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廻る世界と星界竜  作者: 中野 翼
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うみへび座

僕達が毒々しい紫色の塊の近くに寄ってみると、塊が揺れ動きだした。


「うわっ!」


僕達は慌て塊から距離をとった。その間にも紫色の塊は揺れを大きくしていく。そして、ついに塊の一部にひびが入った。さらにはそこ以外の箇所でも次々とひび割れが生じはじめた。そしてとうとうひび割れの一つを突き破って何かが突き出してきた。それは黒々とした先の尖った槍のようなものだった。だがよくよく見てみると虫の脚にも見える。だがそうするとこの中に入っているものの見当がついた。最初見た時にはなかったものがあり、いたはずの毒巣グモがいない。そのうえ毒々しい紫色の塊の中から虫の脚みたいなものが生えはじめているこの状況から推察すると、あの中にはきっと毒巣グモが入っているのだと思った。


「毒巣グモ。さすがにランクDの魔物ということか」


なんとなく感心してしまった。その間にも他のひび割れから次々と黒い脚が生えていった。最終的に脚の数は八本にまで増えた。これはもう間違いないだろう。この中にいるのは毒巣グモだ。


「従者モグラ戦闘準備をしろ!あの中にいるのは毒巣グモだ!」


僕は手に持っている杖をかまえながら従者モグラにも戦闘準備を呼びかけた。


「了解ですぜぇアスト様!」

従者モグラも手に持っていたつるはしをかまえた。


「従者モグラ、やつが出て来る間に魔法を叩き込む!お前はもしもあいつが叩き込む前に出て来たら時間稼ぎを頼む」


そう言って僕は魔法発動の準備に取り掛かった。


「了解でさぁ!」


従者モグラも頷いて、僕の前に出た。


それを確認した僕は今から毒巣グモに叩き込む魔法の選択に入った。一撃で終わればいいが、水責めを防いだようなやつだ。何らかの手で魔法を防ぐか回避する可能性は低くはない。となると、使用する魔法は飛ばしたりするものでもある程度持続できるものがいいだろう。だが、手持ちの魔法は電撃を飛ばしたり、風を纏ったりと、この条件には合わない。やっぱり魔法作成で手頃なのを作成するべきかな?そうするとどんな感じにすればいいかな?ううんと、属性は水でいいだろう。毒巣グモの戦い方を考えると、毒を無効かし、糸を防げるとなおいい。それが可能なモチーフになる星座はあったかな?毒巣グモの毒は、相手の動きを封じる神経性の麻痺毒のはずだから、毒か麻痺を無効にするか耐性があればいいだろう。糸は毒が付着している以外は普通の蜘蛛の糸と同じはずだから、触れなければ大丈夫のはずだ。無効はともかく、耐性がある星座はやっぱり毒持ちのさそり座かな?他にはどんなのがいたっけな?ううんと、そうだ!うみへび座もそうかな?いや、うみへび座はヒュドラとかいう多頭の蛇の怪物だったけど、毒は持っていなかったけか?イメージ的には持ってそうだからこれも候補に入れていいか。他にはなにがいたかな?毒で死んだのはいくつか思い出したけど、毒を使う由来のある星座はもう思い出せないな。もうこの二つの内のどちらかにするか。毒の尾を持つさそり座と毒の牙を持つイメージのうみへび座。水属性ならうみへび座の方かな。それにヒュドラには再生能力があったはずだから毒を受けてしまった時の対策にもなるか。毒は細胞を破壊することで麻痺させたりするから、細胞を再生出来れば効果を事実上無効化出来るはずだ。よし!これでいこう。

「ヒュドラ、汝女王ヘラのしもべたるもの」


僕が呪文を唱え始めると僕の身体から溢れる魔力が水に変化しだした。


それを感じてか、毒巣グモの方でも外に出ようとする動きが活発になってきた。


「勇者ヘラクレスの前に立ち塞がりしおおいなる試練」


呪文が進行すると、周囲の水が少しずつ膨らんでいった。


そうこうしている間にも、毒々しい紫色の塊の前の方も破れて中にいる毒巣グモの赤い瞳が見え始めてきた。


「九つの首に毒の牙、その内八つの首に再生の力を、要の首に不死の力を持つ大蛇よ」


水が九つの蛇の頭を形成し初めた。そのどれにもしっかりとした牙がある。


毒巣グモの方もとうとう塊が完全に破れて全体が外に出て来た。


「我が前に立つ敵の前に立ち塞がる試練となれ」


水は完全にヒュドラの形になった。僕は内側からヒュドラを見た。イメージのせいか、ヒュドラの蛇頭には眼に口、鋭い牙、長い蛇体には鱗がやけにリアルに形作られている。昔に読んだ本に出て来たヒュドラにそっくりになっていた。


危険を感じたのか毒巣グモは、僕の前に立つ従者モグラにはめもくれず、僕に向かって紫色の糸を吐き出した。


「オレを無視して、アスト様の邪魔してんじゃねぇよ!」


従者モグラがつるはしを地面に突き刺した後に振り上げると、つるはしの先端に引っ張り上げられるように地面が隆起した。吐き出された糸は隆起した土の壁に当たり、僕のところまでは届かない。


毒巣グモはそれを見て遠距離攻撃は無駄と判断したのか、こちらに向かって突進して来た。だが、こっちに向かう途中にある地面が突然崩落した。勢いよく突進してきていた毒巣グモは崩落して出来た穴に脚を捕られてうずくまった。


「はっ、ざまあみろ!」


従者モグラがテンション高めで喜んでいる。


どうやら穴が出来たのは従者モグラの仕業らしい。僕は毒巣グモがうずくまっている間に呪文を完成させることにした。


「うみへび座『ヒュドラ』!」


僕は大きな声で呪文の終わりを、魔法名を唱えた。すると、姿形はリアルだったが置物のように無機質だったヒュドラに命が宿ったように蛇身がうごめいた。微動だにしなかった身体は今は僕のイメージで自由に動かせる。


毒巣グモは口から糸を吐き出した。その糸は近くの木に絡み付いた。そして毒巣グモはその糸を引き寄せて穴から脱出した。


どうやらさすがに自重がありすぎて支えがないと穴から出られなかったようだ。穴から脱出した毒巣グモは、再び僕目指して突進して来た。


だが、もうすでにヒュドラは完全な姿になっているからとくに恐れる必要はなかった。


「従者モグラ!ヒュドラの中に入れ!」


僕は前衛にまわしていた従者モグラを巻き込まない為に傍に呼び寄せた。


「了解でさぁ」


従者モグラは急いでヒュドラの傍に移動して来たが途中で急に止まった。


「アスト様、どうやって中に入ればいいんで?」


どうやらどうやって中に入ればいいのかがわからなかったようだ。


「そのまま水の中に突っ込め!」


僕がそう指示すると、従者モグラは迷わずにヒュドラの中に突っ込んで来た。


僕は中の水を操作して、入って来た従者モグラを自分の隣に移動させた。


毒巣グモは、こっちに向かって来る途中に、さっき従者モグラが糸を防ぐ為に作った土の壁に激突した。だがそれをものともせずにこちらに向かって来る。


「ヒュドラの力を見せてやる!」


僕はヒュドラの首四つを毒巣グモに向かって突撃させた。


毒巣グモは突進しながら紫色のネット状の糸を吐き出して応戦した。


だが、ヒュドラの身体に触れた糸はシュウシュウと音を響かせて溶けていった。


毒巣グモはそれを見て、慌て突撃して来るヒュドラの頭にたいして回避行動を起こそうとした。


だがその行動は決定的に遅かった。ヒュドラの頭達は回避行動を行おうとしている毒巣グモの脚に食らいついた。


「グギャアーーーー」


食らいつかれた毒巣グモは悲鳴を上げながらもなんとかヒュドラの頭を外そうともがき出した。


僕はさっさと行動不能にする為にヒュドラの毒を流し込んだ。


毒巣グモはさらに激しく暴れはじめたが、だんだんと動きが鈍くなっていった。大体十分くらいで満足に動けなくなったようだ。今では身体の一部を僅かに痙攣させるのがやっとになっているように見えた。


「毒の方はイメージが明確とはいえなかったはずなのにすごくよく効いたな」


毒は風や雷、水に比べてかなりおおざっぱなイメージだったのにここまでよく効くと、かなり意外に感じた。


それともゲームクリエイターで作成した魔法はこの世界の魔法とはまるっきり別物ということなのかな?


「アスト様、この後はどうするんでさぁ?」


僕は従者モグラに話し掛けられたので、考えるのをいったん終了してこの後どうするのかを考えた。


結局森の奥からはなにも出てこなかった。だけど待ち伏せがあったいじょう森の奥に何かがあるのは確かだ。ならヒュドラを維持したまま奥に向かった方が安全は確保しやすいかな?


「とりあえず、毒巣グモの身体をアイテムボックスに放り込んでからヒュドラ状態で奥に向かうとするよ」


「了解でさぁ!」


従者モグラからの返事を聞きながら僕は毒巣グモに食らいついついている頭を使って、虫の息の毒巣グモを手元に引き寄せた。


アイテムボックスに入れる為に毒巣グモにとどめを刺そうと思ったが、毒巣グモの眼からは完全に光が消え失せていた。


「毒がまわりきったか」


考えごとや引き寄せている間に完全に毒が回ったようだ。とどめを刺す手間が省けたので、毒巣グモの遺体をアイテムボックスにそのまま収納した。


「さて、行くか」


僕は自分と従者モグラの身体を頭の方に移動させた。それからヒュドラの身体を蛇のようにくねらせて、森の奥へと前進させた。

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