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マレビト来たりて  作者: 安積
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第2章 (8)

「この上何を言おうっていうんです?」


もはや取り繕う意思すら無くして、投げやりに問う。


「アトルディア、お前はもう地球に戻る事はない。」


時が、止まったような気がした。

何を、言われても動じないつもりでいた。

けれど、これは……あまりに。


「お前がお前であるままに、生きて地球に戻る事はない。」


私の中で時が止まっても、世界は無常に流れていく。


「諦め、そして受け入れろ。」


なんで、この人は、こんなに酷い事ばかり言うのだろう。

美しい顔と声で、私を絶望に突き落とす。


なぜ、どうして、私が……。

マレビトは、それを受け入れられる者だけがなるのではなかったか。

ならば、どうして私が選ばれたのだ……。


「……っ」


声に、ならない。

何も。

泣き喚いて、嘆いて、罵って、叫んで、そうすれば、楽になれるのだろうか。

だけど、何も口からは出てこない。

涙すら、流れない。

どんなに、辛くともそうするのは私のなけなしの矜持が許さなかった。

人に当たる事で地球に帰れるならば、そうすることに躊躇いすらしなかっただろうが。

俯いてしまう事ですらまるでこの世界に負けを認めるようで、ただ、ひたすら目の前の人を睨み付けた。


何分くらい過ぎただろう。

アカシェは何も言わず、ただ、静に私を見つめていた。

一時も視線をそらさずに。


やがて、吹き荒れるような感情の奔流が静まると、漸く私は口を開いた。


「……どうして、私なんですか。」


神官は、この問いに答えられなかった。

けれど、彼は知っているのではないだろうか。


「マレビトは、皆この境遇に耐えられるのだと聞きました。

 そういう人だけが選ばれるのだと。」


異世界に憧れていた青年然り、自分の世界に絶望していた人、そのままその世界に留まれば絶滅していただろう種族。

皆、それぞれに受け入れる素養があった。

ならば、どうして私はこんなに苦しむのだろう。



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