斬岩カマキリ
北側の野原を目指して歩いていると、遠くで大きな土煙が上がった。
「アルトのやつ、頑張ってるな」僕は、そう思った。だけど、近くに行くにつれておかしい気がした。「いつものアルトの素振りの間隔と合わない様な?」いつもだと双剣を交互に振るから、間隔も一定のはずなのに、今日はバラバラだ。それに、近くに来たからかアルトが振る剣の音とは別に、もう1つ何かが空を切る音が聞こえる。それが気になって、移動速度を上げた。ようやくアルトを視界に捉えたら、アルトは戦闘中だった。相手は、身の丈3メートル近いカマキリだった。「斬岩カマキリ!」その魔物のは、岩をも切り裂く鎌を持っている、この辺りにはいないはずのやつだった。「アルト!逃げろ!」僕は、思わず叫んでいた。
「兄貴?ちょうど良かった。こいつを倒すの手伝ってくれよ」
「悪いが無理だ」気まずくてアルトから顔を逸らした。
「なんで!?」アルトは、断られたことに驚いた。
「それが、こっちの調べもので魔力のほとんどを使っちゃって、戦えるほど魔力が残ってないんだよ」助けられないのが不甲斐なかった。
「そんな!なら仕方ない。それなら、こいつのこと教えてくれよ兄貴」
「そいつは、斬岩カマキリだ!そいつの鎌は岩をも切り裂くことが出来る。」
「岩を!?どうりで俺と打ち合えるわけだ」
「そいつの攻撃は鎌だけじゃないぞ!」
「鎌以外にもあるのかよ」
「そいつは、スキル保持型の魔物だ」
「スキル?どんなスキルだよ!」
「そいつの種族は、3つの決まったスキルの中から1つを保持しているはずだ!」
「決まったスキルってどんなんだよ!」
「1つ目は、鎌の切れ味を上げる切断強化。2つ目は、鎌を大きくする部位拡大。3つ目は、鎌から衝撃波を飛ばす斬空波だ。」
「どうやって見分けるんだよ」
「それは、発動してみないとわからない。だから早く逃げるぞ、どのスキルが発動しても今は勝てないんだから」
「勝てないってなんで言いきれるんだよ!?」そう言うが、やつも攻撃スピードを上げてきていて、かなり押され気味だ。
「僕は、支援出来ないし、お前の方もスキルを使われてない今の時点で互角じゃないか。とてもじゃないけど、勝てないよ」
「確かにそうだけどさ。どうやって逃げるんだよ。背中を見せたら一発でやられるんだぜ」
アルトが言うことも一理ある。こんなの連れて街に戻るわけにもいかないし。どうするかな。その時、斬岩カマキリの鎌が緑の輝きを放ちはじめた。
「なんだ!?」アルトは、今までにない動きに警戒している。
「まずい、アルト!そいつスキルを使う気だ!全力で回避しろ!!」そう言った直後にやつは、鎌をアルトめがけて振り下ろした。アルトは、僕の言ったとうり全力で回避して、なんとか鎌に当たらずに済んだ。だが、振り下ろされたやつの鎌から、僕の方に緑の斬撃がすごい速さで飛んできた。「うぁ!」僕は、慌てて回避した。だけど、こっちを攻撃してくるとは思ってなかった為、回避が遅れた。そのせいで、左腕を切り裂かれた。「くぅ」お前わずうめき声がもれた。
「兄貴大丈夫か!」アルトが心配そうに聞いてきた。
「痛むけど、今は戦闘に集中しろ!」
「わかった。でも、結局どうすりゃいいんだよ」
確かに、あいつのスキルが斬空波である以上、逃げようとしても狙い撃ちにされてしまう。倒せない以上、逃げるしかないのにそれも難しい。こういう時、ゲームなら逃走か転移で逃げられるのに。現実だと、逃走システムなんてないし、転移の方もやり方を知っていても、今は魔力がなくて使えないしな。うん?転移?何か忘れているような?ああ、ある。魔力なんかなくても出来る転移が!「アルト!急いでこっちにこい」僕は、大声でアルトを呼んだ。
「兄貴?わかった!」最初は戸惑ったようだが、すぐにこっちに向かって走り出した。アルトがこっちに来る間に、僕は、アイテムボックスのフィールド1に行く準備を整えた。その時、斬岩カマキリが再び斬空波を放つ動きをした。が、アルトがこっちにたどり着くほうが早い。「アルト!手を出せ!」僕は、アルトに手を伸ばした。
「おう!」アルトも手を伸ばした。あいつの鎌から先ほどと同じ様に緑の斬撃が放たれた。だが、こちらに届く前に僕は、アルトの手を掴み「転移」と唱えた。その瞬間、僕たちの姿はいた場所から消失した。その直後、斬撃が駆け抜けていった。後に残されたのは、僕たちの姿を探す斬岩カマキリだけだった。




