第7章
私は、ただ輿の上からそういった人々を眺めるだけだ。
凱旋パレードやら何やらの様に沿道の人に手を振るでもなく、基本的には道のその先にある離宮を見つめ、時折道行く人に目を向けた。
通り過ぎる人波のその中に、ふと幾つか見知った顔を見たような気もしたが、単なる気のせいかもしれないと思うくらいには彼我の距離は離れていた。
幻想的な光景も、何時終わるとも知れず長々と続けば飽きても来る。
特に、かつては多くの娯楽に触れていた21世紀初頭の日本人なら尚の事だ。
この世界は地球と比べれば格段に娯楽が少ない。
だから、こういった祭りでも熱気を失わないでいられるのだろう。
似たような光景を見ながら、まるで某所の牛歩のように遅々として進まない行列に、何度目かの欠伸をかみ殺した頃、漸くその違和感に私は気付いた。
飽きてさえいなければ、もっと早くに気付けたかもしれない。
いや、これは一種のアハ体験みたいなものだから、どちらにせよ気付いていなかったかもしれないけれど。
決まりなのか暗黙の了解なのかは知らないが、原則的に神官たちは神殿を出れば口を開くことはない。
まあ、数百人の神官が好き勝手に話しまわっていたら煩くて仕方ないだろうから当然のことかもしれない。
私もその慣例に則り口を閉じていたのだけれど、気付いたことがただの気のせいではないことを確かめたくなって、隣に立つナイルに小さく声をかけた。
無言の集団とはいえ、動いているのだから無音ということはありえない。
衣擦れや足音、騎獣の蹄の音や息遣い、車軸の軋む音などそれなりに音源は溢れている。
けれど、ナイルは唐突に話しかけた私の言葉にすぐに気がつくと、座る私に合わせるように身をかがめた。
自分で声をかけておきながらなんだが、そういった気遣いを見せられるとくだらないことで声をかけたことが微妙に気まずさを齎す。
尤も、何も言わないのもそれはそれで気まずさを増すだけでしかないのだけれど。
「――あの、気のせいかもしれませんが、もしかして精霊の数増えてませんか?」
明らかに、というほどではないけれど、徐々にその光球の数と光量が増してきているように見えるのだ。