安全性確保
三人は、十分程して再起動した。
「三人共大丈夫か?」
「兄貴!何だよそれ!?」
「アスト様、これはいったい?」
「ちょっと、アスト。い、いきなり出現したそれは何なの?」
三者三様の反応が返ってきた。
「アルトとメガアルラウネはともかく、なんでビットまで驚いているんだ?」
僕はビットの反応に首を傾げた。
ビットは、家建てたりしているんだから驚く理由は無いと思うけどな?
「いえ、アスト様。普通目の前に用途不明の建物がいきなり出現すれば、誰でも驚くと思いますよ」
「それもそうか」
僕はビットの答えに頷いた。
まあ確かに、普通は驚くか。自分が指示した結果だから、僕は驚く理由がなかったからな。てっきり、ビットもクリエーターサポートのスキルを持っているから驚かないと思ってたけど、自分でやるのと他人がするのは別なのは当然か。
「兄貴「アスト、結局それは何なのよ!」んだよ!」
ビットのことを考えていたら、アルトとメガアルラウネがしびれを切らしたらしく、苛立っている声で話かけてきた。
「ああ、悪い悪い。その建物が何かだったよな。それは、三人の修行の為のやつだよ」
「?修行の為のやつって、兄貴。俺達の為にこんなデカイ建物が必要なのかよ?」
「そりゃあ、必要だよ。アルトの場合は、衝撃波を周囲にまだ撒き散らすし、メガアルラウネのスキルはかなり広範囲に効果を及ぼしてたんだからな。ビットだって今から修行の結果、どんな風になるんだかわからないんだから、安全性は確保して置かないとな。三人も、周囲を気にしなくてもいいようにしておいた方が気がらくだろう?」
「そりゃあ、周りに被害が出ない方がいいんだけどさ。これはなあ」
アルトがそう言って、視線を他の二人に向けた。
「私としましては、アスト様にここまでしていただいて、大変恐縮です」
ビットはダンジョンをみながら、身体を小さくして言った。
「確かに、私のスキルは広範囲に影響が出るから、この対応に文句を言うつもりはないわ。けれど、最初に言ってから出現させてほしかったわね」
メガアルラウネは、納得はしているが、事前に言ってほしかったらしく、少しおかんむりのように言った。
「悪かったよ、今度からは何をするのかを説明してから始めるよ」
「それならいいわ」
メガアルラウネは、僕の言葉に納得してくれたようだ。
「じゃあオールエル。次は、レベル制とゲームシステムをここにいるみんなに対して発動させてくれ」
「わかりましたアスト様。ゲームシステムの方は、どの様な設定に致しますか?」
「とりあえず一つ目は、死亡した場合死体をソウルクリスタルに変換して、星巡神殿に飛ばすのが一つ」「はい、アスト様。ですがアスト様、死亡する前に飛ばすようにした方がよろしいのでわ?」
「ん?出来るならその方がいいけど、設定出来るのか?」
「はい。肉体が一定のダメージや状態異常になると、転移するように出来ます」
「それなら、それで頼む。二つ目は、僕達の行動に敵味方識別を付与することだ」
「可能ですが、識別してどういたしますか?」
「どうって?」
「敵味方を識別した後は、どのようになさいますか?攻撃が味方を回避するようになさいますか?」
「そうだな、攻撃なんかは味方をすり抜けるようにしてくれるか」
やっぱり、戦闘関係のゲームシステムで欲しいのは、広範囲攻撃が敵にだけ当たって、味方に当たらない敵味方識別効果だからな。広範囲攻撃って強力な分、敵味方識別効果が無いゲームだと味方を巻き込むから、あまり多用出来ないからな。この設定は、必ず実装したいんだよな。
「はい、大丈夫です。次は、ありますか?」
「ああ、三つ目は、見たもののHPとMPが確認出来るようにすること」
やっぱり、ゲームみたいに体力と魔力の残量がわかるのはいろいろと有利だからな。この世界だと自分も相手も、見ただけだと分からないからな、残量がわかると撤退するかの判断がしやすくなって、危険を減らせる。
「対象は、見たもの全てに対してでよろしいでしょうか?」
「うん?う~んと、いや、とりあえずは生物だけでいいかな?」
「わかりました。まだ設定いたしますか?」
「ああ、最後にメニュー画面を使用出来るようにしてくれるか。ビットはともかく、他の二人はクリエーターサポートとかないから、あると便利そうだからな」
「わかりました。設定いたしますので少しお待ち下さい」
そう言って、オールエルは目を閉じて動かなくなった。
さてと、今の内に三人にこれからすることを説明しておくかな。
「さて、三人共ちょっといいかな?」
「何だよ兄貴?」
「何でしょうかアスト様?」
「なあにアスト?」
「これから三人に使用するスキルの説明をするよ。といっても、そんなに難しいことじゃないんだけどね」
「おう!」
「わかりました」
「わかったわ」
「それじゃあ説明するよ。まず最初に、みんなに適用するスキルレベル制の説明からいくよ」
「レベル制?」
「ああ、レベル制と言うのは、簡単に言うと強さを一定の基準で表したものであり、経験値を貯めることでレベルが上がり、定められたレベルに応じた強さを得られるんだ」
「レベルに応じた強さって何だよ兄貴?」
「たとえば、レベル1とレベル2だと、スキルや装備なんかを除いた単純な強さはレベル2の方が上になるって感じかな。当然スキルや装備によっては、戦う相手のレベルが低くても戦闘では相手の方が強いことがわりとあるだろうけど、少なくても自分個人の話なら、確実にレベルが上がった状態の方が強くなるんだよ。つまり、修行の成果や自分の努力の結果を自分に反映するスキルだと理解してくれればいいよ」
「それって、頑張れば頑張っただけ着実に強くなるってことか?」
「ああ、自身の思いに身体が応えてくれるようになるんだ。やり甲斐があるだろう」
「おう、いっぱい修行するぜぇ!」
「私も頑張ります!」
「私もやるわ!」
三人共、やる気は充分だな。これなら、そこまで時間をかけずに僕も安心を得られるかな。防御力というか、耐久力が上がってくれると命の心配がぐっと、減るからな。さて、ゲームシステムの説明はどんな風にするのがいいかな?まあ、わからなければ、後から実地で教えればいいか。
「次は、ゲームシステムについてだ」
「「「ゲームシステム?」」」
「ああ、そうだ。さて、ゲームシステムについてだけど、今からみんなに付与するのは四つ。一つ目は、一定のダメージ及び状態異常になると自動的にこの世界に転移されること」
「一定のダメージ及び状態異常?」
「そう、死ぬほどのダメージや石化や凍結などの自分がなったら、対処出来ない状態になると強制的にこの世界に戻るようになるんだ。これによって、最悪死ぬことは無くなる」
「あ~、それは確かに必要だな」
「そうですね」
「あると安心よね」
「二つ目は、敵味方識別だ」
「敵味方識別?それって、どういうの何だ兄貴?」
「はっきり言ってしまえば、味方の攻撃が味方に当たらなくなるんだ。アルトの場合だと、アルトの剣や剣を振ったときに出る衝撃波が僕達には当たらなくなるんだ」
「おお!それはいいな。俺って、手加減が苦手だからな。是非欲しいぜぇ!」
「よかったですねアルト様」
ビットはアルトの修行風景を見たことがあるのか、ことのほか喜んでいるようだ。
「ねぇアルトの衝撃波って、一角ウサギを吹き飛ばしてたあれのこと?」
メガアルラウネは、何かを思い出したように聞いてきた。
「ああ、それで合ってるよ。そういえば、君は悠渡友種のスキルで見ていたんだっけ」
僕は彼女のスキルの効果について思い出した。
「ええ、いきなり吹き飛ばされた時にはとてもびっくりしたわ」
「まあ、そうだろうね。さて、三つ目は、HPとMPが見えるようになるんだ」
「HPとMP?何だよそれ?」
「体力と魔力のことだよ」
「体力と魔力?それが見えるとどうなるんだ?」
「そうだな。体力と魔力の残りがわかるようになると、単純に戦いやすくなるんだよ」
「何で見えると、戦いやすくなるんだ?」
「まず敵の体力の減りがわかるとな、自分の攻撃が有効かどうかわかるし、相手の強さを計る目安になるんだよ。普通だと、それが分からないから、無茶な戦闘を行って死ぬ人も結構いるんだ。それに、自分の体力の残りが把握出来ると、撤退のタイミングを決め易くて、死ぬ可能性を減らせるからな。わかるとかなり便利なんだよ」
「ふうーん。じゃあさ、魔力の方はどうなんだ?」
「魔力は、ある意味体力よりも大事だぞ」
「?何でだ兄貴?」
「それはな、魔力は生命力に直結している上に、戦闘力におおいに関係しているからさ」
「?」
「お前だって、僕や母さんの魔法を見たことあるだろう?」
「そりゃあ、あるけど?」
「だったらわかるだろう。普通の人なんかが魔法をくらうとどうなるかなんてさ」
「あ~、普通に死ぬな」
「だろう。それに魔法だけじゃない、魔力を使用するタイプのスキルも少なくないからな。相手の魔力の残りがわかると、相手が後何回魔法やスキルが使えるのかわかるだろう。それは、かなり重要なことなんだよ」
「兄貴の言う通りなんだろうな。じゃあさ、相手の魔力がわかる利点はわかったけどさ、自分のがわかることにも利点ってあるのか?」
「ああ、どちらかと言うと、自分の魔力の残りがわかる方が重要だぞ。なんせ、命に関わるからな」
「おいおい命って、やたら物騒だな」
「そう、物騒なんだよ。さっきも言った通り、魔力は生命力に直結しているからな。魔力が残っていないのに、無理して魔法なんか使おうものなら、生命力を魔力に変換してしまって、最悪の場合一瞬でミイラになっちゃうからな」
「ミイラって、まじ」
「まじ。けどこれって、母さんからアルトも教えられてなかったっけ?」
「え!え~と?・・・ゴメン兄貴、思い出せない」
「まあいい。これで三人共、体力と魔力が見える利点はわかっただろう?」
「おう!」
「大丈夫です」
「大丈夫よ」
「それじゃあ最後はメニュー画面についてだな。けどこれは、実装した後に教えた方がわかりやすいと思うから、ちょっと待ってね」
「「「わかった!」」」
「さて、説明はここまでとして、オールエルそっちはどうだい?」
僕がオールエルに声をかけると、オールエルは目を開けた。
「はい、アスト様。ちょうどこちらの準備も終わりました」
「そうか、なら早速頼む」
「はい。ではいきます」
そう言ってオールエルが手を挙げると、オールエルの手の平から四つの光が生まれ、僕達の方に飛んできた。
「うわっ!」
「うおっ!」
「なっ!」
「きゃっ!」
僕達四人は、思わず驚きの声を上げた。
そして、飛んで来た光は僕達の中にゆっくりと溶け混んでいった。
「レベル制及びゲームシステムの適用完了いたしましたアスト様」
「ありがとうオールエル」
「いえ、もったいないお言葉ですアスト様」
「さて、次はどうするかな?」
「なあなあ兄貴!」
「うん?どうかしたのかアルト?」
「俺早速だけど、兄貴がくれた力を試してみたい」
「そうだなあ」
どうせメニュー画面の説明なんかも実地で教えるつもりだったし、模擬戦でもするかな?
そう考えて、視線をアルト、ビット、メガアルラウネの順に移していく。
ふむ。近接戦闘のアルト、フォーク投げで中距離戦闘が出来るビット。後は、茨とスキルの幻想の花園で遠距離戦闘が出来るメガアルラウネか。ふむ、三人一度に相手にすればオールレンジの戦闘が可能だな。僕としても、時・空・星属性の魔法を試してみたかったからちょうどいいな。
「よし、アルト、ビット、メガアルラウネ、三人ひとチーム扱いで僕と模擬戦をやろうか」
「え!兄貴一人で俺達三人の相手をするのか!?」
「いくらなんでも無理ですよアスト様」
「そうよ。そうよ!」
「わたくしとしても、それは止めた方がいいと思います」
アルト、ビット、メガアルラウネ、オールエル、みんな口々に反対意見を口にした。
「問題無い。あくまで模擬戦だし、怪我をしないようにこの世界の条件設定をいじるから大丈夫だよ。それに、僕も試してみたいことがあるんだ」
「兄貴。お前らはどうする?俺はやってもいいかなと思うんだけどさ」
アルトは、他の二人に話を振った。
「そうですね。私は、主であるアスト様の意向に従います」
「う~んと、仕方ないわね。私もそれでいいわ」
「皆さんそれでよろしいのですか?」
オールエルだけは、まだ納得がいかないようだ。
「オールエル、模擬戦なんだから本当に問題無いよ」
「ですけど、なぜ三対一なのです?」
「その方がいろいろ試せるんだよ」
「はあ、わかりました。全てはアスト様のみこころのままに」
「それじゃあ準備を始めるとするか!」
僕は、フィールド1の条件設定をいじりだした。




