第8章 (7)
「まったく、貴方ときたら少しましになったかと思えばまたすぐに無理をして倒れるんですから。一週間意識がなかったのですから、当分の間学校もギルドも休んでくださいね。」
なんだかいつかのようだな、と思いながらナイルの小言を聞く。
そんなに前のことでもないように思うのに、あの頃と心持ちはだいぶ変わった。
この世界に来たことも何もかも受けれきれず、誰も信じられず、苦しくて、辛くてたまらなかった。
あの時アカシェの言葉を聞かず、ナイルを受け入れず、この世界を拒絶し続けていたならば……。
学校にも行かず、ギルドの仲間できることもなく、精霊に出会わず、マイアを受け入れることもなかった。
そうなっていれば、私はどうだったのだろう。
そうはならず、今私はここにいて、考えるだけ無駄なことと分かっていても、ふと考えてしまう。
ナイルに手を引かれ寝室へと向かう。
エメラさんは食器を片付けに下がり、おじいちゃんは私の様子を確認するとすぐに仕事に戻っていった。
今は、ナイルと二人だけだ。
だから、素直に言葉が出たのかもしれない。
「ナイル、いつも、ありがとうございます。」
「急にどうしたんですか?」
「いえ、いつも本当にいろいろ迷惑かけてるなあ、と思いまして。」
きっと、ナイルだけでなく、いろんな人に迷惑をかけ、心配させているのだろう。
でも、一番近くにいるこの人へのそれはほかの人の比ではないだろう。
なのに、ナイルはため息をついてあきれた表情を見せた。
「何度も言っていますが、いくらでも迷惑をかけていいんです。私はそのためにいるんです。貴方ともにあり、貴方を支えるのが私の役目です。あなたが思うように生きられるように。貴方のお世話をすることを面倒だと思ったことはありません。ただ、心配させるようなことはしないでほしいだけです。契約の影響で寝込んだのは不可抗力かもしれませんが、せめて私たちが安心できるように、少しゆっくり過ごしてください。」
この言葉に嘘はないんだろう。
どうして、こんな、見ず知らずの人間にここまで尽くせるのだろう。
ナイルの態度を疑うわけではない。
それでも、単なる仕事としてではなく、まるで家族に接するようにここまでできるナイルをすごいと思う。
「はい。でも、感謝してるのも嘘じゃないですからね。」
「わかっていますよ。心配しないで、ゆっくり休んでください。」
かつて、他国のマレビトに助けられたのだというナイル。
いったい何があったのだろう。
アカシェに少しだけ聞いてしまったその過去を、彼にとって重要だろうその過去を知りたいと思ってもいいのだろうか。
「ナイル、聞いてもいい?」
「何ですか?」
「あなたを助けたというマレビトとあなたとのことを」