第5章
質問したいけれど、恐らく、正常な交配可能=同一種という考え方は地球特有のものである可能性が高い。
後で先生に直接聞くか、神殿で誰か詳しそうな人に聞いてみればいいだろう。
一方的に説明だけをしていく、との宣言どおり、途中で問題を出したり、意見を聞いたりすること無くひたすらに説明を重ねていく。
板書は多い方ではなく、ほとんどが口頭のみで進められていく中、私含め生徒達に質問をする余裕はあまり無い。
質問が浮かんでも、次から次へと書かねばならないことが出てきて頭を整理する暇が無い。
ノートをとらなければその限りではないのだろうけれど、書かなければ書かないで覚えていられそうも無いため、浮かんだ質問も一緒にノートに書き込んでいく。
因みに、ノートはほとんど日本語で書いてある。
特に意識しなくても、読み書きは全てアウトラーシェンの言葉で書くことが可能だし、慣れるためにも神殿での講義の際には常にこちらの言葉で書いていた。
でも、こうも早く書かなければいけなくなると、いくら知識がほぼ完全に関連付けされているとは言っても、やはり脳は使い慣れたほうを使いたがるらしい。
脳、というかもしかしたらこれは手が記憶している通りに動いているのかもしれない。
ノートを見返せば、所々、こちらの世界の固有名詞のところだけがこの世界の言葉で書かれている。
もともと字がきれいな方だとはいいがたかったが、二ヶ国語が混じった、しかも急いで書いた為に蚯蚓が這った様な有様のそのノートは読みやすい、とはどうあっても言えそうには無かった。
これは、忘れないうちにノートをまとめなおした方がよさそうだ。
獣族の説明が終わり、そのまま止まることなく、鱗族へと進んでいく。
鱗族とは、簡単にまとめれば読んで字の如く、鱗の生えた人々だ。
地球の生物に当てはめるならば、魚類から爬虫類までの人型の進化系の総称とでも言えばいいのだろうか。
所謂“人魚”は純血種としては存在しないが魚人は存在するらしい。
魚人との混血には人魚に似た姿をするものもいるようだが、滅多に存在しないという事だ。
何故ならば、魚人は完全な水棲人類であり、陸生人類と交配する機会というものが滅多にないからだそうだ。
かつて記録にはあるが、残念ながら現在においては生息は確認はされていないという。
鰓呼吸と肺呼吸、そんな大きな壁を乗り越えてカップルとなった人々がかつて存在したということ自体が私にとっては大きな驚きだ。
他に鱗族には幼生は水中で育ち、大人になると陸生に変わる両棲の種族や、所謂リザードマンや恐竜人間によく似た姿をした種族がいるのだという。
だが、鱗族は今では余り数は多くない。
その理由が、“竜”に似ていたことから他種族によって迫害を受けた、と聞けば私に責任のあることではないとはいえ申し訳なく思ってしまう。
ただ“鱗”がある、たったそれだけの理由で竜の同属に扱われたことがあった、そんなことが起きるほどに竜はこの世界に恐慌を齎したのだと思うと、哀しくなる。
鱗族にとっても、竜にとっても、その外の人型種にとっても。
なんで、そんなことになってしまったのだろう。
そんな暗い気持ちのまま、授業は一端休憩となった。




