表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廻る世界と星界竜  作者: 中野 翼
26/45

第一ラウンド

メガアルラウネの茨に対し、搾取ローズの方も同様に茨を出して迎撃した。ただ、気になることもある。メガアルラウネの茨は尖った刺を先端にしているのに対して、相手の方は何故か毒々しい花を先端にしていた。


「そんなもので私の茨を防げるとでも思っているのなら大間違いよ!」


彼女はそう叫ぶと、茨の数をさらに増やした。


そうして、茨同士がぶつかろうとした瞬間相手の花に口と牙が生えた。


「な!?」


驚いた彼女は茨を停めよとしたが、一足遅かった。彼女の茨は相手の花の口によって、次々に捕食されていった。


「くっ!」


彼女は茨をなんとか引き戻そうと頑張っているが、相手の茨はそんなことお構いなしに彼女の茨を食らいながら彼女に迫って行く。


「ちっ、水よ!」


僕はその状況に舌打ちして、ヒュドラの口から彼女の茨と相手の茨の交差している箇所目掛けて水球を発射した。


水球は目標箇所に直撃して、双方の茨を吹き飛ばした。


「きゃあー!」


茨を引き戻そうと必死になっていた彼女は茨が切れたせいで、派手に後ろに倒れていった。


「大丈夫か?」


派手に倒れていって心配だったので、声をかけておいた。


「痛いわね。助けてくれたのは感謝するけど、もう少しなんとかならなかったの?」


彼女は倒れた身体を起こしながらそう言ってきた。まあ確かに自分でももう少しやり方があったんじゃないかな、とは思った。


「助けてもらっておいてその言い草はなんでさぁ!」


彼女の言葉を聞いて、隣のグラットはかなりおかんむりのようだ。


「しょうがないだろう、あのまま茨が君に到達していたら君も足元の連中みたいになっていた可能性が高いんだから」


僕はそう言って、足元にある冒険者達の成れの果てを指さした。


「うっ、確かにその可能性は高いわね。無理を言ってごめんなさい。それと、助けてくれてありがとう」


そう言って彼女は僕に頭を下げた。


「わかればいいんでさぁ」


グラットも彼女のその態度を見て、機嫌が直ったみたいだ。


「いやいや、彼女は私のサンプルになるのだから、そこに転がっている餌達と同じ扱いはしないよ」


やつは平然と横合いからそんなことをこちらに言い放った。


「私があんたなんかのサンプルになんかなるわけないでしょうが!」


メガアルラウネは嫌悪と怒りをこめた形相で吐き捨てた。


彼女がこうなる気持ちもよくわかる。こんな気味が悪いやつの手に落ちたら、何をされるかわかったもんじゃない。


「けど、茨が効かないのにどうするんだ?」


あんなやつ相手に悠渡友種のスキルの方は使わないだろうし、どうするんだろう?


「私のスキルが一つだけだと思ったら大間違いよ!これでも喰らいなさい!幻想の花園!」


彼女のその叫びとともに、彼女を基点にして様々な色の薔薇の花が周囲に咲き乱れた。


「ほう、これはなかなか美しい光景ですな。ですがそれがどうしたというのですか?」


外套の男は彼女のスキルを脅威とは見てないようだ。


「うふふ、見てればわかるわ。さあ侵食しなさい薔薇達!」


彼女の掛け声とともに、地面に広がっていた薔薇達が一斉に散り、空に舞い上がった。そして、空を埋め尽くした花びらがやつらに向かってすごい速度で襲い掛かった。


「迎撃しなさい搾取ローズ!」


それを見た外套の男の言葉に反応して、搾取ローズは飛んでくる花びらに向かって無数の茨を伸ばした。


「全てお前の栄養にしてしまいなさい」


たしかに外套の男の言うように、このままだと大量の花びらも相手に捕食されて、搾取ローズの栄養にしかならないように僕にも思えた。大丈夫なのかと思って、メガアルラウネの顔をみたが彼女は余裕の笑みを顔に浮かべて外套の男と搾取ローズのことを見ていた。


「ギィ?」


その様子を怪訝に思い、視線を搾取ローズの方に向けると、ちょうど搾取ローズの口からうめき声が漏れているところだった。


「へえ、あの口鳴き声を上げるんだ」


意外なことを知って、そんな状況でもないのに感心してしまった。


「なんだこれわ!?」


黒い外套の男の困惑した声が聞こえてきた。どうしたのかと思い、黒い外套の男の周囲の状況をよく観察してみると、搾取ローズの茨や口を花びらがすり抜けていた。実体が無いのかと思ったが、花びらがすり抜けていった箇所には次々と傷が出来ていて、搾取ローズはあっという間に傷だらけになっていた。


「くっ、何故当たらない。傷がつくいじょう幻ではないはずだ。なのに何故なのだ!」


黒い外套の男が苛立たしげに吐き捨てた。


だがたしかにそうだ。何故当たらない?何故傷がつく?僕にも彼女のスキルの効果がわからなかった。


そんなことを考えている間にも花びらは搾取ローズを覆い隠すように殺到して、傷をさらに増やしていった。どれだけ茨を振るおうとも、花びらの一枚さえも落とせないのに搾取ローズは茨を振りつづけた。だがとうとう限界がきたようだ。今まで忙しなく動かしていた無数の茨をだらりと垂らし、無数の口からぜぇぜぇと荒い息を漏らしている。


「搾取ローズ!貴様はそれでも私の傑作か!やつらにお前の力を見せずに終わるなぞ絶対に許さんぞ!」


黒い外套の男の言葉に反応して、搾取ローズが息切れをおこしながらもその身を持ち上げた。


「そうだ、それでいい。花びらをどうにか出来ないならば、この花びらの発生源であるあやつを直接始末しろ!もはや生きたままサンプルとするのは諦めた、全力であやつを倒すのだ!」


黒い外套の男のこの言葉を受けた搾取ローズは自身を中心に、茨を全方位に急速に伸ばし始めた。


「何がしたいんだろうな?」


「さあ、何がしたいんでやしぉね?」


僕とグラットはそんな感想を漏らしつつ、ヒュドラに向かって来る茨をヒュドラの八つの首で迎撃した。あるものは水球で吹き飛ばし、またあるものは毒を付与した水のブレスでまとめて押し流した。その結果、相手の攻撃は僕達には触れることさえ叶わなかった。


メガアルラウネは大丈夫かな?そう思って彼女の方を見ると、突き進んで来た茨は花びらの時と同様に彼女をすり抜けていた。


「うふふ、このスキル発動中はそんな攻撃効かないのよ」


彼女は自信満々に胸を張って、誇らしげに言った。


「くっ、当たりませんか。ですが、あなた達には私達の今の行動を許したことを後悔させて差し上げますよ、やりなさい搾取ローズ!」


黒い外套の男の今の状況を打開出来ると確信しているような発言の直後、茨を周囲に伸ばした後動かなくなっていた搾取ローズから突如強烈な光が放たれた。


「うわ!」


「きゃぁ!」


「いったいなんでさぁ!」


搾取ローズから放たれた光に驚いた僕は、反射的に手のひらで目を覆い隠して目を強烈な光から守った。それと同時にメガアルラウネとグラットの方からも光に対する驚きの声が聞こえてきた。


それから幾らか時をおいて、手のひら越しに感じる光が徐々に弱まっていった。


「何だったんだ今のは?」


光が完全に元の光量に戻ったのを確認してから目を開けた。そして先ほど突如光を発した搾取ローズの姿を確認する為、搾取ローズが発光を開始した場所に視線を向けた。


「なんだあいつは?」


思わず疑問が口から漏れた。なぜなら、先程まで搾取ローズがいた場所には人型の何かが佇んでいたからだ。身長は大体大人の女性くらい。どこか丸みをおびたそのフォルムは女性的な印象を受けた。全体の色彩は身体が緑色で、頭部・手首・胸部に毒々しい赤いバラの花があしらわれていた。その色彩は先程までの搾取ローズと一致した。


「くっ、くっ、くっ。まさか搾取ローズの第二形態をお目にかけることになろうとはね」


黒い外套の男は笑いながら気になることを言った。


「第二形態?」


「そう、今私の隣にいるのが搾取ローズの第二形態たる、ローズクイーンです。さあさっさと彼女達を倒して私のサンプルにするのですローズクイーン!」


黒い外套の男の命令に応え、搾取ローズ改めローズクイーンが前に出た。ローズクイーンからは先程までとは比べものにならないプレッシャーが放たれている。


「あれはまずいな。メガアルラウネ、そろそろ僕達も参戦させてもらうよ」


「仕方ないわね」


彼女から了解を得て、僕達も戦闘準備に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ