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マレビト来たりて  作者: 安積
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第7章

離宮前の広場に、街のあちこちへと回っていた神官たちがそれぞれの道を辿り、再び整然と並んでいた。

神宮通りをまっすぐ北上してきた本隊が、最も短い距離を最も長い時間をかけて漸く到着し、それで、最後だった。


広場に、離宮の主たるアカシェの声が響き渡る。

彼の声に合わせ、皆がその手に持つ光を掲げる。

神官たちとともに集った精霊たちも、その動きを止めた。

最後尾に程近い私の位置からは姿は見えないが、アカシェが、何事かを言うのが聞こえた。


その声に合わせ、全ての光がふわりと浮かび上がる。

と、それら全てが一斉に離宮の一点へと収束していく。


そして、収束した光は――


雷を何本も束ねたかのような、或いは多くのSF作品で見られるような宇宙戦艦の砲撃のような、巨大な光の柱となって天へと駆け上った。


圧巻と言えるその光景と共に、広場の周りに詰め掛けていた群衆から歓声が上がった。

人々を包む空気も一気に弛緩したものとなり、これで、祭りが終わったのだとそう告げていた。


けれど、それを見る私の胸には、どこか一点、ぴりとした感覚が残っていた。

アトルディアとの離別のときにも感じていたあの空気の変化。

周囲の人々の反応とはかけ離れたその予感のようなものに、困惑を覚える。

隣に立つナイルも、周りの神官たちも、どこかほっとした空気を纏っていて、彼らにとって重要な祭りはもう終わったのだと感じられるというのに、それなのに。



まだ、終わりではない?


否。


じりじりと緩慢に感じられる時間経過の中で、わずかばかりであった予感は確信へと変わっていた。


まだ、終わりなどではない。



そう思ったとき、一瞬、暑さの滲む夏の空気に、まるで冬の凍てつく空気が差し込んだかのような、そんな感じがした。


予感ではなく、空気が、変わった。


清冽な、先ほどのアトルディアの存在すら霞むような圧倒的な力が、空高く渦巻いているのを、竦む背筋を伝う冷や汗と共に感じ取った。


天から、不可視の魔力が降り注ぐのが感じ取れた。


それは先ほど一斉に放たれた光に呼応するかのように。

降り注ぐと言うよりも、突き刺さる、と言う方が適切な、力の奔流だった。


空を切り裂くように、落ちてきた膨大な魔力が、空気を塗り替える。

光を失い、静かにしていた精霊たちが、歓喜の叫びを上げた。


地上の一点に充満した魔力が、一気に拡散し通り抜ける一瞬、全身の毛穴が収縮し毛が逆立つのが分かった。

それは一瞬で過ぎ去り、後はには、鮮烈な空気だけが残された。


「っはぁ」


止まっていた息を吐き出す。

椅子に縫いとめられた様に動けなかった体は、強張ったままだ。

指先は、色を失うほど強く肘掛を握り締めていた。


たった一瞬で、酷く体が疲れていた。


乱れそうになる呼吸を整える。

幸い、ナイルは気付いていなかったようだ。

いや、他の誰も。

皆、弛緩した祭りの空気に溶け込んでいて、私一人が別の世界にいたのではないかと思うほどの異質さが肌にこびりついて離れないようだった。


誰も、あれを感じていなかったようだ。

あんなに、凄まじかったのに。


けれど、酩酊したかのようにふらふらと漂う精霊の姿に、まるで悪夢の白昼夢のようだった先ほどの出来事が現実であったのだとほっとする。


もう、恐ろしいまでの力は何処にも感じられなかった。


強張った体が、今度こそ解れていく。

急に崩れるように力を抜いた私を気遣うナイルに、大丈夫だと告げ、体を椅子に預けた。


驚くことばかりの数時間だった。

けれど、広場の人々が放つ祭り特有の心地よい余韻の空気が、疲労した心身に染み渡った。

年内最後の更新です。


皆様、良いお年をお迎えください。



※加筆に当たり、分割しました。

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