ビットの決意とアルトの選択
「アルト」
「何だ兄貴?」
「魔法を修得しよう」
「は?何で俺が魔法を覚えないといけないんだ?魔法なら、魔法使いの兄貴が覚えればいいじゃないか」
「アルトが覚えることに意味があるんだよ」
「意味って言われても、双剣士の俺じゃあ魔法を覚えても使い道が余りないぜ」
「魔法というか、魔力の放出手段を覚えてもらいたいんだ」
「何でだよ?」
「さっきも言ったけど、アルトの今の状態はスキルの封印が中途半端に解けているのが原因なんだ」
「それで?」
「アルトが魔法を覚えれば、そのスキルのデメリットが消えてメリットが増えるんだ。それにアルトのステータスを見た感じ、魔法を効率よく使用する為のスキルがいくつもあったから、その点でもアルトに魔法を覚えさせたいと思ったんだ」
「兄貴が言いたいことはわかったけどさ。でも俺って基本的に、魔法とは相性が悪いのは兄貴も知ってるだろ」
アルトは詳しくイメージしたり、広い視野を持って考えるのが苦手だからな。
「ああ知ってる。だけど安心しろ、その点に関しては僕のスキルでどうにでもなるからな」
そう、本当にどうにでもなるんだ。アルトの保有しているGPは百万以上、大体の能力は星旅補助のスキルで自由に交換してやれるからな。アルトを魔法使いだろうが、魔法剣士だろうが、自由にクラスチェンジさせられるだけのスキルや能力を与えられるからな!
「兄貴がそう言うのなら俺はかまわねぇけどさ、その兄貴のスキルってどんな能力なんだ?」
アルトでもやっぱりそこは気になるのか。まあ当然か。いくら僕がどうにでもなるとは言っても、やっぱり不安はあるよな。僕がアルトの立場でも、ちゃんと確認はするだろうしな。だけど何て説明しようかな?
「ええとだな。僕のスキルは対象をコップに例えると、その中に好きな飲み物イコール能力を入れられるスキルだ」
ふむ、なかなかなたとえが出来たかな?
「そのたとえはわかりやすいな!」
ふう、どうやら納得してくれたようだな。
「てっ、今のであなた本当にわかったの?」
メガアルラウネは、アルトが本当に理解しているのか疑問のようだ。
「もちろんだぜ!兄貴のスキルはなんでもありなスキルだろ!」
まあ、間違ってはいないな。
「アスト様、二、三質問してもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないけどどうかしたのか?」
「いえ、先程アスト様が言われたコップは、どの程度の容量があるのですか?それと、容量以上注いだ場合はどうなりますか?」
おお!ビットが鋭いところをついてきたな!
「コップの容量は修行や鍛練で増やせるけど、基本は自分の強さとかに依存しているよ。後、容量を越える能力を得ようとすると、死の危険がある。たとえ死ななくても、身体にガタが出る可能性は高いかな」
「そうですか・・・」
ビットは僕の答えを聞いて何かを思案しだした。
ビットは何を考えてるのかな?
「あのっ、アスト様!」
「どうしたんだビット?」
「私にもアスト様のスキルを使ってはもらえないでしょうか?」
「えっ?ビットも何か欲しいスキルか能力でもあるのか?」
ビットがこんなことを言い出すなんて、なんか意外だな。
「私はアスト様の従者です。昨日行ったことはメガアルラウネより聞きました。だからこそ私は、アスト様を守れる強さが欲しいのです!」
ビットはそんなことを考えていたのか!やっぱり、誰かに心から心配してもらえるのはいいな。だけどビットは、星旅補助で欲しい力を手に入れるだけのGPを持ってるんだろうか?ビットのステータスを確認しておくか。
僕はビットに対して、星界竜の眼を発動させた。
【名前】ビット
【年齢】0.03
【種族】従者ウサギ
【所属】無し
【滞在世界】フィールド1
【職業】従者
【称号】無し
【属性】土・星
【弱点】風・光・虚無
【魔力】100.000/100.000
【状態】正常
【所有魔法】無し
【スキル・能力】クリエーターサポート・調理技術・投擲術
【耐性】土・星
【加護】無し
【成長ポイント】20GP
【守護対象】星界竜アスト・星極竜アルト
はて?僕やアルトに比べると、ろくにポイントが無いな。
「あー、ビット。大変言いにくいんだけど、今のビットには余り容量が無いから強力な力は交換出来ないんだ」
「そうですか」
ビットはがっかりしたようで、肩を落としてしょんぼりしている。
何というかこう、悪いことはしていないはずなのに、ビットのこの様子を見ていると罪悪感が沸いて来るな。
「だけど諦めるのは早いぞビット。僕の星超試練とかの他のスキルでビットを鍛えて、容量をすぐに増やしてやるからな!」
「容量を増やすって、そんなことが可能なのかよ兄貴?」
「ああ!過程は後から考えるとして、結果の方は保証出来るぞ!」
「そうなのか。兄貴、俺の方はどれくらいの容量があるんだ?」
「ポイントにして、大体百万以上だ!」
「百万以上!絶対普通じゃねぇだろそれ!」
やっぱりそう思うよな。確かにビットと比較すると、その異常性が浮き彫りになるな。
「兄貴、それじゃあそのポイントを使うと俺はどれくらいの力を得られるんだ?」
「これだけポイントが貯まっているんだから、望みばいくらでも力を得られるぞ」
「・・・兄貴」
「どうかしたのか?」
「兄貴には悪いんだけどさ。俺、うまく言えないんだけど、兄貴のそのスキルを受けたくないんだ」
アルトは何で受けたくないと考えたんだ?
「アルト、何でそう思ったんだ?」
「さっきも言ったけどうまく言えねぇんだ」
「大体で構わないよ」
「わかった。何ていうかさ、兄貴のスキルで強くしてもらうのは嫌なんだ」
「嫌なのは、僕がスキルを使うことか?それともスキル自体?」
「う~んとさ、俺としてはさ。兄貴に頼らずに、自分の力で強くなりたいんだ」
「つまり、僕のスキルで努力無しでやるんじゃなくて、自分の力で魔法か魔力制御を覚えたいってことか?」
「おう!それだ」
「ふむ、そうか」
アルトの答えを聞いて僕は僅かに思案した。
アルトが何も考えずに、ただ嫌だと言うのなら無理やりにでもスキルを使っただろうけど、アルトが自分が努力して力を得たいと言うのならその方が良いだろう。
そう考えたら僕は、自然と笑みを浮かべていた。
「兄貴?」
「アスト様?」
「アスト?」
僕の方を見ていた三人から、怪訝そうな声が放たれた。
「アルト、ちょっとこっちにおいで」
「お、おう」
アルトは少し奮えながら、僕の傍まで歩いて来た。
「どうかしたのか?」
アルトは何で奮えてるんだ?
「いや、そのさ。兄貴が俺のことを心配してくれて、スキルを使おうとしてくれているのをわかっているのに断ったからさ。兄貴怒ってるんじゃないかと思ってさ」
アルトはだんだん俯きながらそう言った。
まるで自分が悪いことをしてしまったような態度だ。別に気にするほどのことではないのに。
僕は俯くアルトの頭に手を乗せて、いい子いい子をした。
「ちょっ!!何するんだよ兄貴!?」
アルトは顔を真っ赤にしながら、慌てて僕から離れた。
アルトの顔には、困惑と嬉しさがないまぜになった不思議な表情を浮かべている。
怒っていると思っていた、僕からいい子いい子されて驚いたんだろう。
「アルト、僕はアルトの答えに怒ったりはしていないよ」
「え!本当か?」
「ああ。それどころか僕は今、とっても良い気分なんだ」
「え?俺のさっきの答えに、兄貴を喜ばせるところなんかあったか?」
「ああ、僕にとっても、アルトにとってもね」
「兄貴だけじゃなくて、俺にとっても?」
アルトはさらにわけがわからくなったようで、頭を悩ませている。
「兄貴、教えてくれよ。俺の答えの何がそんなに嬉しかったんだよ!?」
「それはだな。アルトが楽をすることじゃなくて、自分で努力して何かを得ることを選んだからだよ」
「?努力して何かを得るなんて、普通のことだろ?」
「まあそうだな。だけど、そんな真っ当なやり方をしないで、楽や卑怯なことをしてでも強い力や利益を欲しがる人間なんて、いくらでもいるんだ。中にはリスクを考えるものもいるだろうけど、たいていのやつらは目の前に自分に都合が良いことが起こると、何も考えずに飛びつくのが普通だ。たとえ、他者がどれだけの不利益を被ろうと気にせずにね。だけどそれは、自身の目を曇らせ本当に大切なことを見失わせることが大半だ。その点アルトは、リスクの全く無い僕のスキルを断って、自分で努力して力を身につけることを選んだ。僕の弟がそんな人間である事実が、何よりも嬉しいんだよ」
向こうの世界では、ニュースや新聞、ドラマの題材としてもありふれていた日常的なことだからな。
「兄貴は難しいことを考えるんだな。俺には到底無理だな」
「アルトは難しく考えなくてもいいよ。これは僕の考えであって、アルトは自分の考えられる範囲で考えればいいんだから。ただ、僕任せにするんじゃなくて、自分で考え続けることは止めないでくれよ。僕にだって、間違いを起こすことはあるんだから」
「わかった!兄貴が間違った時には、俺が何とかして見せるぜ!」
「そのいきだアルト」
僕は眩しいものを見るように、アルトのことを見た。
「それで結局どうするの?」
「まあ、元々ビットを強くさせる予定だったし、アルトも一緒にやればいいだろう」
「ねぇ、私もそれに参加してもいいかしら?」
「構わないけど、どうしてだ?」
彼女が参加する理由がとくに思いつかなかったがゆえの疑問だ。
「今度はちゃんと、友達とありつづけたいからよ」
「なるほどね。うん、君も参加するといいよ」
「ありがとう」
さて、じゃあみんなの修行はどうするかな?ふむ、少しポイントを交換して、試してみるかな。




