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Episode-1〜Paled Death-1〜蒼褪めた死

 子供には夢を、乙女には花を、老人には安らぎを。


そして――。


人外-フリークス-どもには、銀-しろがね-の弾丸-たま-を。



「いい夜じゃないか―」


ビルの谷間から微かに降り注ぐ弱々しい月光のスポットライトを浴びながら、そいつは俺を見下ろして薄く笑った。


「貴様が死ぬには少々過ぎた夜だがな―」


全身の血が凍りついたかと錯覚させる程の、ぞっとするような、冷たい美貌が紡ぎ出す残酷な微笑みを目の当たりにし、俺は今更ながら、逃れ得ぬ死の予感に慄然とした。


「奴はどこだ」


それまでどこかおどけていた(てい)のそいつの口調が、不意に刃の鋭さを孕んだ。



「くたばれ、この……がっ!」


苦しい息の下から辛うじて絞り出した悪態は、激痛とともに、途中から血返吐に変わっていた。



俺の体を踏みつけるそいつの足に力が篭り、背骨が悲鳴をあげる。


咽頭を逆流して行く吐血に噎せながら、踏み折られた肋骨に、肺が抉られるのを感じた。



常人ならそのまま気死しかねない極限の痛みと苦しみに苛まれても尚、俺は死なない。いや、死ねない。

何故なら―。


「そうだ、簡単に死ねると思うなよ―吸血鬼」


そいつの、その男の言葉に、今の俺が置かれている状況、その全てが集約されていた。


人としての生を捨て、人外の存在―吸血鬼と化した瞬間から、俺の体は限り無く不死に近いモノと成ったはずだった。


吸血鬼化に伴う肉体強靭化と再生能力により、老化や病による死を克服し、常人なら即死レベルの外傷からでも蘇生を可能とし、人知を超えた身体能力と異能を手に入れた。

地上に存在する、あらゆる生物、全ての生態系の頂点に立つ万物の霊“超”。


絶対捕食者たる吸血鬼―。それが今の俺の姿なのだ。


だがそれでも、再生能力を上回る物理的損傷、肉体の破壊(―例えば頭部の切断や破壊、四肢の寸断、修復不可能なレベルの、体内重要器官の損壊等)による死からは免れる事はできない。


それに伴う苦痛もまた同様である。


不死たる吸血鬼と言えど、不滅ではない―。


つまりこの男は吸血鬼の特性を知り尽くした上で、俺に拷問を加えているつもりなのだ。

生かさず殺さず、最大限の苦痛と残虐さを持って。




「選べ」


一切の是非を問わぬ、喉元に白刃を突きつけるがごとき口調で男は言った。


「このまま朝を迎え、陽光に灼かれて苦しみ抜いて朽ち果てるか」



「一思いに、俺に殺されて楽になるか―」



古今の伝承に語られるように、吸血鬼の最大の弱点、それが陽光である。


一部の上位種を除き、陽光を浴びて無事でいられる吸血鬼はまずいない。


陽光に灼かれ、完全に絶命し塵となって消え去るまでの間に死にゆく吸血鬼が経験する苦痛は、想像を絶するものだと言われる。



「これが最後だ。奴は―、ダニエル・ライガンはどこにいる?」


自己で判別できるだけでも、手足を切断され、背骨と肋骨を踏み砕かれ、肺を潰され―、俺の体の損傷は、再生できるレベルを遥かに越えていた。

もはや自力で動く事は不可能だろう。



おそらくこの男は俺が返答を拒否すれば、このままここへ放置して去るつもりだろう。やがて夜が明け、ビルの隙間から差し込む陽光に晒され、塵となる事を期待して。


俺は、ついに屈した。


俺の口が辛うじて、男の要求を満たす言葉を紡いだ瞬間。


銀光の閃きを網膜に焼き付けて、俺の意識は永久に暗転した―。

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