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LODA  作者: umemomo
8/11

灰かぶりの章~幻のエデン~(1)

運命ってすごく曖昧な言葉だと思う。

たくさんの書物にいろいろな形で出てくる単語。

辞書で調べても゛人間の力を超越した巡りあわせ゛なんて書いてある。

゛超越した力゛なんてあまりにもお粗末な表現の仕方で納得できなかったから、ここはお父さんに聞くしかないと思った。

お父さんはいつだって本当の答えをくれるから・・・・



**************************************


人間の人生にはたくさんの進むべき道があるんだよ。

あるいはそれが分かれ道だったり、一本道だったり、数えきれないほどに枝分かれしていたり・・・・

それを選んで選択する事ができるけれど、それぞれの道の先にある結果はあらかじめ決まっているんだ。


それが、運命だよ。


例えば・・・・

私とロダ。

私はエリシアという妻を選択して選んだ、でもその先にロダがいるのはあらかじめ決まっていたんだ。

だから、私とロダが親子であるのは運命なんだよ。

私が自ら望んで選んだ運命だね。


**************************************



お父さん。

ロダは今、運命を一つ選ぼうとしているのかもしれない。

ううん、もう選んでしまったんだ。

私と彼が今、出会ったのは運命なのだ。



「どうしたの?あなた・・・・何に縛られているの?」


威嚇する為に作られた鬼の顔が破綻した。

弱々しく、情けなく崩れ落ち、一気に飛び散る。


景色は又、一変した。

物語は終焉へ。


ここは魔法の森、幻の世界。


全てが抜け落ちた天の色、真っ白な空白の世界にバーラルの塔がそびえ立つ。

混乱と不完成の象徴。

それはまさしく彼を表しており、まだ歩き始めた自分も指しているんだろう。


一つ一つ仮面が禿げていく。

少年の両手首にはどこに繋がっているのかも分からない鎖の腕輪が付けられていた。

それは囚人や奴隷に付けられる手枷だった。

よく見ると足にも同じものが見える。

彼の作った幻の城は消えてしまったのだ。


「大丈夫?」


「やめろっ!!!」


少年には助けが必要だと感じたから手を差し伸べたのだが、激しく拒絶された。


「僕は皇帝だ!一番偉いんだ!強いんだ!お前なんかいつだって殺せるんだぞ!!」


頭を抱え込んで、ヒステリックに声を荒げる。

その度に重い鎖がジャラジャラと音をたてた。

まるで鎖に繋がれた猛獣のよう、百獣の王ライオンは自由を失えばもはや王では無いのだ。


「かわいそうに・・・ひとりぼっちなのね、誰にも優しくされた事がないのね・・・・」


私の言葉に少年はゆっくりと顔をあげた。

眉を寄せて今にも泣きそうな顔をしている。


私はこの時ハッとした。

お父さんにも言われた事があるのだ。

分かった事をすべて口にしてはいけない。

真実が人の心に傷を作る事もあるから、時にはそっと心の中にしまっておく事も大事。

私はきっと今、言ってはいけない事を言ってしまったのだ。


「ごめ・・・・・」


謝罪しよう少年に近づくと、轟音がそれを遮った。


ガガガガガガガガガ・・・・・


地鳴りのような音が響き、私と少年の間を分かつかのように無数の鉄の棒が地面に突き刺さる。

細い鉄の支柱は横一線に並び、二人の間に境界線を作った。

こちら側から見ると、まるで少年が牢屋に閉じ込められているように見える。

いつの間にか、幻はすべて消え、現実の姿だけがあらわになっていた。


(なんて細い腕なの・・・)


最初にそう思った。

服は袖なんてついていない、ぼろ布同然のもの。

それからのぞかせる腕は骨と皮しか無いんじゃないかと思う。

私の身体だって、ふくよかだとはとても言えないけれど、彼のものはもっとひどかった。

ガリガリの手首に重くのしかかる鉄製の手枷が痛々しい。

仮面を失った素の顔は思ったりずっと弱々しく、頬は痩せこけて、眼の下は大きくくぼんでクマが深く刻み込まれている。


だけど、すべて偽りだったわけではない。

不思議な黄緑色のストレートの髪は彼の本当のものだった。

ボサボサのちりじりで、奇麗な毛並みとは言えないけれど、神秘的なその色は確かに彼自身のものなのだ。

それに、瞳は真っ赤なルビーだ。

着飾る宝石よりずっと美しく、ギラギラと本物の色で輝いている。


「貴方は炎の眼なのね。」


「じゃあお前は水になって俺を消すのか・・・」


少年の声は思ったより低かった。

まるでさっきとは別人のようだ。


「いいえ、水は炎が焼きつくす前に冷ますだけで決して炎の存在を奪うような事はしないわ。だって世界はバランスが大事なんだもの。」


「フン、バランスか・・・あいつみたいな事を言う。」


水分を失ったカサカサの唇の片方を微かに持ち上げて、少年は皮肉に笑った。

少年の言う゛あいつ゛が誰なのか私はなんとなく分かっていたけれど、今は知るべき事ではないような気がしたから心に秘めておく事にした。


「大丈夫?閉じ込められているの?早くそこから出なくちゃ!」


掌を立てると鉄格子の間をすり抜ける事ができたから、必死に手を差し伸べる。

少年は差し出す手を見向きもせずに背中を丸める。


「ここからは誰も出られない。俺も・・・・・・・お前も・・・・・・」



・・・・・・・・・・!!!



何か、声が聞こえるなぁ~と思った。

そう、あのデブ猫がお腹を空かせた時に出す声に似ている。

ぐるるるるるる・・・・と甘えるような、催促するような声。

身体中の体温が一気に低下し、背後に悪寒を感じた。


光る二つの瞳を見たかと思うと、鋭い二本の牙は私の頭をこえて、闇の大口が頭からかぶりついてきた。


一瞬の出来事だった。


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