忠誠のフォーク
転移でこちら側に戻ったが、時間を加速させていたことを忘れていて、今目の前で斬岩カマキリがこっちを探してキョロキョロしていた。その眼が転移してきた僕達をとらえた。
「げぇ」斬岩カマキリは、すごいスピードでこっちに急接近してきて、その勢いのままに鎌を振り上げ、その後おもいっきり振り下ろしてきた。僕達は、慌ててその場から飛びのいた。鎌は地面に、命中して土埃を上げている。
「いきなり危ねぇな!」
「悪い、時間ずらし直し忘れてた」
「アスト様、それよりも早く離れましょう。私やアルト様ならばともかく、アスト様ではあれをくらっては危険です」
「わかってる」そう言って僕は斬岩カマキリから距離をとった。斬岩カマキリは、鎌を揺らしながら次は誰に攻撃するか考えているようだ。鎌が揺れるのが止んだ。目標を決めたらしい、斬岩カマキリは真っ直ぐにビットに襲い掛かった。斬岩カマキリの攻撃が当たる間際に、ビットは跳んで上に避けた。そして、ビットは避けた瞬間に何かを斬岩カマキリ目掛けて投げた。それは斬岩カマキリの眼に当たり、斬岩カマキリは絶叫しながら暴れはじめた。手当たり次第に鎌を振るい、辺りに攻撃している。
「ビット、いったい何を投げつけたんだ?」
「これです」そう言ってビットは、手に持っていたフォークを見せてきた。
「フォークが魔物に刺さるのか?」そう疑問に思って斬岩カマキリの眼のところをよく見てみると、本当にフォークが刺さっていた。
「何でフォークなんかが魔物に刺さるんだよ。いくら眼が他よりは脆いんだとしてもおかしいだろ」
「それはでございますね。これがただのフォークではないからですよ」
「ただのフォークじゃない?」だったら、どんなフォークなんだろうと思った。「これは、私が装備作成により作りだした忠誠のフォークです」
「忠誠のフォーク?」
「はい。これの能力は、使用者の忠誠心を攻撃した相手のダメージに変換します。その為、忠誠心が強い程大ダメージを与えられます」
「それって、ダメージは上がっても貫通力には関係はない気がするけど」
「はい、今のは斬岩カマキリが暴れている理由の方です。刺さったのは、私の筋力とフォークの材質によるものです」
「材質?」
「はい。このフォークは、あの世界の誕生とともに生成された特殊な金属を素材にして作成いたしました。その金属には、アスト様のもう一つの姿の力が色濃く反映されていて、かなり強力な素材となっています」
「強力ってどんな風に?」
「そうですね、たいていのものなら貫けますし、かなり強力なスキルを付与出来ますよ」
「それはすごいな」
「兄貴!」アルトが声を上げた。何かと思って、アルトの方を見た。アルトは、暴れている斬岩カマキリを隙を見ては双剣で切りつけていた。
「どうした?」
「鎌が光出したぜ」
そう言われて、斬岩カマキリの鎌を見てみると、緑の光を放ちはじめていた。
「斬空波か。二人共そいつから離れろ!」
「はい」「おう」僕達は、斬岩カマキリから急いで距離をとった。その間にも鎌の光は強くなっていき、こちらがある程度離れたあたりで放たれた。狙いも何もなく、痛みに任せて周囲に斬空波をばらまきだした。
「ち、見境なしか」僕は舌打ちした。
「最初に眼を潰したのは、失敗でしたかね」
「今は、そんなことを言ってる場合か!」
「ですがアスト様、ではいかがいたしますか?」
「あのスキルは、鎌がないと発動出来ない。僕が念動領域であいつの動きを止めるから、その隙にアルトとビットで鎌を切断しろ」
「わかったぜ」「了解しました」
「じゃあいくぞ!」そう言って僕は、念動領域で斬岩カマキリを抑えにかかった。しかし、落穴モグラに使った時に比べて抵抗が半端じゃなかった。少しでも気をぬくと、振りほどかれそうになる。やっぱり、ランクが上がると効きも悪くなるな。
「アスト、ビット、今の内に鎌を切り取れ!」
「おう」「わかりました」
二人は、斬岩カマキリに急接近して行った。その間も、斬岩カマキリは僕の拘束から逃れようと身体に力をこめている。だが、斬岩カマキリが拘束を振りほどくよりも早く、二人が斬岩カマキリの側にたどり着いた。
「いくぜビット」
「はい」
二人は跳躍した。アストもビットも三メートルもある斬岩カマキリの腕の位置まで跳び上がり、アストは左腕に双剣を叩き込み、ビットはフォークを数本右腕のつけねに投げつけた。その結果斬岩カマキリの左腕は吹き飛び、右腕はかろうじて繋がっているが満足には振るえない状態となった。
「よっしゃあ!」「やりましたアスト様!」
だが、自身の最大の武器を失ってなお斬岩カマキリは激しく抵抗してきた。抵抗が強くなるにしたがって、念動領域の力を押し返し始めた。
「くぅ、アルト、ビット!もう長くは抑えられない。早くそいつから離れろ!」
「了解!」「わかりました」そう言って二人は斬岩カマキリから距離をとった。
「ち、限界か」そう思った瞬間、念動領域から解放された斬岩カマキリは、こちらに向かって突進してきた。
「兄貴!」「アスト様!」二人は慌ててこちらに走り出そうとした。
「大丈夫だ!ビット!有るだけのフォークを放り投げろ!」
「は、はい」僕の声に応えてビットは、十数本のフォークを空中にばら撒いた。僕はそのフォーク達を念動領域で操って、突進して来る斬岩カマキリの眼、口、羽、関節に飛ばした。フォーク達は、全方位から斬岩カマキリの目標部分に次々と刺さっていった。
「ギシャァァァ!」
脆い部分を集中的に攻撃されて斬岩カマキリが絶叫した。絶叫する斬岩カマキリに更に追い打ちをかける為に魔法の準備を始めた。
「これでも喰らえ!雷よ!」僕の手からいくつもの電撃が斬岩カマキリに向かって放たれた。放たれた電撃は斬岩カマキリに刺さっているフォーク達に着弾した。当たった瞬間斬岩カマキリの身体が発光した。
「ギシャァァァァ」斬岩カマキリは更なる絶叫を上げて黒焦げになり動かなくなった。
「うわー、真っ黒焦げになったな」
「そうですね。かなり焦げ臭いですし、少しやり過ぎたのではアスト様?」
「そうかも。アルトのことがあったからこれでもかなり威力を抑えたつもりなんだけどな」
「それでこれかよ」アルトが焦げた斬岩カマキリを指さして言ってきた。
「兄貴も練習したらどうだ?」
「したほうがいいかもな」アルトの言葉に自分でもそう思った。
「なあ兄貴、こいつはこの後どうするんだ?」
「一角ウサギ達同様にアイテムボックスの中に放り込んでおこうと思ってるけど?」
「こいつのこと、依頼とかでてねえかな」
「ううん、こんな街の傍にいたからひょっとしたら依頼が出されているかもな。けど、それは確認してみないとわからないからな」
「じゃあ、依頼があったらこいつを渡すんだな」
「いえ、依頼があったとしても私達が斬岩カマキリを倒したことは秘密にするべきではないでしょうか」
「なんでだ?」
「まず一つ目は、ランクFのお二人がランクDの斬岩カマキリを倒したと言っても信じてもらえるとは思えません」「まあ、確かに冒険者に成り立ての僕達が、二つもランクが上の相手を倒せたとは信じてもらえないだろうな」
「そして二つ目は、お二人の力を知られたくないからです」
「力を、なんでだ?」
「お二人がこれほどの力を持つのは、お二人がユニークハイに連なるものだからです。そして、その力を利用しようとするものが出てくる可能性は否定出来ません。ならば、今は目立つことは避けるべきかと」
「まあ、それはいえてるかな。じゃあ今回は依頼に斬岩カマキリのものがあってもほおっておくけどアルトもそれでいいか?」
「兄貴がそうしたいなら俺はかまわないぜ」
「決まりだな。斬岩カマキリの死体と切断した鎌を回収してフィールド1に戻るとしようか」
「おう!」「了解です」
僕は、斬岩カマキリの死体の傍までいって「収納」と唱えた。すると、斬岩カマキリの死体が消え、斬岩カマキリに刺さっていたフォーク達だけがその場に落ちていた。落ちていたフォークの一つを拾ってみた。斬岩カマキリの方は完全に黒焦げだったのに、電撃を直接受けたフォークの方には焦げめの一つも無く、銀色に光輝いていた。
「どんだけ頑丈なんだこのフォークは」
「これくらいは当然でございますよアスト様」
「ビット、戻ったらこの金属のことをもっと教えてくれないか?」
「わかりました」
「さてと、じゃあ帰るとするか」そして、僕は二人の手をとって「転移」と唱えた。僕達は、来たとき同様一瞬でフィールド1に戻った。
「さてと、僕とビットはフォークのこととかでいろいろやるとして、アルトはどうする?」
「俺は疲れたからもう家で寝るよ」
「ああ、そういえばアルトは斬岩カマキリとの戦闘に加えて、一角ウサギとも戦いまくってたから当然か。じゃあお休みアルト」
「お休み兄貴」
そう言ってアルトは家の方に歩いて行った。
「じゃあ僕達も行こうかビット」
「はい、アスト様。それではフォークの素材となった金属のある場所にご案内いたします」そう言ってビットと僕は家とは反対方向に歩き出した。




