一角ウサギと落穴モグラ
森の入り口に到着した。
「兄貴、森に着いたけど一角ウサギってどの辺に居るんだ?」
「一角ウサギは、木の根元に巣を作って暮らしているはずだ。森の中を歩いていれば、あっちから出てくるだろうけど森の中には、他にもモンスターがいるだろうからはじめは、入り口辺りで探してみようか」
「わかった。前衛は任せてくれ。兄貴は、支援を頼んだぜ」そう言ってアルトは、腰の双剣を抜いた。僕も手に持っていた杖をもう一度握り直した。そうして、僕達は、森の中へ入っていった。うっそうとしていて、薄暗い森の中を歩いて行く。しばらく歩いて行くと、近くの茂みがガサガサ鳴り始めた。
「お、ようやく最初の相手が出て来るのか?」
「一角ウサギだといいけどな」
「別のでもいいじゃないか兄貴。俺は、戦えるなら何でもいいぜ」
そうこう話ているうちに茂みの中から何かが飛び出してきた。影は7つ、内3つはお目当ての一角ウサギで、他の4つは一角ウサギと同じぐらいの大きさで、全身土が付着して茶色になっている。向こうの知識でいえばもろにモグラだった。けれど、向こうと違って爪はかなりながいし、なぜかサングラスをかけていた。「兄貴、3体は一角ウサギだとして残り4体は何か知っているか?」敵を見てアルトが聞いてきた。「あれは、落穴モグラだと思う」
「落穴モグラ?それってどんな魔物なんだ?」
「落穴モグラは、名前のとうり落とし穴を掘って、獲物を罠にかけて仕留める魔物だ。けれど、普通は相手が穴に落ちてから現れるはずなんだけど?体に着いた土が乾いていないようだから、少なくとももう落とし穴を掘った後のはずだ!アルト足元に気おつけろよ」
「わかったぜ兄貴」そう言ってアルトは、一角ウサギと落穴モグラ達に向かって行った。
「これでも食らえ!」右手の剣を垂直に一角ウサギの一匹に叩き込んだ。が、当たる寸前に横に跳躍してかわされた。空振りした攻撃はそのまま地面に命中した。命中した瞬間、地面に大きな穴が出来て周囲を衝撃波が襲った。攻撃をかわした一角ウサギを含んだ3匹がもろに衝撃波を受けて吹っ飛んでいった。衝撃波は、離れていた僕の方にも容赦なく襲いかかってきた。「風よ」とっさに風の魔法を使って、衝撃波から身を守った。
「アルト、危ないじゃないか!」衝撃波をやり過ごしてこの事態を引き起こしたアルトに文句を言った。
「わ、わりぃ兄貴、いつもどうりに振り下ろしたつもりなんだけどよ」アルトの方も自分が引き起こした事態に戸惑っているようだ。
「あたりまえだ。お前の言ういつもどうりは、封印を解放される前のいつもだろうが。」
「あ、ああ、そういえば封印を解放されて力が上がってるんだっけ」アルトもようやくなんでこんなことになったのか理解出来たようだ。
「それはそうと、一角ウサギと落穴モグラ達はどうなった。まさか木っ端微塵にしたんじゃないだろうな」せっかく見つけたのに、また探して回るのは大変だと思ってアルトに聞いた。
「いや大丈夫だって、一角ウサギは吹っ飛んでいったから木っ端微塵にはなってないぜ」アルトは慌てて言い訳した。
「そうか、それは良かった」また探して回るようなことにならなくて安心した。が、アルトの台詞で一部が引っかかった。
「アルト、お前今一角ウサギはって言ったよな?」
「ああ、確かにそう言ったけど?」アルトは、なんでそんなことを聞くのかと不思議そうにしている。
「馬鹿!一角ウサギと一緒に落穴モグラもいただろうが、そっちはどうしたんだ!」
「落穴モグラ?そういえば、一角ウサギが吹っ飛んでいくのは見たけどそっちまで見てなかったぜ」そう言ってアルトは、辺り一面見回して落穴モグラ達を探し始めたが、影も形も見つからない。が、アルトがいる辺りをよく見て見ると、アルトが空けた大穴以外にもいくつか穴があいている。
「アルト!落穴モグラ達は、もう地面の中に潜り込んでるぞ!」
「地面の中?」そう言って、アルトが下を見たちょうどそのとき、地面が崩れ落ちた。アルトは、慌てて横によけたが、そのよけた先の地面も崩れ落ちた。
「うわぁぁぁ」アルトは、悲鳴をあげながら穴の中に落ちていった。
「アルト!」僕は慌てて、アルトが落ちた穴のそばに走り寄った。「アルト大丈夫か?」穴の端から中をのぞき込みながら、アルトが無事かどうかを確認した。
「おう、兄貴!俺の方は、なんとか無事だぜ」アルトの声は、しっかりとしていて本当に大丈夫そうだ。僕がアルトに気を取られている隙に、背後の地面から落穴モグラ達が襲いかかってきた。が、落穴モグラ達は、空中で停止した。落穴モグラ達は、何とかしようとジタバタと足掻いているが、一向に動けないようだ。
「ちょうどいい時に出てきてくれたねモグラ達。動けないだろ?アルトが落ちる時に、どうにかしようとしたら使えるようになったスキルでね。『念動領域』っていうんだ。このスキルは、自分を中心した一定の範囲内のものに、自分の意思自体で干渉することが出来るんだ。アルトの時には、ゆっくりと降ろすように。お前達の場合は、握り締めるようにという感じにしたんだ。その結果はご覧のとうり、アルトは助かり、お前達は動けない。さてと、そろそろお別れの時間だ」そう言って僕は、おもむろに手を挙げて振り下ろした。そうすると、空中で停止していたモグラ達は、地面に叩きつけられてうごかなくなった。それを見届けて、僕はアルトに声をかけた。「アルト、今から引き上げるからじっとしてろよ!」
「おう、わかった」
僕は、穴の中のアルトを抱きかかえるイメージをして、ゆっくりと引き上げた。「大丈夫かアルト?」
「ああ、兄貴のおかげで底に叩きつけられたりはしなかったからな」
「それはよかった。さてと、一角ウサギと落穴モグラを拾って帰るとするか」
「おう、けどさ兄貴。7体も持って帰れるのか?」
「大丈夫だ。ちょうど試してみたいスキルがあるし、それが駄目でも『念動領域』で持って帰れるからな」
「試してみたいスキル?兄貴が使えるスキルって、さっきの念動領域以外は確か作成系のスキルじゃなかったけ?」
「ああ、ゲームクリエイターは作成系のスキルだけど、1つのスキルなのに作成の他にもいろいろな機能があるんだよ」
「例えば?」
「例えば素材を収納しておく機能とかそういう感じのだよ。さてと、一角ウサギはどこかな?」周囲を探してみると、少し離れた木の根元で死んでいるウサギ達を見つけた。僕は、一角ウサギと落穴モグラ達のそばまで歩いていき「収納」と言うと7体は、光になって消滅した。アイテムボックスの中を確認すると、ちゃんと入っていた。ただ、入れた覚えがないものも入っていた。いろいろ調べてみたいが、今日はもう疲れたから明日考えることにした。
「アルト、問題なく収納出来たから今日はもう帰ろうか」
「わかったぜ兄貴!」
僕達は、そのまま森を後にした。
スキル紹介
念動領域
自分を中心とした一定の範囲内のものを、意思の力で動かすことが可能。範囲は、自身の魔力に依存。領域内では、視覚範囲外でも対象を把握し力を行使することが可能。