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LODA  作者: umemomo
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灰かぶりの章~始まり~

R15指定はしませんが、物語の流れ上処刑や自殺などの描写がございます。それほど酷い描写はありませんが、苦手な方はご注意ください。このお話は度々そういった場面が出てきますが、その度にいちいち報告は致しません。ご了承ください。

『子供の頃に願う夢は本物なんだよ、信じなさい』


最後に強い意思でそう言い残したおじいちゃんの顔を思い出して

胸の奥がギュッとつままれた気分になった。




私の人生は少し変わっている。

まだ10年しか生きていないのに、波乱万丈だと思う。


私をこの世に産んだ顔も知らないお母さんは

『出産後すぐにどこか遠くへ行ってしまったんだ』ってお父さんが言っていた。

本当は(どうして?)って思った時もあったけれど、お父さんはお母さんの事が大好きで、お母さんもお父さんが大好きだったんだって言っていたから別に聞く必要は無いと思った。

二人が愛し合って生まれた私は望まれた子なのだから。


それに、私はお父さんさえ居てくれればそれで良かった。

大好きなお父さん。

なんでも知っていて゛生きる為に大切なこと゛を教えてくれて、優しくて、穏やかで、大きくて、自慢のお父さん。


お父さんはいつも私に夢を語ってくれた。

「賢者」になって皇帝様を導き、世界を正すんだって。

「世界を正す」ってどういう事なの?って聞いた事があるけれど、お父さんの言っている事は難しくて私にはよく分からなかった。

ただ「賢者」とは世界で一番偉い皇帝様の傍で、皇帝様が間違わないように見張る人なんだから、皇帝様と同じぐらい偉い人なんだよって言っていた。

そんな、偉い人である゛賢者゛を目指しているお父さんの娘である事が何よりも誇らしかった。

賢者を目指すお父さんには、たくさんのお仕事があるから忙しくて、いつも一緒ってわけにはいかなかったけど、家に居る時はいつも『しりとり遊び』をしてくれた。

物知りなお父さんに勝つのは至難の技で、とうとう一度も勝てた事は無かったけれど、一度だけ考え込ませる事ができた時があって、その時は飛び上がるほど嬉しかったんだ。


お父さんと私。

親戚も誰もいないたった二人だけの家族だったけれど、私には何よりも幸せな小さな空間だった。




でも・・・・・




お父さんは死んじゃった。

皮肉にもお父さんの夢が叶って、『賢者』になった三日後に、広場でギロチンにかけられて処刑されてしまった。

私は目の前でお父さんの首が飛ぶのを見た。


お父さんの事が大好きで

私の世界のすべてで

私にはお父さんしかいなくて


でも、涙は出なかった。


身体の中の血とあらゆる液体がすべて消滅して

涙さえも出ないほど空っぽになってしまった。



すべてを失った私はまるで紙のようにぺらぺらになった気分で家に帰った。

誰もいない筈のその家に、知らない人が立っていた。

背がすらっと高くて、髭の生やした見知らぬその老人は眉間に濃いしわを寄せながら『ここにいたら危険だから遠いところへ連れて行く』とそう言って私の手を少し強引に引っ張っていった。

一瞬怖かったけど、何故だか私にはその人が悪い人には思えなかったから黙って付いていくことにした。


その人は自分の事を「おじいちゃん」と呼びなさいって言った。

だからそう呼ぶようにしたけれど、『おじいちゃんは私のお祖父ちゃんなの?』って聞いたら

『それは、違う』って返事が返ってきた。

おじいちゃんは私を大事にしてくれたけど、決してお父さんのように私を愛してはくれなかった。

私の訊ねる事にはなんでも丁寧に応えてくれたけど、お父さんが何故処刑されたのかは絶対に教えてくれなかった。

あと、おじいちゃんが誰なのかも。

顔は怖いし、笑わないし、褒めてくれないし、一緒に遊んでもくれないけど、私の知らない事にいつも必ず答えを返してくれる・・・そんな所がお父さんと似ていたから私はこの世でお父さんの次におじいちゃんを信用する事にしたんだ。

それにおじいちゃんは私の夢を否定しなかった。

『お父さんのように立派な賢者になるの』

そう言ったら、困った顔はしたけれど『やめなさい』とは言わなかった。

お父さんが死んでから私の中に残ったのはお父さんの夢だけだったから、それが嬉しかった。

私はいつもおじいちゃんの前では緊張してしまって上手く笑ったり話したりできなかったけど、本当はおじいちゃんの事が少し好きだった。

ただ、好きになって良いのか分からなかっただけなんだ。


そのおじいちゃんも今は地面の下で眠っていて、生きていた証はこんな小さな冷たい石一つになってしまった。


おじいちゃんは原因不明の病気で死んだ。

でも私は知っている。

この世に゛原因不明゛なんてものは無いんだって事を。


世界が広すぎて人は理解しきれないから゛不明゛と言い訳を作るだけで、この世のすべてには原因があって、事象が成り立っているんだってお父さんが言っていたから。


私はおじいちゃんの病気の原因を調べる事にした。

諦めずに徹底的に。


お父さん。

お父さんの言った通り、原因はちゃんとあったよ。

でも、原因って知りたくない時もあるんだね。


おじいちゃんの死因は慢性的な毒草の摂取による中毒死だった。

最初は、いつも私とおじいちゃんを煙たがっていたおばさんの仕業かと思った。

おばさんは大嫌いな私を連れてきたおじいちゃんの事が嫌いだったから。


お父さんが死んだ次の日、私はおじいちゃんに田舎の小さな農村のボロ屋に連れてこられた。

そこには家族がいた。

『息子夫婦と孫』とおじいちゃんは言った。

生活は苦しかった。

厄介者である私を連れてきたおじいちゃんをおばさんは毎日怒鳴っていた。

私もいつもおばさんに箒で叩かれたり、ざるを投げられたり、酷い時には頭にぶつかったら死んでしまうような重たい陶器も身体にぶつけられた。

おばさんはいつも物を投げるだけで決して手では私をぶたない。

そこにはかすかな情さえも無かった。


でも、おばさんにとって私は厄介者の憎き赤の他人だったけれど、おじいちゃんはあくまでも夫の父親で疎ましくても家族だった。

毎日愚痴を言っていても、イライラをぶつけていても命を奪うような事はしなかったのだ。


おじいちゃんは自分で毒草を食事に混ぜて摂取していた。

それが分かったのは、おじいちゃんが持病の薬と言って食事に混ぜていた薬そのものが毒草だと知ったからだ。

それは計画的な自殺行為だった。

おばさんは私に言った。

「一人増えたあんたの食いぶちを作る為にこの人は死んだんだ。お前が殺したんだ。すべての原因はお前なんだ」・・・・・と。


最初私は辛かった。

おばさんの言う事が本当ならおじいちゃんは私のせいで死んだのだ。

でも、毎日毎日おばさんに同じ罵倒をあびせられているうちに私の中には一つの疑問がうまれた。


すべての原因


おばさんはそう言った。

「すべて」ってどういう事だろう?

おじいちゃんが死んだのは私の責任・・・・

それだけならすべてとは言わない。

すべてというからには1つ以上の事の筈だ。

その時気がついた。

私は何も知らないんだっていう事を。


お父さんはなんで処刑されたの?

なんでおじいちゃんは私を帝都から連れ出したの?

おじいちゃんは誰?

どうして最後に私の夢を肯定するような言葉を残したの?

まるで遺言のように。

信じなさいって何を信じるの?


それらの謎が゛すべての原因゛に繋がっているような気がした。






「おじいちゃん、私行かなくちゃ。お父さんも待っているわ・・・」


両手で握りこぶしを作って、歩きだす決心をした。


お父さん

おじいちゃん

私、必ず真実を明かしてみせるわ

だって私はお父さんのような賢者になるんだもの

賢者は、賢くなくちゃいけないから知らない事が一つとしてあってはいけないんだもの

すべてを知って頂点に立たなくちゃいけないんだもの


「私はお父さんの夢に生きていくわ!」


空に投げかける言葉。

信じなさいと言ったおじちゃんに返す言葉でもあった。


空高く、宇宙の果てに居るお父さんとおじいちゃんにこの決意が届きますように。

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