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マレビト来たりて  作者: 安積
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第2章 (7)

神族、それはこの世界を生み出した神が、自らの意思を世界に繁栄させるために遣わした神自身の子であると言われている。

詳しい事を彼ら自身が語っておらず、その行動原理は今もって不明である。

かつて、この世界が出来た当初、この世界に神族はいなかった。

神族が現れたのは、神が世界に最初の神託を下して暫くしてからの事だったと言われている。

いくつか文献は残っているが、その正確な日時も場所も定かではない。

ただ、その頃辛うじて国家群のようなものを形成し始めていた世界に降り立った神の子供たちは、世界の中心から複数人ずつの集団となり、各地へと散らばっていったのだという。

以来、神の御子のいる地は豊穣が約束され、危険が少ないと言われるようになり、徐々に人々はそこへと集まるようになる。

そこに形成初期にあった国家群が組み合わさり、神族を盟主とするいくつかの都市国家群と、神族を王とするいくつかの王政国家が生まれた。

やがてそれらが統廃合を繰り返し、7人の神族をそれぞれ王とした七神王国となったのが記録上では459年前、現在の六神王国と一つの民主主義国家になったのは78年前の事である。

神王国といっても、その内実は真性の王政国家であったり、寡頭政治であったり、共和制であったり、立憲君主制もあれば、王国とは名ばかりの王が象徴とされている国もあったりと様々である。

アウトラーシェンは神王国の一つであり、特に早いうちから神族を王と仰いだ国でもある。

首都だけでなく、位置的にも国土の中心にある首都から同心円状に複数配置された離宮にはそれぞれ最低一人以上の神族が居を構え、領主として周辺地域を治めている。

因みにこの国に貴族は存在しない。

中心にいるのが神族であるというだけで、実質行政を担っているのは試験を経て登用された官吏たちである。

彼らは神に仕える官吏である、故に神官と呼ばれる。

この国において、或いはこの世界のほとんどの地域においてと言い換えても良い。

神官とは特定の宗教における聖職者の事ではなく、日本で言うところの国家、及び地方公務員たちのことである。

マレビトの保護を神殿が行っているのも、マレビトが神が連れてきた存在であるという宗教上の事由だけでなく、行政上の保護政策という側面もあるのだ。

少し話が逸れたが、要は神族とは最も創生の神に、つまりマレビトをこの世界に拉致してきた神に近しい存在と言う事である。



「どうした?

 日本で握手で挨拶をするのだろう?」


「……なぜ、ここに来たのですか?」


「ふむ。やはりそれが気になるか。」


私がその手を取る気がないと察したのか、アカシェは特に気にした様子もなくその特徴的な6本指の手を降ろした。


「いくつか理由はあるが、……一つは、頼まれたからだ。」


「誰に、何を?」


「お前の守護者に。

 おまえの話を聞いて欲しいと。」


「守護者?」


「そこからか。

 どうやら本当に意思の疎通がほとんど取られていないようだな。」


若干の呆れを含んだ声音に少しだけ驚きを滲ませて彼は言う。


「お前は歴代のマレビトの中でも特に頑固者のようだな。

 己の意思に関わらず連れてこられた全く見ず知らずの世界で、頼る(よすが)があるのならば縋り付きたくなるものだろうに。」


私に頼ることのできる相手などいただろうか?

見知らぬ世界の神に拉致られて、その信仰者の元に保護されて。

恨まずにいられるほうが余程凄いと思うのだけれど、どうだろう?


「……生憎、そこまでの信頼関係の構築にはいたっておりませんので。」


坊主にくけりゃ袈裟まで憎し、とはよく言ったもので、私は、根本的にはこの世界の住人を信用など出来ないのだろう。


「お前は覚えていないのかもしれないが、あの神官は、この先の一生をお前に捧げた。

 正真正銘、お前ために生きる、お前のだけの守護者だ。」

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