出会い
僕は、内容を考えながらゆっくりと話始めた。
「さて、まずは僕達の依頼を受けた後の行動からですね」
「そうね。アスト君とアルト君は、そのまま森に向かったの?」
「はい、僕の知っていた一角ウサギの生息地が、この街から行ける森だったので真っ直ぐ森に向かいました」
「そう、それでアスト君達が森に立ち入った時に何か変わったことはなかった?」
「一つありました」
「何かしら?」
「僕達は、初めての魔物との戦闘なのですぐに逃げられるように、入口近くで一角ウサギを探したんですけど、その時に初遭遇したのが一角ウサギ三匹と落穴モグラ四匹でした」
「え!一角ウサギと落穴モグラが一緒に出て来たの!?」
メリアさんから驚きの声が上がった。さらには、周りの職員や冒険者達からもざわめきの声が漏れ聞こえた。
「ええ、そうです」
「それでアスト君達は、どうしたの?」
「戦いましたよ、もちろん」
「え!初めての戦闘で、七匹もの魔物と戦ったの?」
「はい、けどその戦闘でこちらも疲弊したので、その日はそのまま帰りました」
「そうなの。にしても、どうやって七匹もの魔物を倒したの?」
「相手は近接と罠の設置が基本的な戦い方なので、遠距離から魔法で一網打尽にしました」
本当は、アルトの剣圧と僕のスキルですけどね。けどそれよりは、魔法で倒したと言った方が現実的だからな。
「そう、たしかにそれなら七匹もの魔物を倒せるわね」
メリアさんは、問題なく受け入れてくれたみたいだ。
「そうすると、森の異変は二日前にはすでに起こり初めていたというわけね。それじゃあ問題の昨日の森については、何か知っているかしらアスト君?」
「はい、断片的なことなら知っています」
「断片的?」
「はい」
さて、ここからが問題だな。僕とグラット、そしてメガアルラウネのことをどうごまかすかな?いや、メガアルラウネのことはごまかすと話にならないか?
「断片的にっていうのは、何故なのか聞いてもいいかしら?」
「ええと、それはですね話ながら説明します」
「そうわかったは、続けてアスト君」
「ええと・・・」
僕は、その先を続けられず黙り込んでしまった。
さて、本当に何て答えようかな?でたらめを話すと整合性が怪しくなるから、自分に可能な何かを理由に出来ると話を作りやすいんだけどな?当事者は×、知られている実力だと普通に死んでないとおかしいからな。となると、話の視点は客観的に出来るといいな。どうすれば客観的になるかな?
「どうしたのアスト君?」
メリアさんが訝しんでいるようだ。さっさと話を考えないとな。ううんと、そうだ!
「いえ、口下手なので話内容を整理していただけです」
「そう、もう少し待った方がいいかしら?」
「いえ、とりあえず整理出来た分から話ます」
僕は先送りにはしないことにした。
「そう。じゃあ、昨日の森についてアスト君が知っていることを教えてちょうだい」
「はい。昨日僕は、前日戦闘した魔物のことが気になったので、一人で森に行きました」
「え!一人で?アルト君と一緒に行かなかったの?」
「ええ、昨日は僕一人で森に行きました」
「それはいくらなんでも無謀じゃないかしら?魔物の討伐は複数人で行わないと、リスクが高いのを知らないわけじゃないでしょうアスト君?」
「もちろん知ってますよメリアさん。けど、昨日はあくまで異変というか、魔物の変化を見に行っただけで、魔物と戦闘をする気はありませんでした。実際昨日は、他人の戦闘を見てただけですから」
良し!戦闘をしなかったことにすれば、多少は違和感が無くなるだろう。
「他人の戦闘?それって、アスト君以外にもあの日森に誰かいたってゆうことかしら?」
「そうです」
「そう、それでその誰かはどんな人達だったの?」
「後ろ姿しか見ていないので顔はわかりませんけど、片方は杖を持った魔法使い、もう片方は見た目はモグラのビーストでした」
この後の話で魔法を使うから、ここで魔法使いと言っておいてもいいだろう。それとグラットは、ビースト(獣人)で通そう。
「森にいたのはその二人だけ?」
「いえ、その二人を見つけた後にも何人か見ました」
「何人かって、具体的にはどれくらい?」
「一人と一体ですね」
あの男はともかく、彼女を一体と言うのは釈然としないな。魔物であるいじょうこんな表現になるのは仕方が無いけど、あの男と彼女なら、彼女の方を一人と言いたいな。
僕は心の中で、そうできない状況にため息が出そうになる。
「二人じゃなくて?」
メリアさんは、訝しそうに聞いてきた。
まあ、それも当然か。今の僕の言い方じゃあなあ。
「はい、一人は黒い外套を纏った多分男性。一体は、魔物のアルラウネです」
「アルラウネ?あの森にランクAのアルラウネがいたのアスト君!」
メリアさんも周りの人達も、僕が言った内容に驚愕していた。
それも当然か、何せ本来あの森に生息している魔物のランクは、斬岩カマキリや毒巣グモのランクDが最大だからな。それが突如アルラウネなんて高ランクの魔物がいたなんてしれば普通の反応だな。それはさておき、
「はい、図鑑で見たのと同じ姿でしたから」
と言ってはみたものの、実際の姿は図鑑とは違うし、アルラウネでさえないけどね。
「なんてことなの!あの森にそんな高ランクの魔物がいたなんて」
「そうですね。僕も最初に見た時は、思わず後退りしてしまいました」
そう、初めて会った時は、ヒュドラごとおもいっきり後退して彼女に怒られたんだよな。
「それにしてもアスト君、よくアルラウネと遭遇して生きてたわね?」
「それは簡単ですよ。彼女には、戦闘の意思がなかったんですから」
「彼女?意思?どういう意味かしらアスト君?」
メリアさんは、困惑しているようだ。
「言ったとおりの意味ですよメリアさん。アルラウネには、いえ、彼女には確かな知能と人間性がありました」
「そ、それはつまり、そのアルラウネはランクSの魔物だったということなの!?」
メリアさんは、信じたくないとばかりに大声で確認してきた。
「はい、流暢に人語を話ていました」
「なんてことなの」
メリアさんは、よろけながら後ろに下がった。
周囲にいた他の人達も、一様に顔が青ざめているように見える。
無理もない。ランクAでもあれなのに、ランクSの魔物が街とそう離れてない場所にいたんだから。
僕は、そんなメリアさんに声をかけようとした。
「君、少しいいだろうか?」
ちょうどその時、誰かから声をかけられた。
僕は、声のした方を見る。そこには、二十代前半ぐらいの男性と女性二人がいた。
僕は、このタイミングで話し掛けてきた二人を観察してみた。
男性の方は、紫色の髪と目をしていて顔立ちは悪人顔だ。でも全体で見ると、落ち着いた雰囲気をした頼りになりそうな人に見えた。身体の方はがっしりしていて、全身に鎧を纏い腰に剣、左手に盾を持っていた。
そして女性の方は、髪と目の色は緑。顔立ちは、整っていてかなりの美人だ。身体はスレンダーで、わりと露出の大きい服を着ている。それから、腰に鞭を装備していた。
第一印象は悪くないけど、それとは別に何か気になる二人だと思った。
そう、会ったばかりなのに昔から知っているような、自分と二人の間に確かな繋がりがあるような不思議な感覚を覚えた。
「どうかしましたか?」
「なに、この後少し私達と話時間をとってもらいたいんだ」
「構いませんよ、この話ですでに予定は狂っているので少しぐらいなら」
「そうか、ありがとう」
そう言って彼は、連れの女性と共に僕から離れて行った。
ただ、去り際に彼が小さく呟いた言葉が僕に強い警戒心を持たせた。
メガアルラウネ、と彼は確かに言った。
これが僕と彼らとの最初の出会いだった。




