第8章
「あなたが私のことを聞くのは珍しいですね。」
柔らかな笑みを浮かべナイルが言う。
椅子をベッドのそばに寄せて腰掛ける。
「何でも聞いてください、と言いたいところですが」
そう言葉を切ると、私の髪を撫でた。
「今はゆっくりとお休み下さい」
ナイルがこんな風に私に接するのは今までにないことで、驚きに言葉がでない。
「だから、今日は少しだけお話させていただきますね」
「私が彼女に会ったのはまだ10代の頃です。」
彼は懐かしそうに目を細めて話し出した。
「まだギルドに登録したてで、実力もわからない無鉄砲な子供でした。早く一人前になりたくて無理をしては叱られていたことを思い出します。」
今のナイルからはあまり想像できない言葉だ。
「私は神殿の孤児院育ちで、神殿から学校に通いつつ、ギルドで依頼を受けていました。
あの頃、私は早く独り立ちして神殿を出たくて仕方なかった。
まるで、ここに来たばかりの貴女の様ですね。」
苦笑する彼の言葉に驚くばかりだ。
私は彼のことを本当にに何も知らない。
「本当は神官になるつもりなどなかったのですよ。
私は、親のこともその生活も覚えてはいませんが、神殿での生活は辛く、親さえ生きていたならば、こんな苦労はなかったものをと親を恨み、学校や街で見る普通の家庭で育った者を羨んでいたものです。
この街を出て様々な国へ行きたいと、自分はこんな街で一生を終えるような人間ではないと、愚かにもそんな風に考えていたんです。」