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LODA  作者: umemomo
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灰かぶりの章~マフタの森へ~(1)

私の家族はお父さんだけだ。

おじいちゃんの事は好きだったけど家族とは違う。

ましてやおばさんやおじさんは私にとっては赤の他人で、向こうも私の事が大嫌いだから

家を出ても何の反応も無いか喜んで追い出すんだと思っていた。

だから・・・

家を出ようとする私を引き止めたおばさんの行動は意外だった。


「なっ・・・何を言っているんだい!?この子は!子供が一人で外で生きていけるわけがないだろう!」


ほとんど骨と皮しかない手にはおばさんの握力が妙に強く感じた。

ギリギリと痛むけど、不思議と熱は感じなかった。


「おばさん、さようなら。」


私はすべての力を振り絞ってその手を振りほどき、相手を見る事も無くそのまま外の世界へと繋がる扉に向かう。


「お父さんが待っているのよ。私、行かなくちゃ・・・」


もう、ここには用は無い。

背後でおばさんが「恩知らず」とか「気がおかしくなったんだ」とか「病気だ」とかいろいろ言っていたけど、煩わしかった筈のキンキンと響くその声も今の私にはもう何も届かないし関係無い。

私は外の世界へ行くんだ。

お父さんに守られていた幸せな空間でもなく、地獄の毎日を過ごしたこのボロ屋でもない・・・・

これから向かう世界はきっと今までに見た事も無いほど広くて恐ろしい所。

そこには答えがある。

だから私は行くの。



「ロダ、待ちなさい。」


未練も無い家を後にして、少し歩いた時だった。

知っているけれど、ほとんどしゃべらない人だったから一瞬誰だか分からなかった。


「おじさん・・・・」


進路を遮るように前に立ちふさがると、視線を合わせるためにおじさんはその場にしゃがみこんだ。

私はこの時初めてまともにおじさんの顔を見た気がした。

ボサボサの髪の毛の間から除く蒼みがかかった瞳は、以外にも真摯な光を宿していた。

おじさんは無口な人で、おじいちゃんとおばさんが言いあっていても何も言わず、私がおばさんに物を投げられていても見て見ぬフリをしていた。

まるで死んだように身を潜めて生きていたおじさん。

おじさんの生きている証をその瞳に初めて見た気がした。


「帝都に帰るつもりかい?」


静かな揺れの無い声。

少しおじいちゃんに似ていた。


「うん。私考えたのよ。お父さんを処刑したのは皇帝様でしょ?だから皇帝様に聞きにいくの。どうしてお父さんを処刑したのかって?そしたら真実が分かるもの。」


「帝都は遠い・・・・道も分からないだろうに・・・」


おじさんは私を引きとめようとしているのだろうか?

それは変だ、理由がない。

私の事なんて大嫌いの筈なのに。


「帝都はここから北の方角だっておじいちゃんが言っていたの。」


私はそう言って、前におじいちゃんが指差した方に手を伸ばした。


「太陽は東から昇るから、午前は太陽を右側に見て歩いて、沈むころは夕日を左側に見ればいいのよ。曇っている日は困るけど・・・・でもお父さんが言っていたの。世界は丸くて果てが無いから歩いていけば必ずどこかに辿り着くって。きっと間違っていたらここに戻ってきてしまうから、その時は一からやり直せばいいのよ。」


おじさんは少し複雑な顔をした。

眉はしかめているのに、微かに口元が笑っている。

その表情の意味は私には分からなかったけれど、まるで私の後ろに誰かを見ているかのようだった。


「ロダ、最後におじさんに聞きたい事は無いかい?」


唐突におじさんはそう切り出す。

そういえばおじさんは帝都で働いていた事があるんだっておじいちゃんが言っていた気がする。

もしかしてお父さんの事を何か知っているのかもしれない。


「おじさん・・・・」


私は思わず開いた口を両手で勢いよく押さえ込んで言葉を飲み込んだ。

おじさんはそんな私の態度を(いぶか)しげに見てくる。


「お父さんがね、本当に知りたい事は人から聞いちゃいけないんだって言っていたの。だから私はおじさんに何も聞かない。おじさんに聞く事は何も無いわ。自分でちゃんと答えを探すから大丈夫。」


「そうか・・・」


私に何を期待していたのかは分からないけれど、おじさんは少し残念そうな顔をした。

可愛そうなおじさん。

弱すぎて何もできなかったおじさん。

でもきっとこの人は悪い人ではないのだろう。

こうやって話をしてみると、私の事を少し心配してくれているのが分かるもの。

でも、おじさんは私にとってこれから進んでいく道に必要ではない人・・・

だから・・・・


「おじさん、さようなら」


もう二度と合う事は無いと感じながらもう一度おじさんの瞳を見る。


(おじさんの事は好きにはなれなかったけど、瞳は少し好きだわ)


そう心で呟きながら、もう何も言ってこないおじさんの横を私は通り過ぎていった。



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