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魔法少女マルクト▽マルコ  作者: 蓬松
Phase1:白と黒の魔術師
3/5

▽2.5_回顧録1

2000年4月21日



何もかもが焼け焦げた伽藍堂の廃墟──

嫌な思い出が脳裏を過るが、頭の隅に追いやって歩を進める。


「──アマデウスの保管術式、神具の類いはその殆どが市国へ押収され、霊脈も完全に破壊されているとのことです……ですが……」


侍る信徒の一人が報告を加え、言い淀む。

言わずともわかる、吐き気を催すほどの死の匂いに、転がる焼死体……いや、それでも全体の被害に比べればまだ一部なのだろう。

大聖堂だった場所には、辛うじて生き延びた我が組織の幹部が横たわり治癒部隊の魔術を受けていた。

その右半身は、跡形もなく失われていた。


「ぐぁぁ……おのれ、おのれあの蟲女共ぉ‼教祖様、申し訳ありません……っ私が預かる斧剣部隊、全て奴らに……喰われましたっ」


治療を受けるアグニ・ブランドーは私を見るや、懺悔と憎悪が入り交じった悲鳴じみた報告を行い、力尽きたように脱力する。

私もまた治癒部隊に助力するために術式を走らせる。


「あぁ、ご苦労だったアグニ……よく生き残った」


アグニはそれを聞くと、安堵したように目を閉じて意識を失った。

蟲……恐らくは薔薇十字の対理級兵器だろう、死体すら遺されていまい。

それも含めれば、おそらくアマデウスの構成術師たちは一人も残らず殺されているだろう。

大聖堂を進み、ヘンデル夫妻の間の戸を開ける。

信徒は耐えきれず、口許を抑える。


「……酷い」


「ヘンデル夫妻か……私がもう少し早く気付いていれば……」


薔薇十字騎士団……市国の勢力圏を恐怖によって纏め上げる最強派閥の坑魔術組織。

最早この世界で魔術を公然と行えば、ほぼ間違いなく彼らの手に掛かる。

この廃墟の主、アマデウス聖福音教会。

通称アマデウスは、魔法使いたるゲオルク=F=ヘンデルから継がれる直系の魔術を伝えていた。

その神理思想は、とても排除に値するものとは思えないのだが……


「……『神を落とせ、原罪の果実』」


私は夫妻の頭に手をかざし、魔法を発動する。

深紅の光が掌に集まり、この二人の世界を形作る『意味』に通じる孔が空間に開く。


「教祖様?」


「夫妻の死は汚さない……だが知識に接続する、暫く下がっていろ」


頭の中に膨大な量の情報が入ってくる。

なにも知らず、魔術を伝えているという自覚すら我々と関わるまでは知らなかった彼らの人生が知識として流れ込んでくる。


「く……ぉぉおっ……‼」


バチン!! と、弾き返される……いや、本能的に手を引いたのだ。

深入りすれば、自身の魂が飲まれてしまう。

未だ痺れの残る手を強く握り締め、床板を叩き割る。


「きょ、教祖様!?」


私の奇行に、信徒が心配そうな声を上げる。

しかし私は制止をよそにそのまま床板を引き剥がす。

その下には……


「……!!これは……これって……っ」


信徒は私が手に持った『繭』を見て口許を再びおさえる。

楽譜の魔方陣が幾重にも巻かれた琥珀色の結界に護られたそれを、私は知恵を頼りに一つ一つ紐解いていく……


その中から、次第に福音が響いてきた。


「……ァァ!……ホァァァァ!ホギャァァァ!」


それは、輝く銀色の髪を持った女の赤子だった……


「……少し、外してくれないか」


私が言うと、信徒は察してその間を後にする。

手に持った赤子を抱きしめ、懺悔するように踞る私の姿を見ないために……


「恨んでくれ」


だがそれは、懺悔ですらない。


「蔑んでくれ」


開き直ったかのような、言葉を誰とも知れず口にする。


「呪ってくれ」


私は力を持っているのだから。


「何故守れなかったと」


力を持ちながら、その責任を果たせないのだから。


「何故貴様はそこまで愚かなのかと!」


「ホギャァァァ!」


泣く赤子を天に掲げる、祝福の光条がその子を照らす。


「神よ!貴様の愛し子だ、祝福しろ!我が身の呪いを、洗い流せるほどに!!この子の未来をこそ祝福しろ!

私は過去にしか、ならないのだから……」


これは、嘆きの物語。


力を持ちながら、無力で愚かな私の懺悔録。


知恵の魔法使いの、人生を綴った回顧録。


そう、いずれ我が知恵を授かるであろう君の為の……


次回予告


「汝は奇跡に値する」


「僕は……生きていたいだけなんだ、誰だってその筈だ」


「頽廃主義者が戯言を……!」


「あぁ、この上ない『神の素材』だ」


△3.5_回顧録2


「うぅっ……これだから、知ってるだけというのは嫌なんだっ!」

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