第8章
時間にして数秒、数度瞬いたと思ったら、肩の力を抜くように一息つくと、意を決したようにナゥブドゥカ先生は口を開いた。
「ルディア。
君の精霊様に機嫌を直してくれるよう言ってみては貰えないかい?
これでは、精霊達が萎縮してしまって授業にならないよ。」
ん?
「ルディア?」
私の周りの精霊達はいつもと変わらない。
好き勝手に、そう、まるで小鳥のようにピーチクパーチクと囀っているだけだ。
他の精霊達が萎縮する要素なんて無い。
「……先生、おっしゃる意味がよく分かりません。」
「教室の中央でとぐろを巻いて威嚇していらっしゃる方に、鎮まる様伝えてもらえないかい?」
とぐろ?
威嚇?
――まさか。
「すみません、先生。
どうやら、今の私の目には見えていないようです。」
途端、ぎょっとした顔で生徒と先生全員の視線が集った、と思った次の瞬間には先生を除く全ての視線が外れていった。
何これ、コント?
――とかいっている場合ではないのだろう、思わず笑いそうになってしまったが。
「教えていただきたいのですが、もしかしてそれは、白い毛の生えた蛇のような精霊でしょうか?」
何かと視線を併せたまま、反らせない様な雰囲気を漂わせつつ、先生は首を縦に振った。
「――蛇もどき?
ここに、いるの?」
半ば確信を持って呼びかける。
するりと頬に擦り寄る感触と共に、真っ白な巨大な蛇が姿を現した。
その姿は、初めて出会ったときよりは幾分か小さいものの、普段とは比べるべくも無いほど大きなもので。
どうやら、その長い体を使って私の周りをぐるりと囲んでいたらしい。
道理で、私の周囲に誰も座らなかったはずだ。
「ごめん、付いてくるなって言ったから隠れてたんだよね……。
もう、付いてくるな、とは言わないから、もう少し小さくなってくれる?」
そう願い出れば、渋々、という感じでいつもの肩に乗るくらいのサイズまで縮んでくれた。
「すみません。
私が未熟なばかりに、どうもご迷惑をおかけしました。」
クラスの皆に対し頭を下げると、ほっとした空気が教室に流れた。