表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マレビト来たりて  作者: 安積
188/197

第8章

「あの子、とはお前の精霊のことか?」


『はい、近くに感じるのにどこにいるのか分からないんです。』



以前のように、見えないといるのかいないのかわからない、というのではなく、見えないけれど間違いなく近くにいることは分かるのだけれど、それがどこなのかが分からない。



「ふむ、分かるようになったかと思ったが、まだ分からぬか。」


アカシェは少し考えるような素振りを見せ、答えた。


「名を呼んでみろ。それで分かるはずだ。」



名を呼ぶ、あのこの名前……。

嗄れて声は出ないけれど、唇を動かしてその名を呼んだ。


「マイア、来て。」


何かが、私のなかでざわりと動いた。

魔法を使ったときに感じたものとは違う場所。

私の一部であり、私ではないもの。

私に融け込んだ何かが、繋がったまま私から離れて動き出す。


分かった。

道理で、近くに感じるはずだ。



マイアは、私の中にいた。



空気が滲むように現れた柔らかな羽毛の先が、部屋の光に透けて淡く煌めく。


肩に確かな重みをもってマイアは、顕現した。


以前より濃く深くなったように見える一対の瞳が私を見つめ、まるで甘える猫のようにその白い顔を私の頬にすり付けた。



「分かっただろう? 契約精霊は契約者と繋がっている。双方、個であって個ではなくなる。その精霊はどちらかが死ぬまで|契約者<<お前>>のそばを離れることはない。安心しろ。」


じゃれつくマイアを見ながらアカシェは話す。


「さて、これで無事に名付けを終えたわけだが、何か変わったか?」


多分、彼は分かって、あるいは気づいているんだろう。

私の心が根本的なところで変わったことを。

でも、そんなことは言わない。


『別になにも変わりませんよ。私は、私です。』


「そうか。」


『ええ、そうです。』


だって、私はここで生きていくことを受け入れたと前にも言ったのだから。

それが言葉だけではなくなったというだけのこと。

そんな私の気持ちがわかったのか、アカシェはそれ以上その事に触れることはなかった。


「熱はまだ下がらないだろうが、他に辛いところはないか?」


『大丈夫ですよ。熱も、自分ではよくわかりません。』


寧ろよく寝て気分は良いくらいだ。


「それは大丈夫とは言わん。もう少し寝ておけ。」


『はい。』


アカシェのてがまぶたに重なる。

眠くないと思ったけれど、やはり眠かったのか、まぶたが降りてきた。


『おやすみなさい』


よく眠れ、そんな声を聞いた気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ