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魔法少女マルクト▽マルコ  作者: 蓬松
Phase1:白と黒の魔術師
4/5

▽3rd.魔法と腕輪(She has a power)


「この魂に……憐れみをっ!」


 魔法の言葉とともに、右手のブレスレットが金属音をたてて腕輪へと変形する。

 そして私はドラウプニルから溢れた黄金色の光に包まれた。

 服は大気に溶けて、代わりに空気中から魔法の力で編まれた若草色の服が私の身を包む。

 見た目以上に硬く、しなやかで、温かい。

 世界そのものを纏っているような、そんな感覚を感じながら変化は髪にも顕れる。

 小豆色の髪が金色……レモン色に染まっていくと、大きな帽子が頭に降りてきた。

 そして頭のなかに知識が流れ込んでくる、それはこの力を初めから私の一部だったかのように使う為の知識。

 今度は冷静に、手に持つ黄金の剣(エリヤ)を振って重さを腕に馴染ませる。

 そして、ドラウプニルから小さな欠片を飛ばし、欠片をドラウプニルの分身たる『輪』にして身を守るように待機させる。


「……っ、せやぁっ!」


 そして、気合い一閃。

 エリヤの一振りで、繭のような光を払って、王国(マルクト)の魔法使いとなった私は世界に再び顕現した。


 公園は霧に包まれ、ブランクの張った結界と化している。

──深化空間という魔術師が世の中から隠れるためにはる結界で、通常の空間とは違うらしい。──

 出かけてすぐにブランクを見つけたというメイさんの自動筆記が届き、私は早速その修正に来ていた。


 魔術に詳しくない私に代わって、エリヤが眼前に立ちふさがる4体のブランクを解析する。


『対象に不活性魔力を検知、ブランクが昨日より強化されてるから気をつけて!』


「うん、頑張る!」


 エリヤに答えるが早く、私は駆け出した。

 魔法で強化された私は、素早く一番近いブランクの懐に潜り込んだ。


「□□□□!!」


 ブランクの柔らかい腕がめきめきと音をたてて、刃物のように鋭くなっていく。

 確かにゾンビのぬいぐるみのようだった昨日より、鋭い動きでそれを振り下ろしてきた。


『なまくらぁ……っ!』


 エリヤで受けて押し返すと、手のひらサイズにした輪をブランクに向ける。


空気の弾丸(アエラ・バレット)!」


「□□……!?」


 どしゅ、どしゅ!と、重い音が掌の輪から放たれる。

 それは拳大の空気の弾丸、それをもろに喰らったブランクは大きく吹き飛ばされた。

 代わりに眼前両側から襲いかかってくるのは、同様の改造を施された二体のブランク。

 一体の横凪ぎな斬撃を屈んでかわし、もう一体の振り下ろした斬撃を切り払う。

 エリヤは硬くて鋭く、邪悪な魔術にはめっぽう強い。


『とうぜんよっ、私は最後の剣の一振りなんだから!』


 心を読んで自慢げに語るエリヤを振りかぶり、隙の生まれた二体のブランクの胸に浮かぶ魔術師の紋章を斬り捨てた。

 そして再びブランク達に空気の弾丸を浴びせ、三体を同じ場所に弾き寄せる。

 二つの輪を合体させて、魔法を複雑化させる。

 呼び出すのは私の力の源流、純粋な大魔力、これをブランクに分け与えれば、彼らの意味(ルーン)は回復する。

 輪の中には大魔力の存在する別次元へと繋がるゲートが生まれ、膨大な光の『流れ』が私の解放した魔法の真名と共に溢れ出す!


奇跡の世界(エナ・タヴマ)!」


「「「□□□□!!?」」」


 その体に新しい意味(ルーン)を浮かばせて、魔術から解放された二体のブランクは人間に戻って倒れ伏した。

 私は残された三体目に駆け寄りエリヤを振りかぶった。


「これで三つ目ぇ……っ!!」


「□□!?□□□□……っ!!」


 通り様に魔術を切られた最後のブランクは、悲鳴を上げながらその白い体を弾けさせて人間に戻った。

 隙を晒す事はしない、そのまま顔を見上げて最後のブランクに目を向けると……そこには何も居なかった。


『……!マルコ、上!!』


「わ、あ!?」


 エリヤの声に咄嗟に身を屈めると、私の頭があった位置を真っ白な爪がかする。

 見上げると敵は、空に居た。


『なんて魔術師なの……『何者でもない物(ブランク)』をあそこまで改造するなんて!』


 感覚を共有しているからか、『その本質』が解ってしまうからか、エリヤが声を震わせる理由は否応なく理解できる。

 それはそれまでのデフォルメされたブランクとは一線を画していた。

 全身にびっしり書き加えられた黒い魔法陣、黒く輝く魔術師の紋章は炉心のように闇を吐き散らし

 白いシルエットはそれに形を大きく歪められ、より怪物らしい物へと変わり果てていた。

 こんな、元のカタチへの最大限の冒涜があるだろうか。

 例えるならば、骨を抜かれた哀れな被害者を無理矢理犬のカタチにへしゃげて首輪をつけて芸を仕込んだような悪逆非道があるか。


「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」


「……っあ」


 あまりの事に呆然とした私は、ブランクの苦しむような無音の咆哮で我にかえり

自然と、エリヤの塚を握る手に力を込めていた。


「許せない……っ!」


『待ってマルコ、相手は相当改造されてる。それにあんな高さに……』


 エリヤが言い切るより早く、私はドラウプニルに意識を集中させる。

 イメージが浮かぶ、人間があの高さまで至るための安全な方法……そして、その結果。

 樹にぶつかった、疲れた、落雷を避けきれなかった、そんな『あり得た自分』を垣間見た。

 そして考える、最善の策を!


『な……いまの接続は……』


「私の願いに応えて、ドラウプニル!」


 輝いたドラウプニルから、バラバラとこぼれ落ちた欠片が私の体に吸い込まれていく。

 セーラー服の襟のようだったそれがマントのように伸びて、風を操るための仕組みを作っていく。

 四肢には輪が変化したプロテクターが宛がわれ、体の強化と風の反作用を防ぐ魔法を紡ぐ。

 全身をそのように作り替えて、私は強化した足で目一杯屈むと、気合いと共に叫んでいた。


風の羽衣(アナリヒシ・アネモ)!」


 周囲の大気を目一杯取り込んで、大地を蹴ると同時に爆発させる。

 そこから連鎖的に風を取り込んで浮力に変える、それが私の最適解だった。


「ふぁ……!」


 一瞬で、私の体は公園の木々を追い越して高く、高くへと持ち上げられる。

 不思議と恐怖はない、よく知る誰かに持ち上げられたかのような安心感すら当たり前のように存在する。

 なにせ持ち上げているのは私自身なのだから当然なのだけど……でも、私は見たこともない空からの景色に見入る。


『……あ、ドラウプニルをこんな風に使いこなすなんて、マルコ。

貴女、あの女が選ぶまでもなく王国に向いていたんじゃないの?』


「ふぇ?」


 エリヤの問いに、我にかえった私は今の魔法を自分だけで紡げた事実に驚いた。

 しかし、そんな隙を許すほど相手は優しくはない。


「◼️◼️◼️◼️!!」


「ぁっ……!!」


 爪が肩をかする、幸い強化した風の壁が殆ど攻撃を弾いてくれたようだけど次はないだろう。


『マルコ、ごめん!』


「いいよ、私もほおけてた! それより!」


 腕を振って、ドラウプニルから輪を六つ生成。

 それを六角形に盾のように周囲に配して、ブランクの次の動きに備える。


「今は、あの人を助ける事が優先だ!!」


 私に一撃を入れたブランクは、そのまま弧を描いて旋回すると再び私を向いて……今度は、黒い魔法陣が変形した。


『概念砲撃の術式を検知、防ぐ!』


 黒い魔法陣から複数射出されたのは、魔術による見えない概念の砲弾。

 でも、感覚を共有しているエリヤの視界を借りることでその軌道は容易に見ることができた。


「てぇ、りゃあ!!」


 エリヤを振りかぶった私は、直撃しそうなそれを三つ切り払うと魔術は発動することなく霧散。

 それを外れた砲弾は、結界の壁にぶつかるとけたたましい爆発音と閃光で私を後ろから照らした。


『よっしゃあ面目躍如!!』


「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」


 ブランクがその隙を突くように私たちの眼前に迫り、先よりより禍々しく変形した爪を振りかぶっていた。


「それも、もう解ってた!」


 私の周囲に展開した輪を挟み、ブランクは私に目掛けて前進した。

 しかし、その爪は私の背後の輪から先を切った。

 輪同士の空間を繋げて、攻撃を反らす。


「ごめんね、ズルくて」


 魔法を解除し、今度は輪を全てブランクに向ける。


奇跡の(エナ)……世界(タヴマ)!!」


 六つの輪から同時に放たれた怒涛とも言える魔力は、ブランクの傷を癒すとともにその全身に強い衝撃を与える極太のレーザービームとも言える代物だ。


「◼️◼️◼️◼️……□□□□□□!!?」


 意味を回復し、それでも魔術に縛られたブランクは最後の抵抗を試みるも、その衝撃は容易に抜けるものじゃない。

 こうなればもう、私の独壇場だ。


「せぇ……ぇぇえええい!!」


 エリヤの刃で、ブランクの全身に張り付いた魔法陣を切り裂いていく。

 一撃、二撃、三撃四撃五撃六撃七撃八撃九撃……


「これで……ラストぉ!!」


 最後に、ショートした電子基盤のように黒い火花をスパークしている魔術師の紋章を縦一閃に切り裂いた。


「□□□……□□……□……!!」


 ブランクとして、断末魔の咆哮をあげながら……ブランクは魔法陣の破裂と共に黒いローブを被った人間に戻り、私の風の魔法でゆっくりと地面へと降りていった。


「はぁ……はぁ……ふうっ、修正完了!」


 その様子を見守り、一息ついた私の目の前に紫色の魔法陣が現れる。

 メイさんからの自動筆記だ。


《今朝もどうもお疲れ様ねぇ♪

ちょっと降りてきて貰えるかしらん?》


 言われるままに、眼下にメイさんと香登くんが居る事に気付いた私は風量を調整して降りていった。





「凄いな、たった二回で空も飛ぶとは……」


「ち、ち、ち、子供の創造力は嘗めちゃダメなのよ、香登きゅん?」


 感心した様子の香登くんに、ビデオカメラを構えるメイさんは嗜めるようにそう言った。


「明さん、そのビデオカメラは?」


 私が聞くと、メイさんはくねくねして答える。


「これ?王国の後継ぎの成長記録に決まってるじゃなーい♪

ちゃんと王道の変身シーンから残心の吐息に至るまで事細かに記録を」


『ふんっ!』


 言い切る前に私の手から離れたエリヤがビデオカメラを破壊しようと飛び出すけど、メイさんは身のこなしだけでそれを華麗に避けて見せた。


「いっひっひ、これは永久保存版ねぇ♪」


『マルコ、やっぱ私この変態信用できない』


「アハハ……」


 メイさんには申し訳ないけど、否定できないなあ。

 香登くんは、さっき人間に戻したローブの人を注意深く見下ろしてなにかを考え込んでいるようだった。

 その胸には薔薇のような紋様を中央に添えた十字架が飾られていた。


「こいつは……間違いない、薔薇十字騎士団の観測部隊だ」


「薔薇十字……!?」


 香登くんは、指先にいつかの光を纏わせると、十字架に触れる。

 すると、十字架からSF映画で見るホログラムのような光が放たれて自動筆記の魔法陣から映像を展開した。


──私にはとても出来そうにないけど、自動筆記は通信機械のメールと同じで暗号の計算さえできれば映像のやり取りも可能なんだそうだ。──


 そこには、どこかで見た気がする夜の都市部の空が見えていた。


『くそっ、こんなの聞いてないぞ!なんでこんな僻地に……』


『静かにして、音までは隠せないんだから……』


 それは、この人の視点で写された戦いの記録だった。

 でも……


『敵じゃ、ないよ……』


 砕ける結界、降り立った何か(・・)、肝心のその姿は真っ黒なもやに隠されて見えなかったけれど……その声は……


「私と同じくらいの、女の子……?」


「まぁ音声までいじられてる可能性もあるけどねぇ?」


 しかし私たちは、その次に映された光景に驚かされることになる。


『アブラカタブラ、壁になれーっ♪』


 それの放った光は、まるで自動的に編み込まれる紐のようにカタチを変えて、彼らの道を塞ぐ鉄壁と化した。

 そして……


『ぎっ!!……ぃ……』


「……っ」


 女の魔術師から、何かが抜かれた。

 そして彼女は倒れ、色を失い、ブランクになった。

 その光景の痛々しさに私は思わず身を竦める。


『さって、次はおにーさんの番にゃ?』


『ぁ……ぅ、うわあああ!!』


 そして今度は、この人が……


「やめて……やめっ……」


 また思わず、言っても無駄なのに、制止の声が喉から溢れ出る。

 でも、それは楽しそうに言ったんだ。


『上出来……♪』


 ガガッ!ブッ…………。

 不協和音と共に、自動筆記はそこで強制終了した。


「……っ」


 自然と、私はまたエリヤの塚を握る手を強く握っていた。


「これが、この町でブランクを産み出してる魔術師……」


 私の呟きに、香登くんは意外な言葉を突きつけてくる。


「それは違うぞ、晶水」


「えっ……?」


 それは重い口調で決してその事実とは違うと言い切れないものだった。

 でも事実は、それよりも深刻だった。


「こいつは、魔法使いだ」





 バン、と香登君の机の上に靴下が叩きつけられたのはその日の朝礼前だった。

 それもタグとかプラスチックの留め具もついてるまっ更な新品だ。

 クラスの誰もが香登君の机の上に目を向け、そしてその意味不明さに固まった。


「……なんのつもりだ?」


 香登君が睨め上げた靴下の持ち主は、太一君だ。

 彼の名誉のためにもいっておきたいが、多分いじめとかそういう意図は決してないだろう。

 太一君は誰かに対する文句があるなら直接話しに行くタイプだし、そう言うのをコソコソやるのは嫌いだと言っていたもの。


「決闘の申し込みだ!」


「それなら手袋を投げろ」


 ほらやっぱり……って決闘!? ナンデ!?

 なんで美香も私の影に隠れてニヤニヤ笑ってんの!?


「6限目の体育、〆はバスケと決まってんだがそこでてめぇに昨日の再戦を申し込む!」


「あぁ、良いだろう」


 対して香登君は至極冷静にその挑戦を受け入れた……良いんだ。





 自動筆記で香登くんにさっきの事を質問することにしたのは、授業の最中での事。


『えっと、じゃあ何で魔法使いの子が魔術師みたいに人から意味を集めてるの?』


『授業は?』


『気になって集中できないよ』


 香登君はこっちを少し見てから深くため息をつく、私は自動筆記の続きを展開した。


『魔法使いと魔術師は、使ってる力の燃料が違うんだよね?

幾らでもあるマナと……限りのあるオドだっけ?』


『こんな町に何故魔法使いが二人も集まっているかというのも充分に謎なんだ

だが魔法使いが何故、魔術師のように意味を集めるのか……これにはいくつか思い当たる節がある


魔法使いはかつて、古き神々を追い払ったこの昔話にはまだ続きがある

その後彼らは神話上の存在として新しく君臨し、そして魔術の時代がやってきた』


 うんうん。


『魔術師は魔法使いの力の一端をつかんだ一握りの技術者集団だった

魔法の模倣たる白魔術、そして旧支配者の模倣たる黒魔術、それらによって世界の仕組みの一部を得たんだ

魔術師単体の持つ力は魔法使いにも旧支配者にも遠く及ばない──だが時代が進むにつれその人数と、彼らの操る魔術の多様性は魔法使いの想像力を凌駕するようになった


魔法使いも世界中の人間を同時に相手にしたら敵わないようになったのさ


『市国』は今でこそ世界の魔術技術の秘匿と暴走の阻止を目的として居るが、そもそもは強すぎる驚異として認識され始めていた魔法使いに対抗するための大規模魔術図書館だったんだ

つい最近にも、魔法使いが魔術を用いて『市国』への反乱を企て、組織ごと消滅させられた事件があった』


『なんか、殺伐としてるんだね。 魔法の世界って』


『嫌になったか?』


『いいや、だったら尚の事だよ

私と同じくらいの女の子だと思う、あの声

そんな子が、あんな酷いことをしなきゃならない事情なんて

それこそ助けなきゃいけないと思うから』


『正義感が強いのは解るが晶水、それは最早お前にも関係のないことじゃないんだぞ?

お前だって、仮初めとはいえ今は魔法使いなんだからな』


 香登くんの言葉が、嫌に現実味のある冷たいナイフのように胸に刺さった。

 だとしたら……この力を元々持っていた、事情にも詳しかった人の顔がどうしても浮かぶのだ。


(メイさん……あの人は、この力をもってどんな風に生きてきたんだろうな……)

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