表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

五月雨

作者: 金星 蓮華

初めまして!


こちらはよく読ませてもらうほうでお世話になっております。

今回初めて投稿いたします。

少しでも読んでいただけたら、嬉しく思います。

感想などありましたら作者飛び上がって喜びます!!

生まれてこのかた23年、ワタシの大切なイベントで晴れた記憶がナイ。「サツキ」という5月生まれの、ありふれた名前に決まったのは、ワタシが生まれた日がちょうど春の嵐の横殴りの大雨で、「この先五月晴れのように明るく朗らかに生きて欲しい」という願いを込めて祖母が名前をつけたと聞く。けどそんな願いも虚しく、小中高短大と学校の運動会や授業参観日、文化祭、サークルの飲み会、謝恩会また卒業旅行などでさえ雨で。ワタシが行く所行く所全て雨がついてまわる。

「サツキが移動してすぐに雨は上がって晴れてきたよ。」

高校の修学旅行で奈良県に行った際、親友のサユリはワタシが若草山を去った後に若草山に行くコースで、その後サユリからワタシの携帯にそんなメールが届いた。後日学校でサユリがワタシの肩を叩いて

「小中高サツキとは学校一緒だったけど、やっぱり相変わらず雨女だよね、って言うのもこれで何度目かな?週間天気予報で晴れだったし、当日の天気予報も晴れマーク見たからやっと雨女は卒業だと思ったけど…サツキ、雨女度益々パワーアップしたんじゃない?今日から雨降らしと呼ぶわ!」

とのたまった。ワタシだって好きで雨を降らしてるワケじゃない。家族旅行でもなんでも、ワタシが参加する過去の大切なイベントはことごとく雨だった。なので家族親戚を含めサユリや長い付き合いの友達はワタシが何かのイベントに参加すると決まったら必ず天気予報を見ないでも傘だけは持参するようになっていた。実はワタシの鞄には必ず折り畳み傘が入ってる。別に地形的に年中雨が多い地形ではない。ワタシの周りだけが雨が多いのだ。でも雨女はワタシ以外周りに誰もいない。小さな頃は雨女のあだ名でイジメられた事もあって、今もトラウマである。だからワタシと同じ悩みを抱えている雨男・雨女のコミュニティーを探して雨自慢したり、お互いの武勇伝を語り合う事で傷を慰めあったり讃えあったりして地味にひっそり目立たず毎日バイトに明け暮れていた。この春、短大を卒業しても就職先が見つからず仕方なく親戚のおじさんが経営する、地元で歴史とこだわりある珈琲店で、卒業後も就職先探しながら面接ない日はその店のバイトに入っている。

「サツキがバイト入るとやっぱり雨だな。いっそこの店に就職してみるか?連続何日雨降るか試してみたいよ。」

とおじさんが苦笑いして言った。いつしか珈琲を飲みに来る常連のお客様にも、どうやら雨女の噂は広がりつつあるらしく、チラチラとワタシを盗み見るお客様もいるみたいで、同い年でバイト仲間のサエちゃんが

「またサツキちゃん見に来てるお客いるよ?昨日も一昨日もカウンター7番の同じ場所で座ってた黒いスーツの眼鏡のビジネスマン、今日も来てる。見た目は強面でイケてるけど、サツキちゃんまたチラ見されてるよ?ストーカーじゃないの?大丈夫?」

とカウンター中でコーヒーカップをフキンで拭きながらサエちゃんはこっそりワタシに耳打ちしてきた。

「どうせまた雨女が珍しくて見てるんじゃない?ワタシの事はもうそっとして、ほっといて欲しいよ。今日も雨降らして記録更新してる、とか考えてるんじゃない?あーあ、うっとうしい。雨嫌い。」

ワタシがバイト入る日は必ず雨。窓辺にたたき付ける雨音が気分を、テンションをさらに下げる。接客業だからいつもニコニコの愛想笑いも疲れるし、ヒマになると窓辺をボンヤリと眺める癖がいつのまにか出来ていた。窓の外には紫陽花の葉っぱが大きく繁ってきた。もうすぐ梅雨入りだ。梅雨は好き。だってワタシのせいで雨になった、と言われないから。

「いらっしゃいませ。」

カランカラン、とドアにつけてあるカウベルが思い切り鳴り響いたので反射的に笑顔で出迎える。「…太陽こっち!」

とカウンター席の7番に座っていた眼鏡のビジネスマンが、いましがた入って来たビジネスマンに手を挙げる。グレーのオーダーメードっぽいスーツが、がっしりとした体に張り付いて、浅黒い肌を際立てている。さっそうとした迷いない足どり、強い眼差しから体育会系の雰囲気を醸し出している、「太陽」と呼ばれた男性は眼鏡のビジネスマンの横に座るなり、その男性に水を差し出したワタシを真っすぐに見て迷いなくこう言った。

「…サツキさん、僕と付き合ってください。」

「…ハイ??」

まるで「ブレンドコーヒーください!」とでも言うように、サラリと。ワタシは疑問の言葉しか出て来なかったし、付き合うってどこに?と意味わからず固まった。

何言ってんの?大丈夫?とサエちゃんは顔をお客様に向けたままかわいい口元を引き攣らせ、小さくワタシに言った。先に来ていた眼鏡の男はさすがにびっくりしてすぐさま隣の男をまじまじと見た。

「…太陽、来てすぐにいきなり直球過ぎ!物事には順序が…」

「颯太は黙ってろ、最近サツキさんの周りには、悪い虫があちこちウヨウヨ発生しだしてサツキさんを狙ってるじゃんか!何のために毎日暇な颯太に頼んで見張ってもらってたと思う?ほら、そこの窓際の男もサツキさんをさっきから度々チラ見してる!」

と太陽さんが指指した先には新聞紙を広げていたものの、サツキをチラチラと見ていたようで私たち全員の視線を受けた男は目が合うとばつが悪そうな表情を顔に浮かべてコソコソと新聞紙で顔を隠してしまった。

「…なんでワタシなの?そんなに雨女が珍しいからですか?」

「俺はサツキさんがこの店に来る前から、ちょくちょくここに来てました。俺の会社が近くだから。俺の名前は太陽でこっちは俺の悪友の颯太。俺はこの前サツキさんに一目惚れして、ずっと声をかけたくて通ってたけど、最近抱えている仕事が忙しくて近ごろサツキさんに会いに行けないかわりに暇な颯太に頼んで悪い虫が近づかないか見張ってもらってたんだ。」

「暇という言葉だけ余計だ。全く誰のためにやってるかわかってんのか?感謝しろよ、太陽!…ところでサツキさん、実はサツキさんの隠れファンクラブがあるんだよ、知らなかった?」

と颯太が言った。

「サツキさん、コーヒーを運び終わったらいつも窓の外を眺めて物憂い表情してて。哀愁というか何と言うか。店に来るたびに君をずっと目で追い続けていたら、いつのまにか好きになっていた。最初はマスターの旨いコーヒーにつられて通ってたけど、最近はときおり淋しくなる表情を浮かべるサツキさんを、全ての煩わしい事から守りたいと思うようになっていたんだ。」

太陽は潤んだ瞳で熱っぽくサツキに語り、一気に水を飲み干した。太陽に見つめられたサツキはふと我にかえり瞬きをした。

「…雨女が珍しくてワタシに近づいたんじゃないのですね?」

相変わらず天然ねサツキちゃん、とサエが独り言を言ったがサツキと太陽には聞こえていない。颯太だけが訳知り顔で静かに頷いてる。

「もう一度言います。雨女だろうが俺には関係ない。サツキさん、俺と付き合ってください!俺はずっと晴ればかり続いてきた究極の晴れ男だ。サツキさんの雨を俺の晴れパワーで蒸発させてみせる。魅惑的な、物憂いサツキさんも艶やかで好きだけど、サツキさんの本当の心からの笑顔が見たい。俺がその笑顔を守る。幸せにする。」

いつしかサツキと太陽の周りにはサツキの隠れファンクラブの会員と思われるビジネスマンやおじさんが目を白黒しながら遠巻きにして聞き耳をたてている。

サツキちゃん、人生最大のモテキよね~とサエが相変わらず独り言をつぶやいている。

陽光のようにキラキラと暖かい光を纏う太陽さんに、ワタシは今まで出会った数少ない異性には無い魅力を感じた。パワフルで誠実そうな太陽さんなら、雨女コンプレックスを克服出来るかもしれない。

「…サツキ雨を五月晴れに変えてくれる?ワタシ、強力な雨女でネガティブで引っ込み思案だから、太陽さんが眩しいです、いつも前向きな感じで。遅れずついて行けるかわからないけど…」

と最後の言葉は小さくなって消え入りそうになり、ワタシは下を向いた。

「…っ!」

カウンター越しに太陽さんがワタシの手を両手で優しく包み込む。

「究極の晴れ男で最高にポジティブな俺が側にいるから、安心して守られて?サツキさんの今の言葉はYesだよね!ありがとう!!」

包み込んだ手に力が入る太陽さんにワタシは

「…ハイ、では安心して守られます!」

と小さく頷いた。途端、周りからワッと声があがる。颯太さんとサエちゃんが笑ってる。その周りを悔しがるおじさんやビジネスマン達。いつのまにか親戚のおじさん(ここではマスター)が厨房前で腕組みをして立っていて、その一重まぶたの細い目をさらに細くさせて微笑んでいる。

「お、おじさん!いつから見てたの?」

顔が赤くなるワタシに

「彼が一度目にサツキに告白した場面からだよ。太陽さんと言ったね?サツキは雨女コンプレックスが強く、内向的でネガティブだけど、身内のひいき目からみても心優しく穏やかでかわいい姪です。けど太陽さんが相手なら、サツキの心からの笑顔がこれから見られるだろうね、どうかサツキを大切にしてやってください。」

「もちろんです、マスター。サツキさん、俺の仕事の都合つく時はバイトの帰りに、家まで俺の車で送るから。」

とワタシの両手を大切そうに握りしめ、ワタシを優しく見つめる太陽さん。

「…ハイ。」

とワタシは嬉し恥ずかしくてすぐに下を向いてしまった。


そんな太陽さんとお付き合いするようになって数日後、太陽さんは仕事が遅くない日は必ず迎えに来てくれ、自宅まで車で送ってくれるようになっていた。今夜もワタシのバイトが終わるまで店でコーヒーを飲んで待っていた太陽さんが、バイト終わりのワタシを店の裏口まで迎えに来てくれた。ワタシを見ると

「お疲れ様!」

と相変わらずさわやかな笑顔を浮かべ、出迎えてくれた。そして太陽さんの車が置いてあるすぐ近くの公園の駐車場まで、傘を差しながら二人で何気ない話をしながらパシャパシャと細かい雨の中を歩いた。

公園に着くと太陽さんは急に立ち止まり、急に右手の平を上にしてワタシに差し出した。

「?」

意味が分からず小首を傾げて太陽さんを見上げる。

と急に腕を優しく捕まえられ、抱き寄せられた。

「手をつなごうとしたんだ。…ってか、なんでそんなにかわいいんだよ!俺の理性が負けそうだ!」

「っ!!」

突然のことに驚いて固まったワタシの右肩に太陽さんのあごが直接密着してるのに、太陽さんがそのまましゃべったから首筋がすごくくすぐったくて思わず

「…キャン!」

と身じろぎしてしまった。

「…サツキって、小悪魔?」

急に肩に乗ってた顔が離れたと思ったらワタシの両肩を太陽さんが両手で掴んでワタシを見つめた。太陽さんの両目にワタシの顔が映ってる。無駄にキラキラと潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。

「小悪魔ってナニ?」

太陽さんこそが小悪魔なんじゃ?と考えたところで、彼の顔が急に近づいてきて一瞬視線がぶれる。今ワタシのくちびるに何か触れた?

「…サツキ、目ぇつぶれ?」

さっきよりも低く、甘く響く太陽さんの声がワタシの頬に直接かかって心臓がはねた。と同時に徐々にワタシの体温があがってきた。言われるがまま静かに目を閉じる。


最初は触れるか触れないかの短いキス。

二番目はお互いの唇と唇が滑らかにあわさるようなキス。

三番目はお互いの唇を、ゆっくりと深く味わうような、キス…。

それが短い時間なのか長い時間だったのかわからない。そっと目を開けるとさっきとは違う、とろけそうな表情の太陽さんがワタシを愛おしそうに眺めている。

「…その、サツキのくちびる、反則!柔らかくてプルプルしてて。もっかい味わせて…」

「え??」

返事もするヒマすら与えてくれない。

・・・四回目は貪るような、危険なキス。

右手でワタシの後頭部を支えて左手でワタシの腰を抱き寄せてギュッとくっついて。隙間なく。角度を変えて太陽さんのキスがワタシの唇を啄む。何度も何度も。途中あまりにも苦しくて息継ぎをしようとして口を開けたら、舌が入って来た。

「…んっ…!」

熱っぽい太陽さんの唇に翻弄される。ついて行くだけで精一杯で。頭がボーッとして立っていられなくなり、思わず太陽さんのジャケットに両手でしがみついた。

「…ダメっ、ちょっと待って…!」

これ以上はおかしくなる。どこかに流されていきそうで怖い。

「…ゴメン、理性吹っ飛んでた。サツキが好きで好きで堪らない。離れたくない!」

ワタシをギュッと抱きしめた。広い胸の中にすっぽりと包まれて安心する。急展開過ぎてびっくりして、まだ心臓がすっごくドキドキしてる。

けど、あれ??今まで頭上に重くのしかかってあった、頭痛雲みたく憂鬱だった感じがきれいさっぱり消えて無くなった!?

「…あっ!!」

「ん?…どうした?」

優しくワタシの顔を覗き込む太陽さんを見上げる。ずっと聞きなれていた、嫌いな音がなくなっていた。

「雨、止んでる!」

「…言ったろ?俺の愛の晴れパワーは強力だって!だからこれからずっと俺の側にいろよな?」

相変わらず抱きしめられたままだったけど、嫌じゃない。むしろとても居心地がよくて困る。

チュッと音がして、太陽さんの優しく触れるだけのキスがおでこに降ってきた。

「うん。今日から雨女は返上ね。ありがとう、太陽さんのおかげね。」

「そのかわりにサツキには俺からの愛の雨がたくさん降り続けるでしょう、なんてキザだったか。」

顔が少し赤くなった太陽さんに背伸びをして、感謝の気持ちで彼の右ほっぺにキスを落とす。

とたんに唇にキスの雨が降って来た。

愛の雨なんて。大人の男の人って、キザでとってもロマンチックね?

ふふ、と思わず笑ってしまった。

「あっ!!」

太陽さんが小さくつぶやく。

「…なに?」

「サツキの笑顔超かわいい!初めて見た!」

「…そんな事ナイよ…!!でも。こんな雨なら大歓迎かな。もっと降って?」

きっとワタシ今までになくユルイ顔してるんだろうな、だって太陽さんの瞳に映るワタシの目じりは垂れていて、いつものワタシの顔じゃないみたいなんだもの。

「…だからサツキ、そのかわいい上目遣い、ぜってー反則だって!んじゃ期待どおりこれから大雨降らしまーす、覚悟して?」

こんな甘くて切ない雨なら、ずっとあなただけの雨女のままでいいかも…?!




最後まで読んでいただいて、感謝感激です。

ありがとうございました。

またこちらでお会いできる日を楽しみにしております!(^^)!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ