第8章
結局、この日は少し休憩した後、夕闇の雑踏に紛れて隠れるように神殿へと帰った。
神殿では帰りが遅くなったことを心配したナイルが出迎えてくれたけれど、どうやら彼はこうなることを半ば予想していたらしかった。
なにやら、この数日、神殿には見舞いの品が複数届けられていたらしい。
そういえば、祭りの最後はほぼ気を失うように寝てしまっていたのだが、それを精霊を召喚したことによる疲労と解釈するものがちらほらといたらしい。
私の周囲が静かだったのも、それを気遣ってのことらしかった。
更に言うならば、ある意味正式に街に私という存在を知らしめたのだから、もう私が公の場以外で外に出るとは思われていなかったようだ。
にも拘らず、私がほいほいといつものように気ままに外へととでたものだから、街の人々は驚き、結果的に多くの人々が神殿に問い合わせをしてきたそうだ。
そういう手順を踏まず、直接私に声をかけてきた人々はそれと比べればまだ少なかったようだ。
今更ながら、改めてマレビトという存在が与える影響を実感し、眩暈を覚えた。
「それはマレビトだからではなく、貴方だからですよ。
未だかつて伝説とも言われる精霊を、例えその影であったとしても呼び寄せたマレビトは他におりません。
最早あなた自身が水霊アトルディアと並ぶ存在として街では受け止められてしまっているということです。」
私の考えを読み取ったかのように即座に反論してきたのは、当然ナイルで、祭りの日以来何処と無く避けていた話題に言及されれば、私には何も言い返せなかった。
何故、あの時あんなことをしてしまったのかと後悔しても、そもそもどうしてあんなことをしたのか自分でも全く分からないときては、何ともし様がない。