間章
「いや、用と言うほどのことでもないのだが……一応忠告をしに、な。」
用がないなら帰れよな、という視線に気づいたか、途中でアカシェは言葉を換えた。
あの夜の「茶飲み仲間」発言は冗談だと思っていたのだが、時折こうして何の前触れもなくやってくるのだ。
しかも、気をつけないとのらりくらりとかわし続けて、散々雑談に耽り、神や神族(彼にしてみれば血の繋がった親類のはずだ)への愚痴をこぼした挙げ句に、最後になっておそらく本題であっただろう言いたいことを言うだけ言って帰っていくのだから手に負えない。
王族とはそんなに暇なのか、と嫌味がてら聞いてみたこともあるが、暇ではないからこの時間に来ているのだろう、と返された。
暇ではないならいっそ睡眠時間にでも費やせばいいものを、とも思うのだが、彼もまた様々なストレスの発散のために来ているのだろう。
私の前にその役目を果たしていたであろう神官長に、それとなく感謝された覚えがある。
仕事の邪魔をされる回数と離宮からの苦情がが減った、と。
かつてはどうも神官長をからかいにくることでその鬱憤を晴らしていたらしい。
しかもそれは本来、宮で神族としての職務を全うせねばならない時間帯に抜け出してきていたようだ。
こんなのが神の裔かと呆れるほかない地味な嫌がらせぶりである。
それにしても、彼が尋ねてこうすぐに本題を口にするとは珍しい。
しかも忠告、とはどうにもイヤな感じだ。
腐っても鯛というのは失礼な言い方かもしれないが、曲がなりにも彼は神族だ。
つまりそれは神の子(彼自身は道具といい慣わしているが)であると言うだけでなく、最高位の神官の一人であり、神の言葉を直接聞くものであるということだ。
「忠告、ですか?」
「ん?まあ、忠告というか警告というか、要は気をつけろ、ということなのだが、最近魔法を頻繁に使っているな?」
「ええ、確かに。」
隠し立てするようなものでもないので正直に答える。
大きな魔法を試すときなどは念のため結界を張って貰ったりしているので、神殿関係者に聞いたらすぐにわかることだ。
「小さいものはいいが、あまり大きなものは使うな。
できるのであれば小さなものも控えて貰いたいが、そうも行くまい。」
「理由を聞いても?」
折角見いだした楽しみだ、すぐに手放せと言われて出来ることではない。
「これは先に伝えておくべきだったのだが、まだお前は子供だから使えないだろうと思って油断していたのが徒となったな。
ほかのマレビトについてはさておき、お前に関しては魔法の濫用は生死に関わる。」
……。
「詳細をお聞きしたいのですが。」
どうも、これはいつもの単純な話ではなさそうだ。




