第4章 (5)
「では、私はこれで神殿へ帰りますが、くれぐれも気をつけてくださいね。」
「分かってます。もう子供じゃありません。」
「そうですね、しかし貴方が外見上子供に見えることも、身体能力的にも子供並みであることもまた確かです。
つまり、そう思って侮るものがいる可能性もあります。
この街の住人でしたら既にあなたのことを知っているでしょうから問題は無いでしょうが、この街とて閉鎖されているわけではないのです。
外から来たものにとっては貴方はただの子供と同じことでしょう。
これから行く先で何かあるとは思いませんが、少なくとも、自ら問題に首を突っ込むような真似だけはしないでくださいね。」
「私、確かに過去無茶をしたことは認めますが、流石にそこまで向こう見ずじゃないですよ……。」
「とにかく、無理だけはしないでくださいね。」
「分かりました。」
と、そんな風にナイルと別れてからまだ1時間と経っていないはずなのだが……。
「……どうしてこうなった?」
もちろん、さっきの会話でフラグが立っちゃって…なんて話ではない。
その方がある意味では良かったかもしれない。
少なくとも心労的な意味では間違いなく……。
「……本当に申し訳ない。マレビト様。」
そう頭を下げるのは大人と呼ぶにはまだ線の細い、しかし子供と呼ぶのは躊躇われるような、そんな微妙な年頃の少年だ。
肩口まで伸びている艶やかな黒髪がさらりと流れ、褐色のうなじが覗く。
頭を上げてくれるよう頼めば、深い藍色の瞳には謝罪と疲労の色が滲んでいた。
そんな彼に首根っこを捕まれて、ローティーンと思しき少年が暴れている。
少し赤味がかった癖のある金髪に色白の肌、おとなしくしてれば宗教画の天使像のごとき顔を歪ませ、きれいな碧玉の眦を吊り上げて口汚く文句を言っているのは、言わずもがな、この近辺を代表する悪ガキの一人であるフェクトである……。
逃げ出そうとしているフェクトを押さえつけている、大人と子供のハザマの妙な色気を持つ背の高い少年の名はセム、フェクトの兄だ。
そして、そんな兄二人のことなど我関せずといった態で――少なくともセムの疲労の一因ではあるはずなのだが――私の腰にしがみついて離れない、フェクトよりも小さな男の子。
セムと同じような黒髪に、色白の肌、彼らの母であるヴァシーに良く似た新緑の瞳、こちらも見た目だけは可愛らしいが非常に手のかかるバルドゥク家の末っ子ゼナゥだ。
あまり色合い的には似ていない三兄弟だったが、これが両親共に揃うとそれぞれ引き継いだ特徴が見て取れ、家族なのだな、とよく分かる。
顔立ちも強大としてはそれほど似ている方でもないが、三人とも将来が楽しみな容姿をしていることは共通している。
だが、見た目に騙されてはいけない。
自らもギルドに所属しているセムは除くが、雑用系依頼を専門に遂行するギルド員たちの間でブラックリスト入りしているのが彼らの子守、という内容的にはどこにでもあるような依頼なのだから。
一度受けたら、二度と誰も受けたがらないと有名なその依頼は、セムが学校に通うようになった数年前からほぼ常時張られ続けているらしいとの噂だ。
ただ買い物を楽しみたかっただけなのに。
極悪兄弟二人組み+αに早々に遭遇してしまうだなんて。
……本当、どうしてこうなった。




