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廻る世界と星界竜  作者: 中野 翼
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第二ラウンド

ようやく僕達も今行われている戦闘に本格的に参加する。僕はヒュドラをいつでも動かせるようにイメージを練った。次に隣にいるグラットの様子を確認した。グラットはつるはしをかまえ、すぐにでもヒュドラの外に出られるように片足を一歩前に出していた。それを確認して、次に視線をグラットから前にいるメガアルラウネの方に移した。彼女の方も、搾取ローズを攻撃させていた薔薇の花びらを自分の周囲に対空させて戦闘準備を整えていた。次に視線を離れた位置にいる黒い外套の男とローズクイーンに向けた。黒い外套の男もローズクイーンも先程の発光の後は、とくにかまえなどはとっていなかった。だが静止しているローズクイーンからは搾取ローズの時には考えられなかったほどの強いプレッシャーが周囲に撒き散らされている。


「なんで急にここまでプレッシャーが強くなったんだ?ただ姿が変わっただけのはずなのに?」


さっきと今とでは、本当に同一の個体なのかわからなくなるほどの変貌ぶりだ。


「ふっ、ふっ、ふっ、教えてあげましょう。ここまで急激に強くなった理由はこの森にあったものを今の茨でねこそぎ栄養としたからですよ」


「ねこそぎだと!」


「ねこそぎですって!」


僕達はその言葉に驚愕した。


「ええそうです。嘘だと思うならあなたの悠渡友種で確かめてみてはいかがですか、あなたの友たる魔物達が今現在どうなっているのかをね」


「くっ、そうさせてもらうわ」


そう言ってメガアルラウネは目をつぶった。おそらく悠渡友種で繋がっている魔物達の方に意識を向けているのだろう。


僕は視線を彼女から黒い外套の男に移し、彼女が集中している間黒い外套の男が邪魔しないようにやつの一挙一動に気を配った。だが黒い外套の男は、ただじっとメガアルラウネの方を向いているだけで、とくに何かをする動きは見せなかった。


「いや、そんな、そんなはずはないわ。こんなの嘘よ~!」


突然メガアルラウネから悲鳴が上がった。


「ど、どうした?」


僕は彼女にそう問い掛けながらも彼女の悲鳴から魔物達がどうなっていたのかを大体予想出来てしまった。


「うっ、うっ、森の中にいたみんなの内、鳥さんと私達の後ろの森にいた以外の他のみんなは全滅したわ。うっ、うっ、うわーんみんな~」


魔物達のことを伝え終わった途端、メガアルラウネは大きな声で泣きだしてしまった。


「アスト様、慰めなくていいんでさぁ?」


それを見たグラットが彼女に何かをしてあげたそうな声で言った。


「いや、友達を大勢一度に亡くしてしまったんだ、今はそっとしておこう。それに、今の僕達に彼女をなぐさめている時間は無いんだから」


「本当にそれでいいんでさぁ?」


グラットは納得がいかないようだ。その気持ちは理解できる。だから僕はグラットに、僕達が彼女と彼女の死んだ友達達の為にしてあげられることを提案する。


「グラット、彼女は今悲しみにくれている。だから、目の前のやつらは僕達で倒して、彼女の友達の仇を討とう!」


「アスト様。わかりやしたぜ。あいつらをオレとアスト様でボコボコにしてやりやしぉ」


グラットは僕の提案を聞いて、その目を怒りに燃やしながら、黒い外套の男とローズクイーンを睨みつけた。


「おお、怖い怖い。だがそれならこちらとしてもちょうどよい、君達でローズクイーンの機能テストをさせてもらうとしよう。行け、ローズクイーン!」


「来るか!」


「ぶっ飛ばしてやるでさぁ!」


僕達はそう叫びながらやつらに向かっていった。


「これでも喰らえ!水よ!」


僕の呪文とともにヒュドラの口から発生した水球を黒い外套の男目掛けて発射した。水球は狙い違わず黒い外套の男目掛けて飛んでいった。だが、水球が当たる直前に水球は破裂した。何がおこったのか、相手側を見てみると、いつの間にかローズクイーンが黒い外套の男の前に腕を前に突き出した状態で立っていた。どうやらローズクイーンが黒い外套の男に当たるはずだった水球を防いだらしい。ちっ、水球に毒を付与しておけばよかった。そうすれば水球が破裂した瞬間にあいつらに毒が降り懸かったのに。


「おお怖い怖い。君はただの子供じゃないようだね。今君を取り込んでいる水にしろ、今私に放たれた水球にしろ、どちらも普通ではなかった。君は何者なんだい?」


黒い外套の男は興味深そうに聞いてきた。


ちっ、魔物達が相手だと思ってヒュドラを出しっぱなしにしたのは失敗だったか。こんなやつに興味を持たれるとか最悪だ。ここで倒せないと冒険の先々で現れそうで頭が痛い。こうなれば森が全焼するのを覚悟で、フレイムルビーの中のエリダヌス座の魔法で一気に焼き払うか?


「答えてはくれないか。それならば倒した後にゆっくりと聞くとしましょう。行きなさいローズクイーン!」

こちらが考え込んでいる間に黒い外套の男の命令を受けたローズクイーンがこちらに向かって突っ込んできた。


「アスト様、きやしたぜぇ!」


「え、え?げぇっ!」


僕はグラットに言われて考えごとをやめて慌ててやつらの方に目を向けた。ローズクイーンがさっきの茨とは比べものにならない速度でこちらに接近して来ていた。


僕は慌ててヒュドラに水のブレスを吐かせた。今回はちゃんと毒を付与した。ヒュドラから放たれたは水は津波となってローズクイーンに襲い掛かった。


「ローズストーム」


が、ローズクイーンのローズストームという呟きとともに発生した大量の薔薇によって、ヒュドラとローズクイーンの間で水と薔薇が激突し、ローズクイーンには直撃しなかった。それどころか、薔薇の量がだんだんとふえてゆき、今では逆にこちらの方が薔薇の津波に押し流されそうになっていた。


「そう簡単に押し返せると思うなよ!」


僕はヒュドラに魔力を注ぎ込み、水の量を増やした。その結果、拮抗していた水と薔薇は水が優勢となり、津波が薔薇を飲み込みはじめた。今までは中間で激突していた為意味が無くなっていたヒュドラの毒も、ローズクイーンよりになったことで、薔薇とぶつかって出た飛沫としてローズクイーンに襲い掛かるようになった。その結果、ローズクイーンの身体は飛沫が触れた箇所を中心に枯れていった。

「負けない」


ローズクイーンがそう呟いた瞬間、薔薇の量が一気にさっきの二倍近くに増量した。


「押し返せると思うなよ!」


僕はそれを見て、水をローズクイーンの正面に集中させて一気に押し流そうとした。多少は拮抗するかと思ったが、今回はあっさりと薔薇が津波に押し流された。


「何!?」


僕はその状況に混乱した。あまりにあっさりと攻撃がとうって一瞬唖然とした。だがすぐにその理由がわかった。水が流れた後にはローズクイーンの姿が影も形も無くなっていた。


「な!?どこに行った?」


僕は慌てて周囲を見回し、ローズクイーンの姿を探した。


「ソーンドレイン」


周囲を見回していた時に背後からローズクイーンの呟きが聞こえてきた。


その瞬間、背筋に氷の塊を入れられたような寒気が僕を襲った。僕は慌てて背後を振り返ったが、その時にはもう遅かった。茨を槍のように構えたローズクイーンが、ヒュドラの中にいる僕目掛けて攻撃をする瞬間だった。その光景を見た僕は、ローズクイーンの動きがひどくゆっくり感じられた。よくみると、ローズクイーン以外のものもスローモーションのようにゆっくりとなっていた。身体を動かそうとしたが、自分もスローモーションのようにゆっくりとしか動けなかった。その間にも、ローズクイーンの茨が自分に迫って来ていた。回避は出来ないと思い、それに貫かれることを覚悟した。だがその時、視界の端で何かが動いた。それは必死の形相をしたグラットだった。グラットはゆっくりとだが、着実に僕とローズクイーンの間に割り込もうと動いていた。グラットに「やめろ!」と叫びたかったが声が出なかった。ローズクイーンとグラットの行動はゆっくりとだが僕の予想通りに進み、グラットは僕の目の前に、ローズクイーンの攻撃はグラットにもう少しで届くところまで来ていた。僕は思わず目をつぶってしまおうとしたが、それも叶わなかった。グラットが貫かれる瞬間を幻視したちょうどその時、見ている光景に更なる変化が訪れた。無数の花びらがグラットとローズクイーンの間に割り込み、メガアルラウネの姿を形作った。そして彼女は攻撃してきたローズクイーンの茨に身体を貫かれた。その瞬間、スローモーションだった世界が元に戻った。


「かはっ」


「メガアルラウネ!」


僕は思わず叫んだ。グラットとローズクイーンもいつの間にか出現したメガアルラウネに驚いたようで、一瞬呆然としていた。


そして、茨に貫かれたメガアルラウネの身体が刺された所から枯れていった。


「水よ!」


それを見た僕はヒュドラから水球をローズクイーン目掛けて発射した。呆然としていたローズクイーンは水球をもろに喰らって吹き飛んでいった。それを確認した僕は、急いでメガアルラウネをヒュドラの中に取り込んだ。ヒュドラの中に入った瞬間、ローズクイーンが吹き飛ばされた時にそのまま残されていたメガアルラウネに刺さった茨がヒュドラの毒で溶けて消滅した。


「メガアルラウネ!メガアルラウネしっかりするんだ!」


「ごほっ。よかった大丈夫みたいね」


メガアルラウネが体液を吐き出しながらそう言ってきた。


「ああ、君が庇ってくれたからな」


そう言いながら僕は彼女の萎れはじめている手を握った。


「本当によかった。私、今回はちゃんと友達を守れたのね」


彼女はそう言って、笑みを浮かべた。


「友達?僕達はここまで一緒に来ただけの仲なのに?それに僕は君の友達をたくさん」殺しているのに?


そう言おうとした僕の口を彼女の握っていない方の手が塞いだ。


「それでもあなた達は私がスキルを使わずにつくったはじめてのお友達よ。そんなあなた達を守れたんだから私、枯れかけている今も全く後悔はしていないわ」


「そうなんだ。じゃあ僕も本当の気持ちを伝えるよ。最初は弟が君に襲撃されたと思って倒そうと思ってたけど、斬岩カマキリは君の仕業じゃなかったから君は魔物なのに変わってるなと思ったよ。次に一角ウサギ達のことを聞いて寂しいのかと思った。ここに来る頃には、変わっているけどかわいい女の子で友人として見ていたよ」


「嬉しい!私だけじゃなくて、あなたも私のことを友達だと思ってくれていたなんて」


彼女は本当に嬉しそうに微笑み、涙を流した。


「ありがとう。最後に出来た、本当の友達が、あなたで、よかった、わ」


彼女は途切れ途切れにそう呟いて目を閉じた。握っていた彼女の手がだんだん熱を失っていくのがわかった。


「メガアルラウネ?メガアルラウネ!!」


僕はわかっていてもそんな彼女の身体を揺さ振らずにはいられなかった。だが彼女はすでに死んでいて反応が返ってくることはなかった。


「許さない。許さないぞローズクイーン!お前の大切なものも奪ってやる!!」


僕は感情に任せてアイテムボックスからフレイムルビーを取り出し、黒い外套の男に向けた。


「???!!」


ローズクイーンは、僕が何をしようとしているのかわからないようだが自分の主の危機を察したらしく、急いで黒い外套の男のもとへ移動して行った。だが決定的に遅い!


「消えうせろ!エリダヌス座『パエトン』!!」


僕が魔法名を唱えた瞬間、フレイムルビーから白い閃光が放たれた。その光は一瞬にして黒い外套の男とローズクイーンを飲み込んだ。だが、その後も光の勢いは衰えず地面をガラス状にし、枯れた森を消滅させながら直進。その後空の彼方に消えていった。

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