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第7章
背後に迫るその気配に気付いたとき、一気に意識は明確な覚醒状態へと引き上げられた。
冷水をかけられたかのように、酩酊感は消え、地に足が着いた。
恐怖、とは違う。
他の一切の負の感情とも違う。
寧ろそれから感じる感情は温かなものだったけれど、その存在感は自我を取り戻すのに十分すぎるものだった。
誰一人として動くものは無く、しん、と痛いほどに空気は静まり返った。
あれほど瞬いていた精霊たちも、今だけはなりを静めて微動だにしない。
世界が静止してしまったかのようだった。
巨大なプレッシャーを放つ“ソレ”の、音ではない声が、耳を震わせた。
『真帆、可愛い娘――。』
透き通った巨大な腕が、優しく私を抱きとめた。