想像の本心と本性。妄想で偶像。
「魔王様!?ご無事ですか?」
「んっ・・・?エターシ?」
「儀の様子がいつもと違ったので心配いたしましたぞ」
唐突にかけられた言葉に目を開けると、そこには青白い顔を2割増しくらいにしたエターシの姿があった。
自分の中に流れる不思議な感覚に戸惑いながらも、なんとか身体を動かそうと試してみる。
「これが、魔力の影響か?感覚が鋭くなったような、ふむ。暫くは慣れるのに時間がかかりそうだ」
「なにはともあれ、ご無事なようで。安心いたしました」
座り込んだままの俺に彼が手を差し伸べてくれる。その手を取って立ち上がりたいのはやまやまなのだが、これから彼にする事を考えてそれは憚られた。
俺は自分の安全と安心の為にも、後方の憂いは全て排除しなければならないのだから。
彼の手を無言で拒否すると、一人で立ち上がり、自分の手に視線を落とす。
淡い煙のような物が微かに見て取れる。
それは血液の流れのように、俺の身体を循環していた。おそらく、これが魔力なのだろう。
だとすれば、この魔力を使って異能を発動させる事ができるはず。
「なぁ、エターシ・・・」
「? なんでございましょうか」
「お前は、どこまで知っている?」
「・・・!?」
エターシの周りを取り囲むように、6本の剣が浮かび上がる。
何も無いはずの虚空から現れた剣に驚きながら、自分の置かれた状況を不思議に思っているのだろうか。
「魔王様、これはいったい?」
「質問をするのは俺だ、エターシ。それとも、答えられないか?」
身動き一つせず、目だけで魔力の流れを操る。想像通り、触れていない剣は俺の思うがままに動かす事ができた。
エターシの背後に存在する剣をゆっくりと動かすと、彼の首筋に触れるか触れないかの位置でピタリとその動きを止める。
続いて右側の剣が閃き、目にも止まらぬ速度で反対側の首筋に置かれた。
速度も正確さも想いのまま、二本の剣は彼の首を挟んで交差し、いつでも殺せるという認識を否が応でもさせてくれるだろう。
「質問の意味が分かり兼ねますが」
「ではもう少し解りやすく質問してやろう。魔王の儀について、どこまで知っている?」
少しずつ答えの選択肢を減らしていく、調子に乗って油断しているわけではない。確かに今、彼の命は俺の手の中にあるが、それだけで上に立ったと思うのは早計だ。
「魔王の儀とは、初代魔王様の残留魔力を新たな魔王様へ継承するための魔術儀式、そう認識しております」
「その言葉に嘘偽りは無いな?」
そう言った彼の言葉を信じるべきか、俺の力を信じるべきか。
百年もの間、この魔王の儀に係わってきたエターシは、これが異世界の人間を糧として初代魔王を復活させるものだと知っているかもしれない。いや、定石ならば知っているだろう。
だとすれば、初代魔王を本当の意味で倒し、その力を吸収した俺を新たな魔王として迎える、なんてことはまず無いだろう。
間違いなく俺はここで殺される。
つい先ほど、死と隣り合わせの状況を味わってきたばかりだ、暫くはあんな心地は味わいたくない。
そんな思いが、俺の胸の内をちらつき、イラつかせる。なぜこんなにもイラつくのか?以前の俺だったら、こんな時どうしていただろうか。信じる人も、信じられる力も持たなかった俺は・・・。
無意識に突っ込んだポケットの中に、あるはずの無い物が存在していた。
ライターと煙草、俺がそこにあって欲しいと望んだ物だ。この場合、想像したと言った方が正しいか?
身体に悪い、お金はかかる、他人には嫌われる。何一つ良い事なんて無い代物だが、なにも持たない弱い俺が生きる為に必要な物だった。
数週間ぶりに肺に入れた有毒な煙にむせる。魔法で生み出した煙草に有毒な成分があるのか謎だったが、口から鼻へ抜ける白い煙はいつもと変わらず、不味かった。
「あー、そうだ。こういう感覚だったな」
「・・・」
「どうした?今の俺ならすぐにでも殺せるだろう?」
煙の中に含まれた真実。先程まで完全に具現していた剣が所々霞がかったり、安定せず浮き沈みしていたりと、不穏な挙動を見せていた。
俺がそう想像したからなのか、この煙草には想像の力を阻害する力が備わっているようだ。ただし、阻害するだけで無効化できるわけではないが。
「殺す?ありえませんな」
「ほう?」
先程までの緊迫した雰囲気とは違い、今の彼に死の恐怖は無かった。むしろ、待ち望んでいた物を手に入れた子供のようだ。
「魔王の儀で何があったのか、私には分かり兼ねますが、魔力を自在に操るその力、何者をも寄せ付けない風格、貴方こそ、我々の待ち望んでいた魔王であると・・・」
「あー、もういい。わかった、疑って悪かったよ」
まるで神様に出会った信仰者のように平伏す彼の姿に、逆に困惑してしまう。
お手上げのポーズを取ると、彼の周囲に漂っていた剣も同時にその姿を消した。
もう一度、大きく煙を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
そういえば、彼は歳の割に感情を隠すのがヘタだった。初めは演技の可能性も考えたが、そんな大層な事ができる演者ではないだろう。
たった数週間の付き合いだが、人間観察は割と得意だと自負している。
「なにわともあれだ。いつまでもこんなところでは落ち着けないんだが?」
「はっ!?失念しておりました、直ぐに城へ帰りましょう」
勢いよく立ちあがると、飛竜車へと向かい、出発の準備を始めた。
帰りの道は恐ろしく楽だった。魔力がこの身に宿った今、多少の体調不良にはならないらしい。魔力によって自己回復力が上がるからだとは思うが、この恩恵は前世界でも欲しかった。
それと同じく、帰りの道でエターシが放った一言、
「それにしても、随分と勇ましくなられましたな、本当に見違えてしまいました」
その言葉が意味する事をその時の俺は、魔力が備わったから雰囲気に変化があるのだろうか?程度にしか考えていなかったのだが。
まさか、自分の姿を本当に見間違えるとは、思わないよな?普通。
ウォレイ城に帰ってきた俺は一休みしようと自室へと向かった、自室にはもちろん鏡がある。
男の俺が鏡に向かう時間など本当に少しだ、だからと言って自分の顔を忘れるほど呆けてもいなかったはずだ。
ベッドに倒れこむ寸前、鏡に映った姿に唖然となり、閉じかけた目を見開き、鏡の前で自分の姿を確認する。
「やだ、なにこのイケメン・・・」
そう、イケメンが居たのだ。
以前の俺の印象が多少残ってはいるものの、八割増しでイケメンになっていた。
暫く鏡と見つめ合っていたが、途中から、
「良くなったなら問題は無いよな?・・・なんか複雑だけど」
なんて自己完結で一先ずの決着はついた。
実は初代魔王との戦いの時、俺の身体は一度完全に失われ、異世界仲間の能力、回復を使用した時、俺の想像がそのまま身体として修復されたわけで、今の姿は以前の俺が思い描いていた俺の姿だと気づいていたが、なんとなく複雑な気分になったから気付かないフリをしておいた。
あー、イケメンになりたい(願望
もう少し理由づけとかフラグとかしっかり書いた方がいいかと思いましたが、爺さんとのフラグとか
感想お待ちしております。