第8章 (1)
祝!連載1周年。
光舞祭を終えて1週間、街は大分元の様相を取り戻しつつあった。
市に立っていた天幕は徐々にその数を減らし、それと前後して観光やら買出しに来ていた旅行者も街を去り、休暇で街に下りてきていた侍女たちも離宮へと帰った。
明日からはほとんどの学校も始まる。遠からず元の町並みに戻ることだろう。
「ああ、やっと狭苦しい寝袋生活から開放だ。」
歓喜の声を上げながらやって来たのはソレムだった。
「ようやく宿が取れたのか?」
聞くのは、一足先に自分の部屋を取り戻していたアルシュだ。
「ああ、ついでだから工房街近くの宿をな。」
よほど嬉しいのか、答える声は弾んでいる。
ここはギルドの3階、いつもの部屋。
本を読むもの、装具の手入れをするもの、仮眠を取る者、皆思い思いに過ごしている。
レグは窓辺に腰掛けて、日向ぼっこをしながら幾分かすっきりとした人通りを見つめている。
左右に揺れる尻尾がとても可愛い。
私はその足元、柔らかいクッションの中に隠れるように床に座り込んでいた。
立ち入り禁止令も解かれたので、明日から始まる学校のために必要なものの買出しに出るついでによってみたのだ。
というか、寧ろ寄らざるを得なくなったというか……。
「おお!ルディ久し振りだな。まさかいるとは思わなかった。」
部屋の片隅に埋もれていたつもりだったのだが、すぐに見つかってしまった。
まあ、この部屋の住人には見つかったところで何の問題も無いのだけれど。
「聞いたぞ、ルディア。光舞祭ではアトルディアを呼び出したらしいな。」
幾度メカになる好奇心いっぱいのその瞳にうんざりしながら、クッションの山に突っ伏した。
「あんなことになるなんて、思ってなかったんですよ……。」
クッションに阻まれてくぐもったその声が、ソレムに届いたかは不明だ。
そう、問題はこれだった。
一部の人しか見なかったとはいえ、神宮大路は最も観光客も多かった場所だ。
一部とは言ってもそれなり以上の数があった。
そして、あの時私は、衣装こそ普段と異なりこそすれ、素顔をそのままさらけ出していたのだ。
お陰で、以前と同じように買い物に出ようと思ったら、以前から私が"マレビト"であると知っていた街の人たちは言うまでも無く、新たにそうと知った人たちにも色々と詰め掛けられたりしていたのだ。
急いで買い物を済ませて慌てて駆け込んだのがここだったという事だ。
元より私がマレビトと知られれば少なからずこうなるだろうことは予想されてはいたのだけれど、流石に私がアトルディアの影まで呼び寄せるとは誰も想像だにしていなかった。
神殿内では一見静かだったこともあって、その影響をしっかり考慮していたかというと微妙なところだ。
護衛はいつもどおりの二人だったのだけれど、手が足りてるとは言いがたかった。
だから、今私はここで休ませてもらいつつ、部屋の外で二人も休憩しているというわけだ。
この部屋の中には良くも悪くも外部の人間は立ち入ることが出来ない。
純粋な好奇心に晒されこそすれ、そこに他意は混じらないこの場所は、私にとっては神殿の次に安心できる場所と言えた。
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。