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マレビト来たりて  作者: 安積
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第2章 (10)

「貴方は、そんなに我々に心配をかけることがお好きなのですか。」


「働き詰めで倒れ、七日間寝込み、そして起き出したと思ったらその足で外に出て数時間庭に居ただなんて。

 病み上がりだという自覚はおありか。」


現在お説教の真っ只中です。


一番前に神官が立ち、私の罪業を読み上げ、その後ろにはエメラさんを初めとした侍女さんたちが並びその言葉に頷き、彼らの後ろで神官長が何とか宥めようと右往左往。

もうちょっと頑張ってください、しんかんちょー。

夜中に神族を招きいれたという点において貴方も同罪なんですから。

お茶まで提供しちゃってた事実は既に上がっているのですよ、私の次は貴方の番なんですよ、と心の中で神官長に声援(?)を送りながら、表情だけは抜かりなく神妙そうに取り繕って謝罪をしている真っ最中。



何でこうなったか?

うん、私も良く分らない。

ただ、あれから少しばかり遅すぎる二度寝から目覚めると、既に周囲は今の面子で固められていた。

どうも、私が部屋を抜け出したとき誰も部屋に居なかったのは所用で席を外していたためで、戻ってきたら私が居なくなっている事でごく一部だけではあるが騒ぎになっていたらしい。

なにせ、彼らの認識では私は7日間も眠り続けた病人で、彼女が席を離れたときはまだ私は眠っていたからだ。

一時は誰かに浚われたかと、神殿中を叩き起こして捜索をすると言う話まで出ていたようだ。

俄かに騒がしくなった館内に、神官長が気付いて今はアカシェが来ていて私がそこに居ることを告げてくれたお陰で大きな騒ぎにはならずに済んだとのこと。

まあそれでもかなりの人数が叩き起こされてはいたようだが。

何せ、もしも浚われたのだとしたら神殿付近に留まっている筈はなく、尚且つもしも本当にこの神殿に侵入しマレビトを浚えるような犯人がいるとすればそれは相当な実力者であることは間違いなかったからだ。

その話によって、神の守護地と雖もその守りは完全ではない、ということを教えられた。

どのような事であっても抜け道は存在し、完全な安全など存在し得ないのだからそのことを忘れないでほしいと念を押された。

そこから更に無茶な事を続けていたこの1ヶ月に話は及び……。



「本当に、申し訳ありませんでした。」


何も考えずふらふらと部屋を出てしまった以上、私には反論の余地はない。

そしてどこかで無茶を無茶と知りながらも続けていてしまったこともやはり謝らねばならないだろう。


「以後二度とこのようなことがないよう努力いたします。」


将来何があるかなんて分からないから、確約できるのは努力することだけだ。

もしそれでは力及ばない事態に陥ったときは、諦めてもらうほかない。


「本当に、反省していますか……?」


「はい。」


流石に3時間ぶっ通しの説教を食らって尚反省しないほど捻くれた性格はしていない。


「迷惑かけて、心配かけて、本当にごめんなさい。」


私は、他に何と言えばいいのか分らない。

神官、ナイルは一つ息をつくと言った。


「本当に、こんな事はもう二度としないでくださいね。」


「はい。」


「貴方に何かあれば、私たちが心配するのだという事を、忘れないで居てください。」


「はい。ごめんなさい。」


「分ってくださったなら、それで構いません。」


ナイルが先に席を立つ。

彼が行ってしまう前に、今、これだけは言っておかなければならない。


「ナイル。」


神官の、ナイルの動きが止まる。

私が、彼の名を呼ぶのはこれが始めてのことだ。

今は他にも人がいるからかつて教えてもらった真名で呼ぶことはしない。

それでも彼にはそこに込めた意味は伝わるはずだ。


「エメラさん。ジルフェさん。神官長様」


みんなの目を良く見てから頭を深く下げる。


「今まで、色々と心配かけてごめんなさい。

 いつも助けてくれてありがとうございました。」


頭を上げ、いまだ固まったままのナイルに視線を合わせる。


「どうぞ、これからも宜しくお願いします。」


ギルドで皆に挨拶したときとは少し違うけれど、気分的には似たようなものだ。

あの時持っていたのはこの世界で生きるための覚悟、そして、今抱いているのはこの世界で生きていく覚悟。


地球での生活は懐かしく恋しい。

残してきた人、物、いくらでもある。

けれど、それはもう帰れない場所。


私は、この世界で生きていく。


それは地球に帰るためでなく。

それまでの繋ぎとしてではなく。


この世界の生命として。


地球人、滝根真帆ではなく。

水竜の加護を持つマレビト、タキ=アトルディアとして。

いつかこの身が、世界へ還るときまで。






後に、このとき神官長が自分だけ名前を呼んで貰えなかったと気落ちしていたという事を、彼に愚痴られたと文句を言いに来たアカシェによって知ることになるのだが、それはまた別の話だ。

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