表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

1-2

 一部ずつの更新になってしまい申し訳ありません。

 しかし不思議なことに、朝起きた僕を待ち受けていた現実は意外なものだった。

 「……何でだろうな?」

 メリーさんが、居なくなっていた。確かにそこに居た彼女はいなくなっていた。

 何故だろうか。僕は考える。だが、どんなに思考を巡らせても結局は、推測の域を出ない。

 「別に、居てくれても構わないんだけどな。僕じゃ駄目だったかな、ははっ」

 人形にも必要とされなかったな、と笑ってはみたが、ただ虚しさが募るのみ。

 「―――もう僕には民俗学しかない! 民俗学は僕を裏切らない! 僕には民俗学だけあれば良いっ! 怪にまで見捨てられた僕にはもう、活字しかないんだ!」

 思いっきり腕を振り抜いて、テーブルの上に置いたままだった裁縫道具を床にぶちまけた。即座に平積みになった資料を乱雑に並べて、ペンを手に取る。汚れた大学ノートを開き、途中になっていた研究を開始する。

 「……くそ、どいつもこいつもっ。上等だ、勝手にしやがれ、勝手にやって勝手に生きやがれ!」

 心のうちから溢れ出す怒りは、僕に意味の分からない焦燥感と苛立ちを押し付ける。理屈じゃない憤怒は、あらゆる今までの僕が体験した「不快な場面」を思い出させる。それはまるで、油のように注ぎこまれて火を燃え立たせる。

 (何だって僕はこんなに怒りっぽいんだっ!?)

 自分でも何処からこれまで怒りが湧いてくるか理解できない。持て余さざるを得ない悪癖。何時だって、静まったあとは後悔しかしないのに。もはや、己が「怒りっぽい」ということすら怒りの種になる。

 「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!」

 怒りの激しさに比例するように、速く動くペン。捲られるページ。作業効率は爆発的に上昇する。何処かで”心は熱く、頭は冷たく”なんて理想の心の在り方を聞いたことがあるが、所謂これがその状態なのだろうか? 

 僕はメリーさんの『鶴の恩返し』よろしく、何かしらの恩を返してもらえると思っていたのだろうか? 確かに心の片隅にはそんな考えがあったかもしれない。全く、何と甘ったれた考えなのだろうか。そんな情けない自分なんて死んでしまえば良い!

 「……一人で生きていくしかないんだ。僕がシッカリしないと、僕が僕を助けてあげないと」

 忘れてはいけない言葉を再度心に刻む。僕はそのまま、陽が暮れるまで机に向かった。



 黄ばんだ資料が読み取れなくなって、僕はようやく食事の準備に取り掛かった。怒りがすっかり冷めてやっと己の食欲に気付いたためだ。

 「今日は……玉葱があるからカレーで良いか。うん、カレーにしよう」

 過ぎ去ってしまえば、どれもこれも大した事では無かったような気がする。最初から何も起きていなかったのと同じだ。

 僕はこれからカレーを作って食べて寝て、また何社か企業にエントリーして、ただただ毎日を過ごしていく。穏やかな澱みに沈んでいく生活を繰り返すだけだ。

 落とし所の付いた感情はもう燃え上がる事もない。僕はただ、目の前の玉葱を刻む事に意識を集中させた。

 汗と涙が滲み、顔を汁まみれにさせてカレーを作る。「料理は愛情」だとかいう言葉があるが、あれは作るほうじゃなくて食べるほうに求められるのではないだろうか。

 「たかが自分の為に愛を注いで料理をするなんて、ナルシズムの塊みたいで僕は好かん」

 飴色の玉葱たちを鍋に流し込んで、箱に書かれた順序を無視してルーを放ってしまう。これで完成、自分が一人でたいらげるなら適当で良い。

 玉葱で濁ったお湯が瞬く間に黄土色の粘体へと変わる。おたまで掬っては下へ、掬っては下へと繰り返す。玉葱はとろけ、目の前のカレーは具無しカレーに成り下がってしまった。寂しいが、冷蔵庫には後はバナナと納豆ぐらいしかない。あんな大切なエネルギー源を使ってしまうのは惜しい。

 「米があるだけ僕はマシだな―――っと?」

 ポケットの中で携帯電話が震える。僕に電話してくる人間なんて親か小泉、あとは後輩の数人ぐらいしか思いつかない。地元を出てからの僕の人間関係は酷く希薄だった。

 取り出した携帯のディスプレイに番号は映らない。非通知という表記すらなく、ただ無機質な呼び出しが続く。

 僕は「調子が悪いのかな」とその異常に理由を付けてしまい、深く考えることなく『通話』のボタンを押した。

 「はい、もしもし。黒賀です」

 電話を取る、という行為はこの言葉を発することと同義だ。受話器の向こうの人物は何か躊躇っているのか、呼吸音だけが聞こえてくる。痺れを切らしてもう一度話しかけようとしたとき、

 「私、メリーさん。今あなたの家の前にいるの」

 昨夜と同じ、あの声が。

 何故? どうして? 様々な考えが頭の中を廻り廻るが、僕は自分の気持ちに素直になることにした。

 「今夜はカレーだから早く帰ってきなさい」

 そうすると通話はぷつりと切れてしまった。画面に表示されるのは、通話時間だけ。本当にメリーさんだったのだろうか。

 悩んでいても仕方ないと携帯電話をポケットにしまい、急いで玄関の扉を開ける。

 「……あ」

 薄闇に包まれる欄干。そこに凭れ掛かるようにしてメリーさんは居た。

 顔を俯かせ、座り込む彼女を手に取る。顔、服、補修した跡、確かにそれは、昨日僕について来たメリーさんだった。

 「おかえり……で良いかな。あんまり慣れてなくてね」

 滅多に口にしない、誰かの帰りを喜ぶ言葉。それは僕の心も癒してくれるようだった。

 「まったく、次からは何処かへ行くときは一言欲しいな」

 口調が責める様なものになるのは、本心を悟られたくないためなのか。僕は僕のそんな浅ましい性根に少しうんざりしながら、メリーさんを抱きかかえた。

 テーブルの反対側にちょこんと座らせて、小皿に盛ったカレーを。僕の前には普通盛りのカレーを。向かい合って、

 「いただきます」

 手を合わせてカレーを食べ始めた。誰かと顔を合わせて食事をするなど、久しぶりだ。僕は淡々とスプーンを口に運んでいく。食事を楽しむ……と言うよりは栄養を採るという行為に近い。

 (カプセルがあれば良い。一日一粒で全ての栄養とカロリーが賄える錠剤が。それがあれば、僕はそれしか採らないだろうな)

 下らない、何の役にも立たない事を考える。そんな事を考える内定一つもらえない男が、汗水垂らしながら西洋人形とカレーを食べているのだ。虚しさや悲しさを通り越えて、何だか笑えてくる。

 目の前のメリーさんは、俯いて湯気立つカレーを眺めている。物理的な食事が可能なのか、それとも、「捧げる」という行為によって食事は成り立つのか。こればっかりは僕にも分からない。

 「あれ、これってまさか……」

 ひょっとして、目の前には宝の山――もとい、格好の研究対象が存在するのではないか? 実際に「メリーさん」に憑かれた学者なんて殆ど、いや! 皆無と言って差し支えないだろう! これは、僕にとって学問の道をさらに究めるチャンスなのではないだろうか?

 「よーしよしよしよしよしよし! 僕にも運が回ってき―――え?」

 ブツン、と照明が落ちた。いや、それだけじゃない、換気扇も止まった。

 「ブレーカー?」

 いや、考えられない。電子レンジを使っていたのならまだしも、照明と換気扇、それに刺さったままのコンセントぐらいしか電気を使っていない。ブレーカーが落ちるわけがない。

 (じゃあ何だ? 雷なんて何処にも――)

 「―――ひゃあ!?」

 暗闇の中に突然生まれた光と音と振動は、僕の心臓を弾ませるには充分な破壊力を備えていた。

 発生源はテーブルの上。そこには、携帯電話を掴んでいるメリーさんがいた。

 メリーさんは画面の輝きに照らされ、闇にぼんやりと顔を浮かび上がらせて此方を見つめていた。確か、僕の記憶が正しければ彼女は俯いていたはずだ。携帯電話だって預けた記憶は無い。

沸き上がる恐怖。呼び出し音が鳴り響くも、僕は電話に出る事も、ましてや携帯電話を取ることすら躊躇っていた。

 繰り返される調子はずれなメロディーは、どんどんと大きくなる。勇気を振り絞る……のではなく、恐怖に耐え切れなくなって電話に出た。

 「もももももももももしもしィ!?」

 呂律が回らず、どもってしまう。我ながら小物だ。

 「私、メリーさん。悪いんだけど、私の事は秘密にしておいてくれない?」

 「…………へぇ?」

 てっきり呪い殺されるものかと思っていたので、気の抜けた声が出てしまった。助かった……のだろうか?

 「何その間抜けな返事? ほら答えは? 「はい」か「イエス」で答えて」

 「え、あ、はい。分かりました……」

 「うむ、よろしい。じゃあもういいわよ。カレー、ご馳走様。美味しかったわ」

 電話が切れると、同時に部屋の明かりも点いた。テーブルの上には変わらず、メリーさんが。

 「……あれ? これって……」

 小皿に盛っておいたはずのカレーが綺麗に無くなっていた。しかも、あろうことかメリーさんの口元はカレーで汚れていた。

 「コレは何だ? もしかして僕は、トンでもない安請け合いをしてしまったんじゃないか?」

 独り言を洩らす僕は、自分の口角が緩んでいることにも気付かないでメリーさんの口元をティッシュで拭っていた。

 認めたくはないが、僕は「ワクワク」しているようだ。自分からしょい込んだ苦労だ、こうなったら幾らでも苦しんで楽しむことにしよう。



 「じゃあ、行ってきます」

 今日は図書館へ行って資料を収集してこなければならない。コピーできるものはコピーして、重要そうな書物は借りてきたい。つまり何が言いたいかというと、このリュックにメリーさんを入れておくスペースは無いということだ。

 玄関で靴を履き、ちらりと居間を見やる。テーブルの上にちょこんと座っているメリーさんの顔が、何処となく不機嫌そうに見えるのは僕の気のせいだろうか。

ただの人形に感情を見出すようになるなんて、僕も相当メルヘンな思考回路を持っているらしい。まぁ、これも信仰の一端だと思えば悪くない。言わば『験担ぎ』みたいなものだ。

 「早く帰ってくるように努めるよ、じゃ」

 踵を鳴らし、家から出る。彼女を一人にするのは忍びない、早く帰ってこよう。そう心に決めると、炎天下の中を歩き始めた。

 


 図書館の中はエアコンが効いていて快適だ。やはりエアコンは無理でも扇風機ぐらいは買うべきなのかもしれない。

 「でも扇風機だと紙が飛びそうだし……」

 部屋の片づけをすれば大丈夫か、と思ったが多分あれだけの紙切れと本たちを片付けたら何処に何があるか分からなくなってしまうだろう。結局、諦めるしかないという結論に至り、溜息をついた。

 「さて、『E-12』は何処かな……っと」

 パソコンの検索で見つけたお目当ての本を探して、棚と棚の間をさ迷い歩く。僕の経験上、この図書館は番号どおりに本を並べていない。『大体の場所』に本を戻すので、そのズレが大きな歪みとなって『番号』という概念をぶち壊しているのだ。

 (『民俗学』のコーナーなんて、あまり動かないから楽なもんだがね)

 『小説』、『生活』、『海外』の人気溢れるコーナーとは違い、『宗教』、『哲学』、『精神』といったかび臭いコーナーに『民俗学』の棚はある。

 そこはどうも周囲の空気と違って、色で言うと「灰色」だ。ここを訪れる人間の残留した感情がそうさせるのか、それともただ空気の通りが悪いだけなのか。

 「ふぅ……」

 だが、僕にとってはこの空気は好ましいものだ。本の埃と黴の匂いを胸いっぱい吸い込むと活力が湧いてくるような気がする。”本の虫”である僕は、こんな素晴らしい匂いは他には無いと思うのだが。

 (何だろうな、俗に言う「空気が良い」ってのはその人の体質によるんだろうな。高原が良いと言う者もいれば、ガソリンスタンドが良いとする者もいる……)

 その人にとって「良い」と思える場所こそ、『最適な場所』であって適性のある場所なのではないだろうか。

 「――よし、あった」

 予想通り『E-12』ではなく、『F-1』にあった。中身をチェック……これならコピーするより持って帰ってしっかりと読み込んだほうが良いと判断する。

 「あ、そうだ。あと熊楠さんの本も……」

 そうして僕は、「早く帰る」という約束も忘れて閉館の時刻まで図書を漁り、読み耽っていた。

 


 「やっちまった……!」

 空は夕暮れ、カラスが暢気に鳴いて空を往く時間。図書館の前で立ち竦んで空を眺める。僕は正午には家に帰って食事を取ろうとしていたのに、面白い記述がある本を見つけてから記憶が曖昧だ。確か、それで興奮して関連記事を探し回ったような気がするのだが……。

 「いやぁ、しかし。充実の一日だったなぁ! 世界巨人についての見解がさらに広まったな! また一つ、賢くなれた気がするよ! さぁ早く帰らないと―――呪い殺されるっ」

 完全に閉め切った部屋に一日中放置されるというのは苦痛以外の何物でもないだろう。怒り狂ったメリーさんに呪殺されるやもしれない。ただでさえ約束を破っているのだ、何をされるか分からない。

 「はっ、早く! 早く帰ろう! とっとと―――ヒィ!?」

 来るか来るかと思っていたが案の定、ポケットの中で携帯電話が振動し始めた。画面に番号も人物名も映し出されない……メリーさんだ。

 ゴクリ、と唾を飲み込んで通話ボタンを押して耳に当てる。

 「私、メリーさん。遅いわ、何やってるの?」

 声に熱が無いのが更に怖い。冷たいナイフを首筋に突き立てられたような錯覚に陥る。冷静に怒られるというのがこんなにも恐ろしいとは!

 「あ、あのはい、ごめんなさい。本読んでました……」

 「早く帰ってくるって約束は?」

 「ご、ごめんなさい……」

 「お腹も空いたんだけど」

 「申し訳ありません……」

 矢継ぎ早に投げかけられる不満に僕はただ謝罪を述べるだけだ。イニアシチブを完全に握られてしまったのは、都市伝説になるほどの力を持っている故か、それとも僕が情けないだけだろうか。

 「実は私、今あなたの後ろにいるの」

 「あ!?」

 驚いて後ろへ振り返るが、そこは『本日は閉館しました』という看板が掛かった図書館の自動ドアがあるのみ。ガラスに反射した僕の間抜けな顔がやけに目立つ。

 「何をそんなに驚いているの? まさか……いかがわしい所に居るわけじゃないわよね?」

 「そそそそそそんなことがあるわけ……!?」

 『メリーさんは最後、背中をナイフで刺すらしい』という言葉が頭の中を廻り廻って、彼女の一言一言に翻弄されてしまう。後ろめたいことなど無いのに汗が額を伝う。

 (何でこんなに僕は追い詰められているんだ……!?)

 次はどんな言葉で僕を責めてくるのだろうか。なすがまま、なされるがままで受話器に耳をすませる。

 しかし、いつになってもメリーさんは何も喋らない。どうしたのか、まさか本当に後ろに現れて、僕を刺すのだろうか。

 極度の緊張、舌が乾き、動悸が高まる。聞こえてくるのはカラスとセミの鳴き声だけ。

 「……………………」

 「もしもしっ! もしもしィ!?」

 「………………ぷっ!」

 「―――――え?」

 焦った僕の耳に届いた、メリーさんの噴き出した音。それは怒っているのではなく、むしろ……。

 「冗談よ、冗談。バッグの中、見てみて」

 僕は電話を顔と肩で挟んで、バッグのチャックを開ける。確かこの中には借りた図書一冊、コピーした資料が山のように畳んで突っ込まれているはず、そう思っていた。が、その記憶はあっさりと覆されてしまった。

 「どうしてメリーさんが……?」

 当然のようにバッグの中にメリーさんは居座っていた。言われてみれば、僕の『後ろ』はバッグだ。

 「勉強、お疲れ様。でも根を詰め過ぎちゃ駄目よ? あなた、ご飯も食べてないでしょ? 私は人形だから我慢できるけど、あなたはそうはいかないんだから。一つしかない身体、大切にしなさいよ?」

 思いがけない温かい言葉に僕が反応できずにいると、それを何と捉えたのか、一気に捲くし立てて電話を切ってしまった。

 「べ、別に深い意味は無いわっ。同居人の体調を心配するのは当然でしょ!? 早く帰って夕飯を作りなさいっ」

思わず笑みが浮かんでしまった。僕は通話の切れた携帯電話をポケットにしまい、メリーさんを取り出して、少しだけ強く抱く。

 「ありがとう、メリーさん」

 頭を撫でて、せっかくだからと抱いて帰る。どうせこんな寂れた町にはすれ違う人もいない。それに誰に咎められても僕の知ったことじゃない、無視してやればいい。

 夕闇に染まった道を歩く僕とメリーさん。不思議なことに家に着くまで人はおろか、炊事の音も匂いもしなかった。誰も存在しない町、そんな幻想を抱かせる静かな町をメリーさんとともに歩いた。



 僕のこの生活は何と言うべきなのだろうか。同居、いや憑依生活? 憑かれているはずなのに僕の体は不調に陥ることもないし、食料庫の塩が溶けることもなければ御守りが爆発する事もない。

 朝起きて、挨拶をする。

 出掛け先で、励まされる。

 夜は一緒に夕飯を食べる。

 ゆっくりと過ぎていく不思議な時間は少しずつ『日常』になっていく。相変わらず内定はもらえないが、それでも以前よりは心に余裕が出来たような気がする。それは皮肉にも、僕があまり好まない『コミュニケーション』によって生まれたものだが。

 最近の僕には、新たな心配事が増えた。それは、”メリーさんなんていないんじゃないか?”という自己に対する疑問だ。いや、もしかしたらただの西洋人形はソコにあるかもしれない。だが、本当の僕はそれに意思が宿っている思い込んで、一人で携帯電話に話しかけているのではないだろうか?

 ストレス、というモノが引き起こした幻想に僕は溺れているだけなんじゃないか? もしそうだとしても構わない。今の僕にとっては、その夢から醒めてしまうほうが恐ろしい。

 そんな考えが頭の中に浮かぶようになってから、僕はメリーさんの服の傷みがよく目に付くようになった。何度か修繕はしているもの、さすがに寿命なのだろうか。

 僕は、「何かを形として残したい」という気持ちが沸々とわき起こっている自分に驚いた。まさかそんなことを考えるとは夢にも思わなかったからだ。

 (メリーさんに服を買ってあげよう!)

 思い立ったら即行動。その考えをメリーさんに告げると、

 「まぁ、良いんじゃない? でもそんな余裕あるの?」

 買わないで迷うより、買ってから金策に悩んだほうが幾分マシだ。僕はメリーさんをバッグに詰めると最寄の街へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ