりも、眼前の敵を知る事の方が何倍も大切なことだ。
敵を知り、己を知れば百戦危うからず、だ。
俺は勇者についての情報をまったく知らない。最強と言われても、今の俺を超える力となると、どれほどのものがあるだろうか?
「でだ、勇者の力と言うのはどんなものなんだ?最強と言われただけではいまいちわからないんだが」
「彼の勇者は、異世界人ですかな?その特徴である強い魔力と身体能力を持ち、なにより不死身でございます」
なるほど、そりゃチートだわ。
強さだけで言ったら俺の想像の方が応用性も高い分有利に見えるだろうが、戦いにおいて根本的な違いがそこにはある。
俺の想像は言うなれば無限の武器だ。
たとえ百万の軍勢が来ようと、全てを灰に変える事ができるだろう。
対して勇者の不死は、空気だ。
剣で斬っても、銃で撃っても、燃やしても、潰しても、そこにあり続ける事に変わりは無い。
普通だったらそんな相手に勝てるわけがない、と諦めてしまうだろうか。
だが、残念ながら俺はそこまで素直な性格をしていない。
俺の想像に致命的な欠点が存在する以上、不死にも何らかの対策はあるだろう。
「今までの魔王、というか全て初代なんだが。奴はどう戦っていたんだ?」
「それが、大変申し上げにくいのですが・・・」
「ん?なんだ、遠慮せずに言ってみろ」
「私達は足手纏いですので、戦いには参加していないのです。魔王召喚の時代には我々に戦う力は無く、魔王様が一人で戦いを挑まれに聖王都へ向かわれていたので」
この発言には流石の俺もドン引きした。
以前他人の力に頼るのは心外だ、などと豪語しておいて、いざ戦いとなると一目散に逃げに転じるその姿勢に。
異世界人の身体を乗っ取る術を身につけた魔王が、なんの策略も無くイノシシのように同じ事を繰り返しているという事に。
もういっそ滅んだ方が良いのではないだろうか?そうとさえ思えてくる体たらくだ。
右手で顔を覆い、深く溜息を吐く。
一方、エターシは何が問題なのだろうか分からない、といった様子だ。
たった百年、虐げられた時代に生きたというだけでこれほど人は弱くなるのだろうか。
その答えは俺が一番よく知っている。
かつて、前世界に生きていた俺がそうだったからだ。
俺は悪くない、全ては人が、政治が、時代が悪い。戦争は勉強で教わった、争う事は悪い事だ。
みんな違ってみんな良い?そんな世界はクソ喰らえだ!
「もういい、解った。こうなったら是が非でもこの世界を変えてやる。たとえ全てをぶち壊そうともな」
「おぉ、では勇者の元へ向かわれるのですか?」
「準備が整い次第、勇者の国の全てを破壊しに行く、それまでに不死に対するあらゆる対抗手段を考える。それしか勝機は無いだろう」
エターシの表情からは不安と希望が垣間見え、今度こそはという強い思いが見て取れた。
そう思うなら少しは知恵を絞って欲しいところだが、戦い方どころか、志すら曖昧な彼を頼ったところで雀の涙ほどの価値もないだろう。
まさか、最強の勇者がこれほど用意周到だとは思わなかった。
もしかすると、俺と同じ世界からやってきた知識人か、もっと争いの多い時代、世界の人間なのかもしれない。
天下百年の計。言うは容易いが、それを成すには周到な準備と力が必要なはずだ。
まだ見ぬ最強の敵を前に、恐怖や不安よりも、狂気が俺を包んでいく快感。
「クックックッ。そうだ、俺が求めていたのはこういう感覚だ!最高じゃないか異世界!」
テンションが上がった時の悪い癖である独り言を呟き、そんな自分がテンプレ魔王になりかけている気がして気を引きしめなおす。
魔王っていうだけで負けフラグが立ってるのに、テンプレなんて役満じゃないか・・・。
「では、これから俺は勇者打倒の想像を始める。準備が整い次第連絡を、」
俺の言葉は最後まで綴られる事は無く、玉座の間に突如鳴り響いた轟音にかき消された。
何が起きたのか、一瞬理解できなかったが、土煙の中から現れた人影を見た瞬間、なんとなく想像はついた。
城の天井に空いた穴から降り注ぐ光とに照らされ、煌々と立ち込める土煙。顔は逆光で良く見えないが、そのシルエットがいかにもだったからだ。
煌びやかな軽鎧に身を包み、背中には一振りの剣、どうやってセットしているのか不思議なツンツン頭。
服装の趣味はアレだが、どう見てもテンプレ勇者です。本当にありがとうございました。
「てめぇが新しい魔王か?ムカつく顔しやがって、めんどくせぇからワンパンでおわらせっぞ」
「・・・おぉぅ?」
「なっ、貴様!?英雄王!なぜこのタイミングで!?」
土煙が治まり、そこから出てきた勇者の顔を見た瞬間、その衝撃に椅子からずり落ちそうになる。
そんなギャグ展開を晒す気は毛頭ないので、なんとか足に力を入れて持ちこたえた。
(頭の悪い)喋り方といい、その(出来の悪い)顔といい、完全に一昔前のヤンキーだった。
そんなヤンキー風な男が勇者の格好をしているのだ、出来の悪い冗談か、コスプレか。できれば前者であって欲しい。
どうしよう?ちょっとは合わせてふざけた方がいいのか?
「ほぅ、貴様が勇者か?」
「あ?なんだてめぇ、舐めた口きいてっとぶっ殺すぞ?」
今まで魔王を殺さなかった事なんてあるのかよ?あれ、俺の思ってた知識豊富で熱血溢れるイケメン最強勇者は?
「ならば勇者よ、お前にこの世界の半分をやろう」
「はぁ?お前頭悪いんじゃねぇのか?この世界は俺の為にあるんだよ、全部俺のもんだ、今更何言ってんだ」
やだー、頭悪いのに頭悪いって言われた・・・、死にたい。
と、冗談はさておき。これが世界最強の勇者で英雄で国王な勇者・・・?もう肩書めんどくさいな、ヤンキーでいいや。
このヤンキーが俺にとってのラスボスということらしい。
おい、この世界生み出した神様とやら、居たら出てこい。マジギレしてやる。
はい、神様です。真面目なシーンをギャグテイストで台無しに!
大丈夫かこの異世界・・・?
感想お待ちしております。