第8章
神殿やギルドでは精霊使いやら魔法使いやらが身近にいるせいで忘れがちになるけれど、ブラーシェ先生の言うとおり、普通は精霊は誰にでも見えるというものではない。
それが、魔法という分野から最も遠い存在である子供であれば尚更だ。
精霊に好かれた特殊な子供を除けば、特に勉強していない限り精霊を見ることはおろか、感じることすら出来ないのが通常なのだ。
グレイズ先生の授業を受けていた子供達は、皆そうだったのだろう。
だが、この講義を受けている子供達は違う。
この講義を受ける前提として、前期の講義を修了しているか、同等の能力のあるものしか受講できないようになっている。
その条件は、精霊を自らの意思で呼び出すこと。
それが出来るということは、つまり、ここにいる全員が精霊の姿を見、声を聞き、言葉を交わせるという事だ。
ならば、彼らには、幾分減ったとはいえ、未だに尋常ではない数の精霊が私に纏わり付いているのが見えているのだろうし、あの祭りの夜、精霊を引き連れ歩いたマレビトのことを見ているのだろうから、私がマレビトと気付いているとしてもいないとしても、どちらにせよあまり近付くべきでないと感じてしまっているだろう。
小さな精霊達でこの反応では、蛇もどきを必死に説得して置いて来たのは、多分、正解だったのだと思う。
そうやって、針の筵とは行かないまでも微妙にチクチクとした視線に耐えること暫く、ようやくナゥブドゥカ先生がやってきた。
ナゥブドゥカ先生は、生徒達のように表情を崩すことも無くいつもどおり教壇の上に立ち、顔を上げた途端、いつもは開いているのか閉じているのか分らない目を見開き、まさしく口をポカーンと開けた。
そう、教壇正面、私のほうを向いたまま。
それに併せるように、ザッと音がなったかと錯覚するほどに先生からも私からも視線を逸らした生徒達の動きは見事なものだった。
――私の状況って、そんなに変なのだろうか。