第8章
「へ?
知ってたよ。
ルディアがそうだ、ってことは。」
以前、私が彼らを探して座り込んでいた、校舎前ロータリーの植え込みがいつもの待ち合わせ場所だ。
学校のある日は基本的にそこで待ち合わせて一緒にご飯を食べるのが約束のようになっていた。
いつもよりも遅くなったというのに、彼らはやっぱりまだそこにいてくれた。
彼らがそこにいたことに、バルドゥク家の二人だけでなく、ユーリグもまたそこにいてくれたことに安堵を覚えつつも、彼から言われるかもしれない言葉を思うと、足がすくむようなそんな気がした。
けれど、そんな不安を振り払うように、彼らの元へと急いで足を勧めた。
その勢いのままに、時間に遅れたことを詫び、その場でユーリグにわたしがマレビトであることを告げ、黙っていたことも謝り、と。
勢いに任せて、一気に告げた謝罪には、そんな気の抜けるような答えが返ってきたのであった。
「でもさ、ルディアはつまり、オレがそんなつまらないことで怒るような奴だって思ってたわけだ?」
何と言うか、まるでどこか物語の中で見たことがあるような怒り方だな、と頭の片隅の冷静な部分が笑う。
フィクションに倣えばここで笑ったら火に油を注ぐようなものだと分っていても、勝手に筋肉に反映されるのをとめることは出来なかった。
だって、この手の怒りは、本当は怒っていないことを示す為のポーズだったりするのが相場だろう?
良かった、と笑い始めた私に、ユーリグはやはり形ばかりだった怒りを静めた。
本当にお前それでも年上かよ、とこぼすユーリグの呆れた声と、一連の遣り取りを、もしかしたら私以上に緊張して見つめていたのかもしれないセムとフェクトの二人の安堵のため息を聞きながら、半泣きになりつつも、それでも私は笑い続けた。
しょうがねーな、と私の頭をくしゃくしゃに撫でまわすその小さな手の体温が、とても心地良かった。
落ち着きを取り戻したところで、いつものように始めた食事中。
「ルディアがマレビトだってオレに教えたの、コイツらだから。」
とユーリグに告げられて、慌てて弁解を始めるバルドゥク家の兄弟という珍しいものを見た。
その中で、一緒に過ごすメンバーで一人だけ知らなかったと後で知ったら、彼が傷つくかもしれないと、更にはその時がくれば私はきっとそのことを気にするだろうと、そこまで考えて伝えてくれていたのだと知った。
そして、彼らに教えられるまでも泣く、ユーリグは既に勘付いていたのだと言うことも。
何でも、私みたいに精霊を引き連れてい人間は、この街でなくとも、外の街にもまずいないそうで、その異常性は一目で分ると。
しかもそれが、噂のマレビトと同じような背格好をしているのであれば、小学校に通っているなんていう不自然さにさえ目を瞑れば考えるまでもなく答えは一つだ。
漸く、自分から離す気になってくれて嬉しいよ、とユーリグはそう言って笑った。