第7章
「……疲れた。」
今すぐにでもベッドに飛び込んでしまいたい欲求をどうにか抑えて、柔らかな粗朶に背を預けた。
もちろん、全て終えるのに数人掛りで2時間以上かかった衣装を崩さないようにすることは忘れない。
もしここで着崩してしまって、また最初からやり直しになんてなってしまったら目も当てられない。
今はエメラさんたちも部屋にはいない。
今頃は自身の準備に勤しんでいることだろう。
神事は夜からなのに、どうして朝っぱらから堅苦しい衣装を身にまとうのかと思っていたら、なんと日中にも神事はあったのだ。
こちらの件に関してはナイルは、わざと私に告げなかったらしい。
その判断は正しかったといえるだろう。
事前情報があったならば確かに私は逃走を企てていただろうから。
やはり私はこの世界の神が嫌いだ、いや、憎んでいるといっても過言ではない。
例え、いかな理由があろうとも、私から滝根真帆という日本人、或いは地球人としての生を奪ったに他ならないのだから。
だから、この世界の神を憎む私からすれば、その髪の為の神事に参加せねばならないなど、それこそ拷問にも似た時間だった。
神への感謝と祈りを捧げるとかふざけるな、といった話だ。
尤も、分厚い石造りの聖堂の中はこの夏の日差しの中でも十分に冷えていて、涼をとるには最適だったが。
この神事は、神官長を始めとした神殿のお偉いさんばかりが集うその神事に何故私が出席しなければならなかったのかは謎だ。
ナイルや神官長とはよく顔を合わせるから慣れているが、あまりよく知らないおっさん方の注目を浴びるのは出来れば遠慮したいのだが、この神殿に世話になる限りそうも言えないのだろう。
祈ったからといってその祈りが聞き届けられるわけでもあるまいに、よくもまああんなに真剣になれるものだ。
そう思いながら最初は眺めていたのだが、静寂の中で真摯に祈りを捧げるその姿は、私にさえも厳粛な気持ちを引き起こさせた。
私自身が神が嫌いだからといって、その神を信奉する人々の心まで否定する必要も、権利でさえもきっと存在しないのだ。
しかしながら、私自身が信仰する気は更々無いままだ。
不自然な姿勢のまま、ちょっと休むつもりがいつの間にやらうつらうつらとし始めた頃、私のカッコウよりは控えめだが、普段と比べれば格段に華やかな意匠の神官服を身に纏ったエメラさんが起こしに来てくれた。
負担の大きい姿勢を続けていたため、腕を回すだけであちこちがバキと軋んだ。
エメラさん達が用意してくれた軽いつまむ程度の食事を取ると、彼女達に先導され私は再び聖堂へと向かった。
廊下の窓から差す日は既に傾き、色も濃くなってきていた。