第8章
何故、私は名付けを拒んだのか。
もう、喉元まで出掛かっている言葉を、引きずり出す。
それが、今の私に求められている事だ。
何故、名付けを拒むのか。
何故、借りのなでの安定が崩れたのか。
本当は、ずっと、分っていたのだ。
認めたくなかっただけで。
結局のところ、私はこの世界を受け入れきれずにいたのだ。
ここで生きていくと、生きていく他ないと分っていて尚、それを受け入れまいとする思いが、今もまだ残っている。
それがあったからこそ、この世界の何かに対する責任を何一つ負いたくはなかったから、名付けというその対象への責任を負うことになる行為から逃げ続けていた。
でも、その思いに綻びが生まれてきた。
いや、その綻びはこの精霊に出会った時に、この精霊から“竜”という種族の記憶を受け継いだ時に生まれていたのだ。
この世界こそが、自分のあるべき世界だった。
ただ、ここへ私はもどって来たに過ぎず、地球こそが仮初の宿であったのだ、と。
けれど、その思いは微かだった。
だから、暫くの間は仮の名でも安定していた。
でも、まるで燻っていた火が少しずつ燃え広がるように大きくなっていき、精霊を、ひいてはこの世界を受け入れようと言う思いが自覚のないままに大きくなっていた。
そんな状態で無理に言うことを聞かせようとしても強制力などほとんどないのは当たり前のことだった。