第3章 (2)
一日中本を読みふけったお陰で、何とか魔法史の概略はつかめた。
だが、その結果として、私は再び意欲を失った。
まあ、歴史を学んだからといって魔法が使えるようになるわけではないのは当然だが、それならば魔法のための勉強を始めればいい。
だが、そもそも魔法が使えないのであればどうしようもない。
魔法の始まりは、この世界の住人なら誰だって知っている。
災厄の魔物を倒した異界から訪れし勇者の話。
まさに異世界トリップのテンプレのようなその話の主人公は日本という国からやってきた渡り人。
数々の偉業を成し遂げた彼は、嘱望され竜退治へと赴く。
そして遂には魔法の力を得、災厄たる竜を滅ぼすに至る。
凱旋した彼は望まれてアウトラーシェンの王に就く。
善王と名高かった王はしかし、後に天より降った神王の一人に膝を付き禅譲したと伝えられている。
その後の彼の消息は、ギルドの冒険者となったとか、隠棲したとか様々に伝えられているが定かでない。
今も子供たちが憧れる英雄譚の一つだ。
私がこの話を知ったのも、子守りの依頼を受けたときに子供たちから教えられたからだ。
だが、有名すぎるほどに有名な彼の名は今の世に伝えられてはいない。
一説には真名信仰が盛んだった折りに彼の名も失われてしまったと言われている。
ただ一つ伝えられているのは、彼が日本の出身であったということだ。
そのせいかどうかは分からないが、後に彼について研究をしたのも日本人であった。
名を佐伯仁。
今、竜殺しの英雄について伝わっている資料のほとんどが、その彼が編纂したものである。
彼はその著書の中で断言している。
英雄は、オタクであったと。




