クリエイターサポート
僕が目覚めてみたら、そこは寝る時に寄り掛かった大樹の根元ではなく、何故かよく知っている自分の部屋だった。よく分からなかったので、とりあえず部屋から出た。そうすると、椅子に座っているアルトとテーブルの上に置かれた料理、そして、二本足で立っている大きなウサギが視界に映った。「おはよう、兄貴」アルトは、隣に立っているウサギについて気にしていないようだ。
「おはようアルト。ところで、隣のウサギは何だい?」僕は、アルトにそう問い掛けながらウサギを観察した。体長は1メートルくらいで、真っ白なふかふかの毛で全身を覆われている。赤い瞳には、確かな知性の光が宿っている。体には、黒い執事服をまとっており、首からは金色の時計を下げているみたいだ。全体的に見ると、かなり可愛く見えるが、ここが自分の家にしろフィールド1にしろ、何故ウサギがいるのかが分からなかった。
「紹介するぜ兄貴、こいつは兄貴の子供で従者ウサギっていうんだ」
アルトから、よく分からないことを言われた。そこにいるウサギが僕の子供というのは、どういう意味なんだろう?
「アルト、それってどういう意味なんだ?」
「それについては、私が説明いたしますアスト様」ウサギが一歩前に出た。
「私は、アスト様をサポートする為に、この世界が生み出したモンスターです」
「僕をサポート?」
「はい、私はアスト様の身の回りのお世話から、戦闘やアスト様のスキルであるゲームクリエイターを使用する時のサポートまで、なんでもお手伝いいたします」
「ええと、君が僕の手伝いをしてくれることはわかったけど、僕の子供っていうのはどういうことなんだ?」
「そいつは簡単だぜ兄貴。そいつは、兄貴の魔力とスキルを使って生み出された。だからそいつは、兄貴の魔力を遺伝しているんだよ」
「その通りです」ウサギも首肯した。
「魔力の遺伝。ああ、それは確かに僕の子供といえるな」この世界では、DNA検査なんてものは無いから、魔力が遺伝することを利用して血が繋がっているかを確認する方法がある。そしてそれは、この世界では血肉からだけではなく、魔力も一緒に子供の体を形作っているという証明である。その理論からいうと、僕の魔力を遺伝しているこのウサギは確かに僕の子供といえる。
「あの、アスト様。私は別に貴方様に無理に子供と思っていただかなくてもかまいません。ですが、私が心の中で貴方様を父と慕うことをお許し下さい」
「ええと、そのことを僕に許可を求められても困るんだけど」
「兄貴、駄目なのか?」
「駄目というか、自分の知らない内に生まれたから、実感が湧かないんだよ。けれど、お前のことは可愛いと思うよ」
「それは、ありがとうございますアスト様」ウサギは、嬉しそうにしている。
「そういえば、君の名前は従者ウサギでいいのかい?」僕は、疑問に思ったことを聞いてみた。
「とりあえずは、私しか従者ウサギはいないので、それでかまいません。ですが、出来ればアスト様に名前をつけて頂きたいです」
「名前ねぇ」
「兄貴、名前ぐらいつけてやればいいじゃん」
「そうだなぁ、じゃあビットなんてどうかな?」
「はい、それでかまいません。今日から私の名前は、ビットです」
「よかったな、ビット」
「はい、アルト様」「それで、ビットのことはわかったけど、この家はどうしたんだ?」
「この家ですか。この家は、アスト様がゆっくりお休みになれるように私が作成しました」
「ビットが作成?どうやって?」家作りのスキルでも保持しているのかな?
「アスト様のスキルである、ゲームクリエイターのオブジェクト作成を使ってでございます」
「僕のスキルを?どうやって?」
「先ほども申しましたが、私はアスト様のサポートをする為に生み出されました。その為、私はアスト様のスキルの劣化能力を保持しています」
「劣化能力?」
「はい、スキル名はクリエイターサポートといいます。この能力は、アスト様の魔力の影響下にある空間でのみ、アスト様のゲームクリエイターの力と同じ力を発揮します」
「それって、モンスターとかフィールド作成とかが出来るってこと?」
「はい。可能です。ですが、アスト様よりも小規模なものを作成するのがせいぜいです」
「小規模って、世界まで作成出来るスキルからどれくらいになるの?」
「そうですね、フィールド作成でいえば、大陸サイズまではいけます」
それを聞いて、目眩がした。劣化してそれって、どんだけチートスキルなんだ。「ああ成る程、それだったら家くらい建てられそうだ」自分のスキルだけに、いやに納得出来た。
「そういえばアルト、練習の成果はどうだ?」アルトをよく見ると、見える範囲でもかなり傷が出来ていた。これだと、服の下にも結構傷が有りそうだ。
「おう、兄貴のおかげで衝撃波の発生回数が五回に一回にまで下がったぜ」
「五回に一回、二十%までは下がったのか。まあ、必ず出てたのを考えるとかなりましになったな」
「そうだろ兄貴」アルトが得意げに言った。
「そういえば、兄貴の方は傷と魔力はどんな感じなんだ?」
「傷の方は、そこまで痛くはないけど、魔力の方はあんまり回復していないかな」
「それもしかたありませんよ。この世界をたったお一人で生み出されたのですから」
「はあ、何とかもう少し魔力を回復する方法があるといいんだけどな」
「それならありますよ」
「ある?どんな方法?」
「アスト様が眠っている間に、この家の裏にフィールド作成で回復効果のある温泉を作成しておきましたので、お使い下さい」
「温泉か。付与効果もあって効きそうだな」
「兄貴、温泉ってなんだ?」
「温泉っていうのはな、この世界の魔力が地中で結晶化したものが、地熱で温められた地下水と一緒に吹き出したものだ。吹き出したお湯には、かなり高濃度の無色の魔力が含まれていてな、触れたものの傷と魔力を回復させる効果があるんだ」
「へぇ、そうなのか」
「すぐにおはいりになりますか?」
「いや、もう料理も並んでいることだし、食べてからにするよ」テーブルの上の料理を見ながら言った。
「そうですか。では、どうぞぞんぶんにお召しあがり下さい」
「「では、いただきます」」僕とアルトは、テーブルの上の料理を端から食べていった。アルトは、練習でよほどお腹が減ったらしく、すごい勢いで料理を口に放り込んでいった。見るまにテーブルにあった料理が消えていった。
「アルト、そんなに急いで食べなくても」
「わりぃ、兄貴。腹が減ってた上に、この料理が美味すぎてよ」
「確かに美味しいけどさ」
「お二人ともありがとうございます」
「なあ、ビット。美味しいんだけど、材料は何処から持ってきたんだ?」テーブルの上にあった料理は、軽く見ただけでも肉・魚・野菜・果物とこの世界にはなさそうなものが多かった。
「材料でございますか?それなら、クリエイターサポートのスキルで、食物作成という機能を新しく追加いたしまして、それで材料を出して料理いたしました」
「それじゃあ、これ全部魔力で出来ているのか?」僕は、目の前にある料理を指さしながらビットに聞いた。
「いえ、素材の方で大樹の果実も使用していますので、魔力だけというわけではありません」
「果実?素材としては、どんな感じ?」自分が使用した鱗の方は、変換効率がよく分からかったので聞いてみた。
「素材としてですか?それならば、果実一つで今お食べになっている料理の材料は作成出来ましたよ」
以外と大量に作成出来るらしいことはわかった。それに、なんというか味というか旨味も上がっているような気がするし、作成したものの能力も上がってそうだ。次は、果実を使って何か作成してみるか。そう思いつつ食事は続き、テーブルの上の料理は無くなった。
「「ごちそうさま」」僕とアルトは、揃ってビットに言った。
「お粗末様です。では、温泉の方に行きますか」
そう言って、ビットは歩き出した。僕達は、その後をついて行った。
「ここが温泉でございます」そう言ってビットは、目の前にある温泉を指さした。
「へぇ」岩が敷き詰められた中に白い温泉が満ちていた。
「結構本格的なんだな」
「喜んで頂けたのなら幸いです」
「兄貴!早く入ろうぜ!」そう言ってアルトは、服を脱いで温泉に飛び込んだ。その結果、大きな水飛沫が上がった。
「アルト、もう少しゆっくりと入れよ。」
「すまん、兄貴。けどさ、この温泉ってものすごく気持ちいいぜ、兄貴も早く入れよ!」
「そうか、それじゃあそうしようか」そう言って僕も服を脱ぎ初めたが、気になることがあってビットの方を見た。
「ビットは温泉に入るのか?」
「いえ、私は食事の後片付けがありますので。どうぞごゆっくり」そう言ってビットは、家の中に戻って行った。それを見届けて、僕も服を脱いで温泉に入った。温泉には、かなりの魔力が満ちていて、傷と魔力が回復していくのがわかった。「確かにこれは気持ちいいな」
「だろ」
アルトの方を見ると、さっき思ったとおりさっきは見えなかった部分にも、傷や打撲の痕があった。
「傷の方はどうだ?」「おう、温泉に入ってからだいぶいいぜ」そう聞いて安心した。それから、何となくアルトの身体を眺めた。寝る前に比べて、日に焼けたように見える。それから、身体が前よりも引き締まって筋肉がついたようだ。元々、前衛のアルトは身体を鍛えていたが、前に見たときよりも明らかに逞しくなっていた。筋肉って、ここまで早くつくものなのか?
「なあ、アルト。お前って、前はそんなに筋肉がついてたっけ?」
「いや、そんなことはないぜ。だけど、練習が終わって見たらこんなになってたんだ」
「とすると、筋肉がついたのはお前のスキルの効果か」
「俺のスキルっていうと、可能性収得か?」
「ああ、あのスキルは一定の割合で相手の力を自分のものに出来るんだろ?多分、それで一角ウサギの力を吸収した結果だろうな」これがゲームだと、ステータスの数値だけが上がるのだろうけど、現実だと肉体にも影響が出るんだな。こっちの世界では普通なのに、あっちの世界を知っているだけに、改めてこうして現実としてみると少し感慨深いな。次にアルトから視線を自分の身体に向けてみた。あまり筋肉がついていなくて、貧弱だった。アルトと違って、後衛の魔法使いとはいえ少し悲しくなった。やっぱり、本ばかり読んでないでもう少し体を鍛えようかな、とか考えてしまった。
「はぁ」ため息がもれた。そうして、少ししたら気をもち直しして、顔を上に向けた。そこには、満天の星空が広がっていた。
「あー、やっぱり綺麗だなぁ」
「本当そうだよな」アルトも空を見上げて同意してきた。
「今度は、星座でも作るかな」空を見てたら、そんなことを考えた。
「兄貴、星座ってなんだ?」
アルトから聞かれた。そういえば、こちらには星座っていうものがなかったことを思い出した。
「星座っていうのはな、星と星を結んで別の形を見ることだよ」
「別の形?」
「そう、動物とか道具とか色々だよ」
「それって、面白いのか?」
「僕は、好きだよ」
「へぇ、今度俺もやってみようかな」
そんな話をしながら、時間は過ぎていった。そうして、温泉からあがって向こう側に戻る準備を始めた。
「そういえばビットも斬岩カマキリとの戦闘には、参加するのか?」
「もちろんでございます」
「けど、ビットのスキルって僕の魔力の影響下でしか使えないんだろ?どうやって戦うんだ?」
「それならご安心下さい。向こう側でも、スキルを使えるようにする手段はありますし、身体能力も結構あるんですよ」
「へぇ、それは楽しみだなぁ。さてと、僕の方は準備完了。アルトはどうだ?」
「俺も終わったぜ」
「じゃあ、ビットはどうかな?」
「こちらも大丈夫です」
「そう、なら行こうか」そう言って僕は、「転移」と唱えた。




