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マレビト来たりて  作者: 安積
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第3章

途中、食事を取りながら書類をまとめて数時間。

切りいいところまで薦めて、今日の仕事はそこで終わりとなった。

まだ半分も終わっては無いないが、ある程度分類しまとめたので、少しはすっきりとした感じだ。

片付き具合に比例して私の脳の疲労度は高くなっているけれど。

やっていた事は単純な事務作業とは言え、これが意外と頭を使う。

何より計算が面倒くさい。

何が面倒なのかといえば、この世界は10進法ではなく12進法が基本だと言うことだ。

初めての買い物のときも思わず間違いそうになったし、今でも気を抜くとつい10進法で考えてしまう。

だが、それでも、日本の義務教育と今ではほぼ義務といっても過言ではないくらいの進学率となっている高校での教育には感謝せねばなるまい。

既に卒業してから4年が経過しているが、計12年の教育期間は伊達ではない。

計算を続けるうちに慣れてくれば、特に問題なく仕事をこなす事が出来た。

もっとも、これも単純な四則演算のみに限られたことだからこそ、ではあるのだが。


疲れる仕事ではあったが、それでも久々の頭脳労働はある意味で心地よい疲労を齎した。

たまにはこういう仕事も良いと思う。

慣れない12進法のお陰で気を抜く事も出来ず、結果的に今夜試す魔法に気を取られて失敗する、という事も無かった。

漸く今になって魔法の事が気になって仕方がなくなってきている。

帰り道で転んだりしないように注意が必要そうだ。


帰り支度を済ませていると、丁度カウンターに見覚えのある顔が見えた。

珍しい時間に、珍しい場所で、珍しい人。

その人はいつもだったらこの時間にこの場所にはいないはずだ。

そしてそのカウンターには用が無い筈だろう。

よくあるRPGや小説でそうであるように、ここでも窓口のカウンターは用途別に分かれている。

分かれている、とは言っても郵便局の窓口が郵便と金融とに分かれているような程度の別れ方でしかないが、一応は依頼の発注と依頼の受注、後は換金などに分割されている。

小さな支部だとそういう区別は無いようだが、ある程度以上の大きさの支部ではそのようになっているそうだ。

私はここ以外の支部を見たことが無いのでその真偽は不明だが、こんな事で嘘をついても意味がないので真実なんだろうと思う。


そこ、依頼の発注のための窓口にいたのは"熱砂の風"のフェルディモータだ。

依頼を受けるならまだしも、依頼をするだなんて彼には珍しいことだ。

何かあったのだろうか、と窓口の方へ行こうとして足を止めた。

そのままきびすを返し、裏口へと向かう。

どうやら、彼は今日は“熱砂の風”としてきたのではなく、バルドゥク家の家長として依頼に来ていたらしい。

その後ろには、この界隈でのクソガキの代名詞たる彼の2番目の息子、フェクトがうろうろしていた。

見つかれば最後、何をされるか分らないというのはもう身にしみて分っている。

どうにかこうにか無事にギルドを抜け出し、帰路へと着いた。


なんだが、最後の最後で冷や汗をかく羽目になった。

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