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LODA  作者: umemomo
9/11

灰かぶりの章~幻のエデン~(2)

「ロダ、こぼれているわよ。」


すぐ傍で諌める声が響いた。

ハッと目を覚ますと、お皿の上に盛られたイモとマメがぼろぼろと落ちている。


「あっ勿体ない!!」


しまっと思いながら、奇麗なテーブルクロスについたシミを見下ろす。


「どうかしたの?ぼーっとして・・・」


そのシミをふきんで拭きとると、心配そうに私の顔を覗き込んでくる優しそうな女性。

そう、この人は私のお母さん。

髪の毛が長くて、色は私と同じ赤茶色。

私の髪の毛は硬くてざんばらだけど、お母さんのは長くて柔らかいから、大人になったら同じようになれるかもしれないって楽しみなんだ。


「眼をあけながら寝てたんじゃねぇのか?」


「違うわよっ!」


皮肉っぽくそう言ってくるのはお兄ちゃん。

いつも意地悪な事ばっかり言って私をいじめてくる。

でも、本当は優しいし、とっても賢いの。お父さんの次にね。


「ロダは器用だなぁ~」


アハハハハ・・・・なんて大口をあけて笑うお父さん。

もう、お父さんったらそんなに笑わなくても良いのに。


「違うもん!」


って口を尖らせて怒ってみる。

もちろん確信犯。

こうやると・・・・・


(きたっ!!)


肩をすくめて頭の上に降ってくる優しい感覚を受ける。

お父さんのこの大きくて優しい手が好き。

安心するし気持ちいいから、こうやって頭を撫でられるのが大好き。

だから、時々わざとすねたりしてみるのよ。


温かな空気。

和やかな笑い声。

普通の幸せ、当たり前の幸せな家族。

涙が出そうなくらい、幸せなんだ。


「ねぇ、お父さん今日もお勉強を見てね。」


私はイモを突き刺したホークを口にくわえながら言う。


「相変わらず、ロダは勉強熱心だね。」


「当然よ!だって、私は・・・・」


「「お父さんのような立派な賢者になるんだもの!!」」


ぴったり息の合った二重奏に私は確信犯の方を見る。


「もう、お兄ちゃんっ!!」


「お前はワンパターンすぎるんだよっ、いい加減そのセリフは聞き飽きた。」


「だって、私の夢なんだもの。お父さんの夢は私の夢なんだもの!ね?お父さん?」


私はいつものように優しく微笑んでくれているであろうお父さんの方を振り向いた。

しかし、予想外にお父さんは少し曇った表情をしていた。

困っているような、悲しいような・・・でも口元は穏やかで、複雑な顔。


「・・・・・お父さん・・・・・?」


私は不安になって呼びかけてみる。


「・・・・・あぁ、そうだね、ロダの未来が楽しみだね。」


いつもの表情に戻して優しく笑って答えてくれるけど、どこか違和感を感じる。

そんな、心中を察しのたのか、私を避けるかのようにお父さんは話題をお兄ちゃんにふった。


「ユウリキ、学校はどうだい?」


「余裕だよ、内容が簡単すぎるぐらいさ。」


「そうか、ユウリキは属性学が・・・・・・・・・・・・・・・」


二人の会話は私の気持ちを置き去りにしてまるで普通に流れていく。

いつも通りに・・・・

そう、これはいつも通りの日常。

当たり前のいつも通り。

なのに・・・・・

何か変だわ。


「ん~・・・・・」


「ロダ、行儀悪いわよ。食事中に肩肘つかないで。」


「ねぇ、お母さん何かがおかしいの。」


「おかしいって何が?」


「何がって言われても分からないんだけれど・・・・」


「おかしな事を言う子ね。」


呆れたようにそう言うとお母さんは食べ終わった食器を積み重ねて台所に帰っていった。

これもいつもの日常、別に変わった所は無い。

次第に、お父さんとお兄ちゃんは私が分からないような難しい話をしだしている。

こうなると、私はのけものにされているようで悔しいんだ。

よし、間に割って入っていってやろう。


「ねえ!お父さん、今日は私の勉強を見てくれるんでしょう?お兄ちゃんとばっかり話してないで早くご飯を済ませてロダにもいろいろ教えてよ!」


腕に手を絡ませてだだをこねる。

甘え上手は妹の特権なのだ。


「はいはい。このスープを食べ終わったらね。」


優しくそう言ってくれるお父さん。

なんだ、いつものお父さんじゃない、やっぱりさっきのは気のせいだったのね。


「じゃあ、早く食べて!早く~。」


そうせかすと、お父さんは「はいはい」と答えてくれる。


「お前ちょっとは落ちつけよ。賢さの基本は落ち着きと冷静さだぜ。」


なんてお兄ちゃんが又、皮肉を言ってくるから少し腹がたって言い返そうとした時だった。



カリカリ・・・・・



爪で何かを引っかくような音がした。


「ん?」


変に思って視線を足元に落とすと、とんと膝の上に重みを感じた。


「あれ?猫だわ。どこから入ってきたのかしら?」


前足を私の膝の上にのせ、まるで人間のように皮肉った細長の瞳が私の方を見ている。


「ナゴォ~~~」


「かわいい~おいで!」


酒やけしたおっさんのようなだみ声で鳴くその猫を抱きあげてみる。

ずしっとした現実味のある体重が両腕にかかった。


「どこが可愛いんだよ?不細工の間違いだろ?」


「えー、可愛いよ?」


疑問形を残しながら猫の全貌を確かめる。

確かに少し太っているが・・・・いや、わりと太っているが、眼はクリクリには程遠くて細長で嫌味っぽいが・・・いや、でもそこがチャーミング・・・・と言える!きっと!


「ナオ~~~~~」


そんな私の心の言い訳を知ってか知らずか、猫はやる気無く長鳴きした。

ほっとけと言わんばかりに。


「ロダ、まだ食事中よ、猫なんか抱かないで」


お母さんが横からそう割り込んでくる。


「はぁい~」


仕方なく腕を緩めて猫を下ろす。

ダンっと小気味よい音を響かせて降りた猫は、そのままどこかへ行くわけでもなく、背中を向けたまま顔だけこっちに向けてきた。

何か言いたげな顔。


「お母さん。この猫、私に何か言いたそうよ・・・」


「どうせ、食事のお残りにあずかりたいだけでしょ?餌をあげたら居付いちゃうからやめてよ。」


「う~ん・・・・」


お母さんはこの猫に対して根本的に興味が無いらしい。

でも、私はなんだか気になる。

なんでだろう?

なにか・・・・

何か、知っているような?


・・・・・・ん?知っている?




(・・・・・・・!)




私は知っている!

この猫を知っている!!




ガチャガチャ・・・・




どこからか響く鎖がこすれる音。


鎖?

鎖って何?

鎖・・・・・手にはめられた鎖、足にはめられた・・・枷・・・・・



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



ガタッ!!


私は勢いよくその場を立ち上がる。

反動で椅子が床に倒れた。


鎖で繋がれた少年を助けに行かなくちゃ!


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