第7章
そのあまりの存在感に、全ての音が消えた。
けれど、圧倒的過ぎるほどだというのに、ソレは決して私を傷付けはしないと確信できてしまった。
だから、恐慌に陥らずには済んだ。
もしそうでなければ、正気を保てたかどうか定かではない。
柔らかな、声。
その声に、懐かしささえ覚えるというのに、けれど、正しく“私の名前”を呼ぶその人を、私は、知らない。
見上げれば、当然のことながらその腕の主の顔がそこにあった。
柔らかな腕や手からしてそうかとは思ったが、やはりそれは女性だった。
なんというか、“母”という存在を体現しているかのような、そんな雰囲気を持つ女性。
水の精霊を伴い、濃密な水の気配を纏わせているのでなければ、地母神とでも呼ぶに相応しいようなヒトだ。
「……人魚?」
その半身は、御伽噺や神話に出てくるそれを彷彿とさせた。
よくよく見れば、私を抱きとめるその腕も鱗に包まれていた。
異なるところがあるとすれば、ただ綺麗なだけでない、荒々しさも内包していることくらいだろうか。
このヒトに見覚えは無かったけれど、誰であるかは、聞くまでも無く分かった。
蛇もどきと同じ空気を宿した、否、蛇もどきこそがこの人の気配を纏っているのだ。
このヒトは――。
「アトルディア?」
私を守り、私に名を与えてくれた精霊――。