父のこと
僕達は、街に着くまでの間、さっきの父さんの話を思い返していた。
「なぁ、兄貴。さっきの親父の正体を知ってどう思った?」
「今思い返してみると、おかしい点はいくつかあったな」
「どこが?」
「まず一つ目は、父さんの身体かな」
「親父の身体がどうかしたのか?」どうやら、アルトには分からないようだ。
「父さんは、前衛の双剣士だよな?」父さんの職業について確認する。
「ああ。それがどうしたんだ?」
「なのに、子供の頃一緒に風呂に入ったときに見た身体は、そこまで筋肉質じゃなかったんだよな。父さん、岩とか平気で持ち上げるのに」
「確かにそれはおかしいな」アルトもわかったようだ。
「そう、前衛職で、平気で岩を持ち上げられるんだから、普通は筋肉質になるはずなんだ。魔法でも使って力を上げてるのかとも思ったけど、父さんは魔法が苦手だしな」
「確かに。他には?」
「時々カップとか握り潰してたからな」
「それから?」
「魔法が苦手のはずなのに、魔法よりも不思議なことを引き起こしてたことがあるからな」
「そう考えると、親父って結構おかしかったな」アルトも納得したようだ。
「アルトは、封印を解かれてから身体はどうだ?」
「力が充ちてるぜ!兄貴は、どうなんだ?」アルトは、腕を振り上げながら言った。
「僕の方も充ちてるよ」僕も正直に言った。
「これなら、依頼を受けても達成出来そうだぜ!」
「調子にのるなよ」
「大丈夫だって。兄貴は、心配性過ぎるぜ」呆れたように言われた。
「心配というか、不安なんだ」
「不安って何が?」
「さっき、身体のことを聞いただろ?」
「ああ」
「あれは、身体を竜の姿に出来るかを聞いたんだ」
「竜の姿って?」アルトは、不思議そうに聞き返してきた。
「お前、まさか考えて無かったのか?父さんは、ユニークハイの星天竜って言ったんだ。本で読んだ内容だと、星天竜の姿は、全天をおおい尽くす夜色の竜なんだ。その血を引く僕達が、今のヒューマンの姿以外の姿、つまり、竜の姿を持っていても不思議じゃないんだ」
「へぇ、それはすごいな!」アルトは、はしゃいでいる。
「すごいといえばすごいが、なんでそんなにはしゃいでいるんだ?」
「だって、竜だぜ、カッコイイじゃん」キラキラと目を輝かせながら言ってきた。
「カッコイイいいとは思うけど、お前、不安にならないのか?」
「不安?なんで?」なんで不安になるのか分からないようだ。
「普通、今の自分の姿からまったく別の姿になるのに不安にならないのか?」
「だって、姿が変わっても俺は俺だし、兄貴も一緒だからな。不安になんてならないぜ」アルトに言い切られてしまった。その答えを聞いて僕も、大丈夫な気がしてきた。
「そうかもしれないな」
「兄貴、もう街が見えてきたぜ!」そう言ってアルトは、街の方に走り出して行った。
「あ、待てアルト」僕もアルトの後を慌てて追いかけた。竜になってどうなるかは、なってから考えることにした。