第4章
早速貰ったジュースを飲んでみたら、プラムのようなさっぱりした甘さのジュースだった。
シャーベット状になっているのはまた別の果物のようで、そちらはもっと甘い。
両方が混ざり合うことで、うまい具合に良い味を出している。
「おいしい……。」
「でしょう?
これ、ちょっと前からギルドに来てる学生達の間で人気なんですよ。」
セムが意味ありげな笑みを浮かべ得意げに言う。
「ギルドの学生にだけ?
こんなに美味しいのに?」
これだけ美味しいのなら、他の世代、特に女性たちにはもっと人気だと思うのだけれど。
そう思って尋ねてみれば、ここだけの話し、とセムは教えてくれた。
「実はこれ、どこのお店にも売ってないんですよ。」
「これって、あそこのシャーベット屋さんのじゃないの?」
「半分は、そうです。」
「じゃあ、もう半分は?」
食事をしながら話をきく。
うん、このたこ焼き、微妙に蛸が硬めだけど確かにたこ焼きだ。
ソースも美味しい、マヨネーズがかかってればもっと良いのに。
後、青海苔も欲しいな……。
「このジュース、ポーションなんです。」
「……はい?」
ポーション。
言わずと知れたRPGの必需品である。
大抵道具屋やギルドなんかで買えるアレだ。
この世界においてはギルドと言う組織を作った始源の魔法使いが開発したものだと言う。
一体、どれだけいろんなものを作れば気が済むのかこの人は、と話を聞くたびに思うのだが。
まあ、それはともかく。
「ポーション、ですか?
あの、ギルドで売っている?」
「はい、あの、です。」
ギルドのそれは、かつてコンビニで売られた某RPGのそれ以上に不味かった。
瓶目当てに買ったがあの味は売り物としてはダメダメだろう…?
少なくとも、普通の缶の第2段が出たときにはもう買おうとは思わなかった。
話が逸れたが、まあ、ゲーム内のものの商品化とは違い、味は二の次三の次、効果があればそれでよし、というものだからギルドで売るには問題ないのだろう。
味はともかくどうのような効果があるのかといえば、アリ○ミンやらリポDやらと似たようなもので、滋養強壮疲労回復、といったものだ。
ただし、その効果ははっきりと目に見えるように現れる。
1週間徹夜した人が即座に回復するというのだから、実は危ない薬でも入っているんじゃないかと疑いたくもなるが。
良薬は口に苦しとは言うものの、その効果に比例するかのようなあの不味さはあまりにも有名となっている。
「あの激マズポーションが、これですか?」
「やっぱりマレ…タキ様もそう思います?」
「だって、別物でしょう!?」
「いえ、そっちではなく。
まあ、別物なのは同意ですけど。」
「飲み方変えるだけで、こんなにも味が変わるものなんですか……。」
例えるなら青汁にアイスクリームを入れたらメロンソーダになりました、ってくらいには衝撃的な変化だ。
「尤も、その分効果は薄れますけどね。」
「効果が薄れても、これだけ美味しくのめるなら誰も文句は言わないんじゃないですか?」
「ええ。
今のところ誰も文句は言っていませんね。
俺達、皆でどうやったら味がマシになるのか、色々試したんですよ。
そうして苦節半年。
数多くの更に不味くなってしまったポーションを飲み干しながら完成したのがこれです。
なので、未だに俺達の間でしか知られていないんですよ。」
彼の話を聞いて思い出すのは、高校のときの文化祭の準備の時や大学時代の飲み会の雰囲気だ。
余った飲み物をごちゃ混ぜにして罰ゲームをするような。
たまに美味しい組み合わせになったりすることもあるが、大抵が飲めたものではない。
彼らもおそらく似たようなことを繰り返し、そうしてこの味にたどり着いたのだろう。
その苦労は、元のポーションの味を知っているだけに想像に難くない。
よくも味覚異常を起こすことなくここまで至れたものだ。
「そんな部外秘のレシピ、教えてしまってよかったんですか?」
「大丈夫です、美味しく飲む為の黄金比と言うものがありますから。
それからズレると逆に不味くなっちゃうんですよ。」
それなら確かに問題ないか。
「でも、美味しいでしょう?」
「ええ、美味しいです。」
「それじゃあ、マ…タキ様も俺達の活動に参加しませんか?」
「……活動?」
「ええ、学生ギルド員限定の活動があるんです。
これの作成もその一環でした。
もうすぐ学校に通われるのだと聞いて、それなら誘おうと思いまして。」
何処か腹に一物抱えてそうな笑顔を浮かべるセムは、最初の印象には程遠く。
やっぱりこの兄弟の兄か。
大変な弟を抱える苦労性の兄かと思いきや、なかなかにしたたかで面白そうな少年じゃないか、と私は早々に彼に対する認識を切り替えることにした。




