第8章 (2)
翌日、新学期の初日。
いぶかしむナイルを放ってまだ日も低いうちに学校へと行った。
まだ街は人通りも疎らで、二人の護衛を付き従えて歩いていても、特に気付かれることも無く、南大路であった様な詰める寄る人にもみくちゃにされるようなことはなかった。
いつもよりかなり早い時間ではあったが幸い、学校は既に開いており、中には問題なく入ることが出来た。
目指したのは教室ではなく、学校の中では教室の次に馴染みある場所だ。
悩みともいえないような悩みを相談できる相手は、その人しか思い当たらなかったのだ。
残念ながら、目的の人物はまだ来ていないようで、仕方が無いので、その部屋の前に座り込んで待つことにした。
「全く、珍しく生徒がいると思ったら君か。」
頭上から多分に呆れを含んだ声が降りてきたのは、早起きの弊害か、待っている間にうつらうつらとし始めていたところだった。
「こんなところで寝てたら危ないだろう?
稀代の精霊使いサマ。」
皮肉気な色を隠そうともしないその声音は、間違いようもなく待ち望んでいた人のものだった。
「――おはようございます、ブラーシェ先生。」
2012/01/18 一部修正