第3章
「……バルドゥク家の子守。」
思わず顔が引きつるのを自覚する。
クレオさんは気づいているのかいないのか、恐らく気づいているのだろうけれど、気にすることなく話を続ける。
「そ。どうやら来ないだので懐かれちゃったみたいね。出来るのなら貴方に来て欲しい、ってヴァシーが言っていたわ。」
バルドゥク家の子供たち、既にギルドで働き始めている15の長男を筆頭に揃いも揃って美形揃いなわけだが、若干一名、中身は真逆のとんでもないクソガキだったりする上に、他も何かと手のかかる子供たちである。
ヴァシーはその兄弟の母親。
そして、エグザーダナのギルドの七大不思議に数えられているフェルディモータの奥さんで、滅茶苦茶美人で性格も良い。
何で彼女の子供があんなにも悪戯好きのとんでもない子供になってしまったのか、それはまあ偏にフェルディモータのせいだろう、というのはギルドの総意だ。
そんなわけで、時折ギルドにも依頼は出ているが、不人気依頼のトップ10にランクインしている。
以前、そうとは知らず、依頼を受けてしまって後悔したのはまだ記憶に新しい。
肉体年齢がどうあれ、流石に小学校低学年の相手は疲れるわ。
彼らは、私の手には余る。
「それは、例え時間外手当がついたって遠慮します!」
「それは残念ね。じゃあ、今日はこれかしら?」
口ほど残念そうな表情もせずに次の一枚を取り出す。
その用紙の依頼人はよく見覚えのあるものだった。
「あれ?これってここからの依頼ですか?」
「そう。脳筋ばかりのギルド員じゃ、中々ここの仕事って勤まらないのよね。」
「仕事内容は簡単な事務処理、必要能力読み書き及び単純な計算……。」
「いつもの子がちょっと今帰省中でいないのよ。だから、ほんの少しのお手伝いでもしてもらえれば嬉しいのわ。」
「もしかして、こっちの方が本命でしたか?」
「さあ、どうでしょう?」
「まあ、良いです。もう一度確認しますけど、単純な計算を含む事務作業で良いんですね?」
「ええ、やってくれる気になった?」
「良いですよ、ただ期限は今日を含めて3日間、それでも構いませんか?」
「勿論。」
「では、これで決定ですね。」




