フレイムルビー
僕とビットは、展開されたフィールド2の中心辺りに理科の実験に使うような大きなテーブルを設置して実験の為の準備をした。テーブルの上には、先程下の保管庫で収納した金属や鉱石がいくつも並んでいる。
「さてと、どうやって効果とかを調べようかな?」
金属や鉱石なんて、あっちでもこっちでも加工されたものを見たりするぐらいで加工前の効果や性質を調べる方法なんて知らないからな。どうしたものかと考え込んでいると、ビットが声をかけてきた。
「あのうアスト様」
「どうしたビット?」
「テーブルの上にものを広げた後でなんですが、アイテムボックスの表示で確認すればよろしかったのでわ?」
「それが出来れば苦労はないんだけどな」思わずため息が漏れた。
「どういうことですか?」ビットには、なぜなのかわからないようで首を捻っている。
僕はテーブルの上のものに視線をやって、ビットに理由を教えることにした。
「あのなビット」
「はいアスト様」
「今テーブルの上にあるものを見てお前はどう思う?」
「テーブルの上ですか?金・銀・銅・鉄にルビー・サファイア・エメラルドなどの原石に見えるものが置いてあるように見えますが?」
「ああ、それが答えだよ」
「答えと言われましてもやはりわからないのですが?」ビットはさらにわからなくなったようだ。
「見える。そのとうりだよ。今置いてあるものは全てこの世界で作成されたもので、見た目が同じでもそれが向こうにあるものと同じものだというわけではないんだよ。だからアイテムボックス内での表示は全部???で区別がつかないんだよ」
「ああそれは確かに困りますね。効果や性質に違いがあるとはいえ全部同じ名前では区別がつけられないですからね」
ようやくビットもアイテムボックスでは駄目な理由をわかってくれたみたいだ。「わかったろ。だから一つ一つ自分で調べないと駄目なんだよ」
「そうですね。それ以外に方法も無いでしょうしね。うん?」ビットは理解を示した後にうんうん唸りながら何かを思い出し始めた。
「ビットどうかしたのか?」
僕が問い掛けてもビットは考えつづけた。そして、少しして突然はっとした顔をしていきなり頭を上げた。
「いえアスト様、そんな面倒なことをしなくても調べる方法ならあります!」ビットは突然そんなことを言い出した。
「そんな都合のいい方法があるのか?」
「あります。ステータス確認ですよアスト様!」
「ステータス確認?あれって素材とかに使えるのか?」
「ええ、可能です。スキルで内容を確認して名前をつけて、アイテムボックスに放り込んでいけばいいんですよ」
「名前をつけるって、どういう意味だ?」
「言葉どうりですよ。今ある鉱物がアイテムボックス内で?表示なのはこの世界にしかなく、名前をつけられていないからです。ならば、作成者のアスト様が名前をつければ?表示ではなくなります!」
「確かにその方法なら手間が省けるな」
何となくやれそうな気になってきた。この方法なら、いちいち鉱物を砕いたりする必要もないし、爆発の危険性も無くなる。安全に進められるならそれにこしたことはない。
「よし!それでいこう」
とりあえずは、テーブルの上にある赤い鉱物をステータス確認を使って見てみた。
???の原石
コランダム(酸化鉱物)
アルミニウムに酸素が結びついたつくりをしている鉱物。
加工することによりルビーになる。
火の魔力が宿っており、火に関するものの素材として効果を発揮する。加工する際には、特殊な方法をとらなければ振動で爆発する危険性あり。
問題無く内容が表示された。この鉱物は火の魔力を宿したルビーの原石らしい。名前は何にしようかな?もう安直にフレイム ルビーとかでいいかな。でもやっぱりこれはさすがにひどいかな。はあー、鉱物の名前なんてどうすればいいんだか。思わずため息がこぼれた。
「なあビット、鉱物ってどんな名付け方をすればいいと思う?」
とりあえずビットに相談してみた。
「アスト様のお好きにすればよろしいですよ。基本的にアスト様が分かればいいんですから」
「僕が分かればいい?」
「ええ、基本的にそれはアスト様のスキルの素材ですから。アルト様は気にしないでしょうし、私や従者モグラはアスト様がどんな名前にしてもかまいませんからどうぞご自分のお好きな名前をおつけください。それに、気に入らないなら後で変更すればいいだけのことですから大丈夫ですよ」
「それなら安直な名前でもとりあえずつけとけばいいか」そう決めて、目の前の赤い鉱石にフレイムルビーと名付けた。すると、今まで?表示だったところにフレイムルビーと入って、素材名がフレイムルビーの原石に変化した。さてと、これを素材にしてフレイムルビーを作成してみようかな。目の前の原石を指定して、作成を選択。赤い鉱石があっという間に綺麗にカットされたルビーに早変わりした。ルビーの中をよく見てみると、紅蓮の炎が揺らめいていた。それは大きくなったり小さくなったりを繰り返して鼓動を打っているようにも見えた。
「上手くいった。このスキルなら爆発もしないみたいだな」
「これで爆発の心配は無くなりましたね」
「ああ、効果がよくてもいちいち爆発しては堪らないからな。さてと、ステータス確認もしておくか」そう思いフレイムルビーの内容を確認した。
フレイムルビー
コランダム(酸化鉱物)
原石を加工して作成された魔力内包型宝石のルビー。中で揺らめいている炎の色はものによって異なる。魔力を吸収し、火の魔力に変換する力がある。元々が火の魔力の場合は、それが魔法ならば宝石内に保存することが可能。保存された魔法は魔法名を唱えることで解放される。
「なんか使いがってが良さそうになったな」
「そうですね。魔法使いのアスト様にとってはかなり有用だと思われます」
確かにそうだ。魔法はイメージが大切だとはいえ、強力な魔法ほど唱えるのに時間がかかるのも確かだ。ただの火球とかなら、唱えるのも単語ですむが、複雑な魔法を使おうとするとどうしても時間がかかる。それを単語にまで落とせるなら、かなり便利に違いない。
「試しに何か魔法を保存してみてはいかがでしょうかアスト様」
「そうだな。何を保存しようかな?」
やっぱりなるべく時間のかかる魔法を保存したいところだけど、手持ちにそこまで長い時間唱える魔法ってないんだよな。この際魔法作成で新しく作成して保存してみるか。そう思いたち、魔法作成に取り掛かることにした。まず初めに決めることは、魔法の種類・威力・範囲・追加効果・消費魔力といった基本的なことから決めていくか。魔法の種類は、火属性だから攻撃。威力は特大。範囲は出来るだけ広範囲。追加効果は今はなし。消費魔力は全体の十分の一でいいかな。後は呪文と魔法名を決めて完了と。呪文は魔法をイメージしやすくするものだから、何かモチーフがあるといいんだけどな。ここ最近で何かモチーフになることはなかったかな?そうだこないだアルトに言った星座なんかどうかな。あれなら神話とかにも繋がりがあってイメージするにもピッタリだ!これでモチーフは決まった。後は何の星座にするかだな。火に関するもので強力なのというと何があったかな?そうだ!確かエリダヌス座が条件に当て嵌まるな。これで星座も決まったし始めるか。フレイムルビーを握り締めて呪文を唱えはじめた。
「太陽神アポロンの息子パエトンよ 太陽の馬車を借りて天空を駆け回れ 汝の軌跡は全てを焼き尽くす火事となる」
呪文を唱え終わると、ルビーの中に向こうの世界でみたエリダヌス座が描かれていた。「どうやら問題無く出来たみたいだな。後は、使うときに魔法名を言えばOKと」
「どうですかアスト様?」
「ああビット、上手くいったよ」
「そうですか。どこで試されますか?」
「ううんと、今はまだいいや。アルトが起きたら一緒に試すから」
「そうですか。では、他のものに移りますか?」
「いや、アルトが休んでいるうちにやりたいことがあったのを忘れてた」
「やりたいこと?」
「ああ、宿の支払いと一角ウサギの依頼を片付けようと思ってる」
「宿はともかく、依頼は一緒にした方がよいのでわ?」
「いや、もうかなり一角ウサギとは戦わせたから後二体くらいは僕の方で片付けるよ」
「お供いたします」
「いや、ビットはアルトの面倒を頼むよ」
「ですが!」
「大丈夫だよ。アルトと違って僕は簡単に戦闘から離脱出来るんだから」
ビットは幾分迷ったようだが最終的には、「わかりましたアスト様。いってらっしゃいませ」と言ってくれた。
「行ってきます」僕はそう言ってこの世界を後にしようとして、まだ時間を合わせ直してないことを思い出した。
「いけない。また忘れるところだった」僕は条件設定でこっちと向こうの時間の流れを同じにした。「これでよし!さてと、転移」そう唱えて僕はこの世界を後にした。




