黒い思い出
転移して来た僕達は、ちょうど僕の家の前に出た。
僕は無事に転移出来たことを確認して、メガアルラウネ達の方に視線を向けた。
そこには、何かに見とれたように動かないメガアルラウネと魔物達がいた。
何に見とれているのか疑問に思ったが、すぐにアルトが最初に来た時のことを思い出して、メガアルラウネと魔物達が何に見とれているのか見当がついた。彼女達は目の前に広がる僕の世界に見とれているんだろう。それなら彼女達にこの世界でかける言葉は出迎えの言葉にしよう。
「ようこそ僕の世界に、歓迎するよ」
僕は転移して来てみた景色に魅入って、動かなくなっているメガアルラウネ達に言った。
「・・・はっ!こ、ここはどこなの?」
僕の言葉に反応して、彼女達は正気に戻ったようだ。彼女も魔物達もこの状況に戸惑っているようで、視線が自分の周囲を行ったり来たりしている。
僕はもう一度さっきの言葉を戸惑っている彼女達に送った。
「ようこそ僕の世界に、歓迎するよ」
僕の歓迎の言葉に反応して、彼女達は揃って僕の方を見た。
「僕の世界?此処って、いったい何処なのよ!?」
彼女は僕の言葉の一部に混乱したようで、猛烈な勢いで僕に詰め寄って来た。
「まあまあ、落ち着いてくれよ。今から説明するからさ」
僕は混乱して、興奮状態の彼女の肩に手を置いて、宥めながら優しくそう語りかけた。
「うぅぅ、本当にちゃんと説明してくれるんでしょうね」
唸りながらもそう聞いてきた彼女に僕は頷いた。
「さて、ではまず最初は何から話そうか?」
「まずはここはどこにあって、どんな場所なのかを教えてくれないかしら?」
「わかった。ここは異空間にある僕の拠点だよ」
「異空間って何?」
彼女は異空間が何かわからないようで、仕切りに首を傾げた。彼女と一緒にいる魔物達もわかっていないようで、オロオロしているように見えた。
今の言い方だと伝わらなかったか。まあ魔物達が、そんな人が定めた言葉の意味や内容を理解していたらそちらの方が驚きか。さて、どう言えばいいかな?
「アスト様!」「兄貴!」
!?説明を考えていたら誰かに呼ばれた気がして、慌てて周囲を見回した。そうすると、ビットとアルトが家からこちらに向かって来ていた。
「お帰りなさいませアスト様。御用の方は終わりましたか?」
「お帰り、兄貴!うん?兄貴、後ろにいる女の子と魔物達はなんだ?」
「ああちょうどよかった二人共。紹介するよ。先頭にいる女の子がメガアルラウネで、彼女の周りにいるのは彼女の友達の魔物達だよ」
「そうですか。では私からご挨拶を。お嬢さんはじめまして、私はアスト様にお仕えしているもので従者ウサギのビットと申します。以後おみ知り置きお」
そう言ってビットは丁寧にお辞儀した。
「じゃあ次は俺だな。俺は兄貴の双子の弟でアルトだ。よろしくな」
そう言ってアルトは笑った。
「・・・はっ!わ、私はメガアルラウネっていいます。こちらこそよろしくお願いします」
二人の挨拶の後にメガアルラウネも慌てて頭を下げながら挨拶した。
僕はその様子を見て、微笑ましいと思った。
「それでアスト様。御用の方は片付いたのですか?」
挨拶もそこそこにビットから聞かれた。
「ああ!そうだぜ兄貴!何で一人で行っちまうんだよ。俺だって行きたかったのに」
ビットの言葉に反応してアルトが大きな声を出した。
「あ~、悪かったよ。けどお前を危険な目に遭わせたくなかったんだよ」
僕はアルトから目を逸らしながら言った。
「はあ。兄貴はいつもそうだよな。俺が危なくないようにしようとして、先に自分が危険に突っ込んで行くんだ」
「アハハ、けどちゃんとお前のことも自分のことも守れているだろう?」
「そりゃそうだけどさ。だけど兄貴。兄貴が俺を心配なように、俺だって兄貴のことが心配なんだぜ。だって兄貴、怒ると周囲が退くほど徹底的に相手を潰すんだからさ」
「まあ自覚はあるけどさ」
僕はアルトの言うことを否定出来なかった。なんせ向こうの世界の記憶を取り戻す前から家族を大切にしていて、大切にしている家族に対して悪意を向けるやつらは徹底的に潰してきたから全く否定のしようがない。
「アルト様。アスト様は何をやらかしたので?」
「オレも興味ありまさぁ!」
「ちょっと怖いけど、私も知りたいわ」
ビット、グラット、メガアルラウネが興味深々といった風に聞いてきた。
「たいしたことはしてないと思うんだけどな?」
「兄貴、あれらがたいしたこと無いってどんだけだよ」
「そこまでのことしたことあったっけ?」
僕はアルトの言葉に首を傾げた。
「ほら、三年前の盗賊とかのことだよ」
アストは若干震えながら言った。
「盗賊?ええと何だっけ。・・・!ああ思い出した。確か母さんにおつかいを頼まれて街に行った時に遭ったやつらだっけ」
「そうだよ。ようやく思い出してくれた」
「けど、その時ってアルトが言うほどのことを何かしたっけ?」
「したよ。おもいっきり、やらかしたよ兄貴!」
「???」
僕は何をしたのかすぐには思い出せなかった。
「アルト様、アストは盗賊に何を成されたのですか!」
「ああビット。兄貴はな、おつかいの帰りに出て来た盗賊どもに、その当時兄貴が使えた魔法をしこたまぶち込んだんだ」
「?それの何が悪いんでさぁ。襲い掛かって来たから迎撃しただけでやしょお?」
グラットはアルトの言葉に首を捻っている。僕も同感だ。アルトが震えるようなことじゃないと思うんだけどな?
「確かにそうよね。私も普通の対応だと思うけど?」
メガアルラウネもアルトが何故そう言うのかわからないようだ。
「確かにそれが普通の規模ならな。だけど兄貴は普通じゃないからな」
「彼、何をしたの?」
アルトの言葉にメガアルラウネは何かを思い出したのか、アルトに先を促した。
「各属性の魔力弾を盗賊目掛けて連続発射したんだよ」
「それのどこに問題があるんだ?」
「ふうっ、その当時の兄貴の魔力弾は数は出せたが威力はいまいちでな、盗賊達は津波のように押し寄せる魔力弾の弾幕を防御も回避も出来ずにまともに受けて、全員吹っ飛んでいったよ」
「それで?」
「兄貴は吹っ飛んでいった盗賊達を追撃してだな」
「それから?」
「兄貴は泣いて許しをこう盗賊達の声を無視して、盗賊達が気絶するまで攻撃を止めなかった」
「「「うわあ~」」」
三人とも、それはないという目つきで僕を見てきた。
確かに今振り返ってみるとやり過ぎたかなと自分でも思うけどさ。
僕は四人から視線を逸らした。
「「アスト様「あなた「それはいくらなんでもやり過ぎ」ですよ」でさぁ」よ」
三人に異口同音に言い切られられてしまった。
「いやいや、悪いのは盗賊達だからな」
僕は手を横にふりながら必死に弁解した。
「それは確かにそうなのですが、やり過ぎ感が拭えませんね」
ビットに駄目だしされた。
結構ダメージが大きかった。
「それで、気絶した盗賊達はどうなったんでさぁ?」
「兄貴は盗賊達をその場に放置して、俺の手を引いて家に帰った」
「放置って」
メガアルラウネは呆れたように言った。
「あの時俺は、この先どんなことがあっても兄貴は絶対に怒らせないようにしようと固く心に誓ったんだ」
「いやいや、何だよその決意わ!」
僕は思わずツッコミを入れた。
「いえ、アスト様。今の話を聞く限り、当然の決意だと思いますよ」
「僕は身内には甘いんだけどなぁ」
そう言って僕は肩を落とした。
「それとこれは別の問題だと思いやすぜアスト様」
「私もそう思うわ。だってあなた、森で派手にやっちゃってるんだもの」
ビットに続いて、グラットやメガアルラウネからも言われてしまった。
「はあ、みんなで言わないでくれよ」
僕はどっと疲れが出て来た。もう今日はこのへんで話を切り上げたい。
「あ~、グラット」
「何でさぁアスト様?」
「もう僕は疲れたから寝る。ビットとアルトに状況説明を頼む」
「わかりやした」
「ビット、アルト、詳しいことはグラットに聞いて置いてくれ。メガアルラウネ」
「なあに?」
「とりあえずは君と魔物達は、明日まで好きに行動してくれていいよ。何か入り用の時はそこにいるビットかグラットに聞いてくれ」
「わかったわ」
「それじゃあみんなお休みなさい」
「ああ、兄貴お休み」
「お休みなさいませアスト様」
「お休みなさいでさぁアスト様」
「お休みなさい」
僕はみんなに就寝の挨拶をして、自分の部屋に戻った。




