敵は最強の勇者?オワコンクソ展開
それから3日間、俺はこの世界の知識を求めて勉強した。
お誂え向きに、ウォレイ城の書庫には様々な本が納められていた。
もちろん、日本語で書かれているはずもなく、断念しようとしたが、簡易儀式というもので、文字は読めるようになった。
やはりというか当然というか、この世界には魔法と呼ばれるものが存在した。
ただし魔法を扱うためには魔王の儀を終える必要があるらしい、早く使ってみたい気もするが、極力危険は避けたい。
こんな状況でも他人を信じようとしないあたり、前世界から俺は相当なひねくれ者だったな。などと自傷しておく。
「魔王様、お食事の準備ができました」
「あぁ、すぐに向かうよ」
因みに。この世界での食事はかなり豪華だ、魔王が治める魔族大陸には様々な魔物が存在しているからだ、初めに食材の名前を聞いた時、かなり動揺したが、味は確かだった。
メキシコ料理を想像してもらえば分かりやすいと思う、とにかく辛い。
中でも驚いたのはお酒だ、キーラというお酒で度が強いのだが、飲むと身体の中から冷やされていくような感覚になるのだ。
閑話休題
「それで、調べ物は順調ですかな?」
頭蓋骨を象った砂糖菓子をつまみにキーラを飲んでいると、エターシが調子を聞いてくる。俺は魔王になる人物だが、それだけでタダ飯食らいを置いておくほど優しくはないってことか。
「うん、まぁまぁかな」
「左様ですか」
エターシの態度が少し硬い気がする、数日を過ぎた辺りから彼の様子に違和感を覚えていたが、今日は一段と鋭い気がする。こういった雰囲気の老人に声をかけるなど気が進まないが、もしかしたら命に係わるかもしれない。
「なぁ、エターシ、魔王の儀をしなかった奴とかいるのか?」
「お察しの通り、最長でミツキです。その時は私が直接手を下しました」
あ、やっぱり聞いてよいかった。
因みに、ミツキは三カ月の事だ、前世界の一年周期とさほど変化のないこの日数計算に慣れるのにそう時間はかからなかった。
初めは面白いかもと思っていたが、だんだんめんどくさくなってきたし、このままでも十分楽な生活送れるんじゃ?なんて甘い考えは消え去った。
「正直、もう少し楽していたかったんだけどな」
酒が入っていたせいか、つい本音が口からこぼれおちる。
「無関係の者にこの地を委ねるなど、私達も本心ではない!」
エターシの怒号と共に熱波が押し寄せ、俺の持っていたグラスは派手な音と共に粉々に砕け散った。
今の俺には見ることはできないが、今のが魔法なのだろう。
この世界、ピースには魔力が充満している。魔力は魔術によってその性質を変化させる事ができ、魔法として具現化できる。
ピースに住む住人であれば魔力を使う事が出来るが、異世界人である俺には扱う事はおろか、見ることすらできない。
「短気は欠点だぞ?まぁ、そのおかげで本心も聞けたし」
「では、ここでこのまま死を迎えるか?」
「何故異世界人に王様なんて大役を任せるのか教えてもらおうか?」
エターシの怒りを無視し、こちらの用件だけを短的に伝える。胃がひっくり返りそうな恐怖を押し殺して虚勢を張ってるんだ、これ以上はもたないぞ。
「力を持たぬ内からこれほどか、確かにあなたなら・・・」
「あ、うっ。やっば・・・」
「どうなされた?」
どうにか彼に認められたようだが、放たれる威圧感は衰える気配がない。魔力の影響だろうか、じわじわと腸を握り潰されていくような感覚。
そしてついに、抑えきれなくなった俺の口から放出される謎の液体。
「うっ!うるぅおぉえぇぇぇ」
なぜ自分の口から出た物が緑色の液体なのか、その事しか考えられなかった。
「うえぇ、気持ち悪い」
「先程は取り乱してしまい大変失礼いたしました」
「いや、それよりも真実を教えてほしいんだが?」
醜態を晒してまで手に入れたチャンスだ、ここで聞いておかないと次はないかもしれない。
因みに、汚物の処理はメイドに任せられていた。なにか、大事なものを失った気分だ。
「わかりました、私も全てをお話しいたします」
事の発端は今からちょうど百年前、一人の勇者が魔王を打倒したことから始まる。
その勇者は国の英雄国王として迎えられた。
魔国では新たな魔王が乱立し、国内紛争が起ころうとしていた。
だがそれには及ばず。
国王となった勇者は魔国の実力者を全て打倒し、この国を植民地にしたのだ。
初代魔王は死の間際、聖王都にて使われていた勇者召喚の魔術を応用し、魔王召喚を作り上げた。以降百年、この地の人々は魔国解放の日々を願っている。
「これが、我ら魔王国の歩んできた道にございます」
「おいおい、最強の勇者が敵とか笑えない冗談だぜ」
魔国をほぼ一人で制圧したその勇者は、その後も魔国に現れた魔王候補を文字通り瞬殺してきたという。
向こうは100年以上生きてきた無敗の勇者。
対してこちらはこの間召喚された新米魔王カッコ未定カッコトジ、だ。
どう考えても歩の悪い勝負だ。
「とりあえず対策を練らないとな、その為にはまず力がいるな・・・」
「もしや、勇者と事を構えるつもりで?」
「それ以外に何があるんだ?」
彼はおどいた顔でこちらを見ている、別段変った事を言ったつもりはないが。
「いえ、以前この話を聞いた魔王候補は一目散に逃げ出しましたので」
「そいつは頭が良い。俺だってそうしたいのは山々なんだが、俺はそいつほど頭がよくないらしい」
その発言にまたも怪訝な顔になる、この手の輩は自分の心を内に抑えるタイプだと思ったが、いや、それも仕方ない事なのかもしれない。
植民地となった魔国で何人もの魔王に裏切られ、苦汁を舐め続けた人生だったのだろう。
一国の王が入れ替わり立ち替わりでは愛想を尽かされるのも仕方ない事だ。
「では、なにかお考えが御有りで?」
「今のところは無いが、想像することを止めたら、それこそ面白くないだろう?」
心臓を握りつぶされるような、脳の奥から燃やされるような、心躍る感覚。
前世界で味わう事のなかった昂揚感を心底楽しんでいる自分がそこに居た。
こんなオワコンクソ展開だろうと、これこそが俺の望んだ在り来りな異世界転移物語だ!
一日一話、このペースで順次投稿できればいいな。
コメント、お気に入りお待ちしております。